第7話情報屋を仲間にする
昨晩、血を吸われたというのにそれほどの疲労感はなかった。むしろ、体が軽くなったような気がする。
うーんと背をのばす。
「おはよう、ダーリン」
チュッと世羅は僕の頬にキスをする。絶世の美女に寝起きにキスされるなんて幸せだ。世羅が吸血姫だということをのぞけばであるが。
彼女はすでに着替えていた。
この日のファッションはノースリーブのニットにスリムのデニムであった。世羅のプロポーションの良さがよくわかる装いだ。
はっきり言ってめちゃくちゃエロくてかわいい。
「おはよう世羅。今日もかわいいね」
以前の僕なら絶対言わないセリフだが、きっと世羅は喜ぶと思うので言ってみる。予想通りに世羅は満面の笑みとなる。
「世羅がかわいいのは知ってるよ」
世羅は僕を抱きしめる。その体は極上の柔らかさだ。
僕は世羅の髪を撫でながら頼んでみる。
「ある人に会いたいんだけどついてきてくれるかな?」
世羅は一瞬真顔になる。真顔も息をのむほど美しい。おっと見とれている場合ではない。
彼女はその人物が女性ではないかと疑っているのだ。浮気どころかそれをにおわすようなことをしたら、死は確実だ。
デレが反転すれば病みにつながる。
恋愛ゲームの鉄則ではないか。
「情報屋をしている男だよ」
僕の言葉を聞き、また笑顔にもどる。
情報屋が男でよかった。
僕はその男がディアボロスカードを持っているかも知れないと補足する。
「わかったわダーリン」
ということで僕たちはその情報屋の元に向かうことになった。
情報屋のアジトは南の湾岸地区にある倉庫街にある。倉庫街にあるレンガ倉庫を情報屋はアジトにしていた。
世羅の愛車昴300でその倉庫街に向かう。ものの三十分ほどで到着した。
僕が世羅に会うのに情報屋のもとから数日はかかったことを思えば、驚異的な速さだ。まああの時は魔物たちに見つからないように行動していたから仕方ないけどね。
昴300を降り、僕たちはとあるレンガ倉庫の鉄扉の前に立つ。
リズムをつけて鉄扉を叩く。
大きく三回、小さく二回を三回繰り返す。面倒だけど、疑い深い情報屋に会うには必要事項だ。
「坊やか?」
鉄扉の向こうからかすれた声が聞こえる。
「はい、界人です。入れてくれますか?」
「ああっ、入りなよ」
鉄扉がわずかに開く。僕たちはその隙間から中に入る。
「狭いわ、胸がつかえる……」
世羅が苦しそうだ。彼女は巨乳だから仕方ないか。
胸を押さえて世羅は中に入る。
僕たちは奥のテーブルと椅子が置かれているスペースに案内された。
情報屋はカセットコンロで湯をわかし、インスタントコーヒーをいれてくれた。
ほろ苦いコーヒーが頭をすっきりさせてくれる。
「うわっ苦いっ」
べっと舌を出して、世羅は顔をしかめる。そんな仕草もべらぼうにかわいい。
吸血姫はコーヒーが苦手らしい。
「坊や、生きていて何よりだ」
情報屋と握手する。傷だらけの手だった。
情報屋の名前は
「そこのお嬢ちゃんが魔王の一人の吸血姫かい」
情報屋はサングラス越しに世羅の端正な顔を見る。
「そうよ、プラス界人君の
ほほほっと赤い口に手をあてて、世羅は自己紹介する。
あれっ、婚約なんかしたっけ。でもここで否定したら僕も情報屋も彼女に殺されかねない。ここは否定も肯定もせずに笑ってやり過ごそう。
「はははっ、そいつはけっこうなことだ。坊や、かわいい彼女ができてよかったじゃないか」
情報屋は自分用にコーヒーを入れて、一口すする。
僕は幻想皇帝からディアボロスカードを集めれば世界を変えられると言われたことを説明した。
「ああっ、こいつだろう」
情報屋こと左眼寺はジャケットのポケットから漆黒のカードを取り出し、テーブルに置く。
「こいつはヴィネのカードだ。持ち主に探し物の情報を与えてくれる」
左眼寺は言った。
そう言えばエリザベス・ヴィクトリア女王もそんなことを言っていたな。
どういう意味だろうか?
僕は情報屋に持ってきた十枚のディアボロスカードを見せる。
「こいつは豪勢だな」
左眼寺の声が若干裏返る。
「坊や、いいことを教えてやろう。かのカードはな持ち主に不思議な力を与えてくれるんだ。俺が魔物に殺されずにすんだのはこいつを見つけたからだ」
左眼寺は興奮気味に語る。
「わらわには何もなかったわ」
豊かな胸の前で腕をくみ、世羅は言う。
ということは人間だけにこのディアボロスカードは何かしらの能力を与えてくれるということか。異世界から来た吸血姫にはたんなる美麗なカードにしか過ぎないということだろう。
「こいつを譲ってほしいってのは無理な相談かな」
試しに言ってみる。
このカードのおかげで生き延びることができたと左眼寺は言っている。断られるのは間違いないだろう。なら、別の提案をしてみよう。これはそのきっかけだ。
「坊や、そいつは無理な話だ……」
情報屋は首を左右にふる。
「殺して奪っちゃう?」
世羅が赤い瞳に殺気をこめる。
さすがにそれは力技すぎる。
情報屋は僕を信用してアジトに入れてくれたのにそれをそんな形で裏切るのは、嫌すぎる。それに情報屋にはいろいろ世話になったことがある。僕が生き延びることができたのは彼の力が大きいのも 事実だ。
そんな恩人を殺すわけにはいかない。
「情報屋、僕の仲間になってくれないか?」
僕はじっと左眼寺のサングラスの奥の瞳を見る。
「ああっいいぜ、坊や。そいつが正解だ。坊やの仲間になってやろう。これからはボスって呼ばせてもらうぜ」
ニヤリと笑い、左眼寺は右手を差し出す。
僕はその右手を握り返す。
左眼寺義時は僕のファミリーの最初の仲間になった。
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