第22話 推しキャラ

「どうも、今日から零組に編入することになりました。『リオン・アーバンモルト』です。よろしくお願いします」


 リオンが自己紹介を終えると、教室に拍手が響いた。

 特にパチパチとうるさいのはノエルだ。一番前の席でニコニコとしながら手を鳴らしている。


 リオンはザっと零組の教室を眺める。

 男子四名。女子七名。一名は不登校。

 おおよそ好意的な反応をリオンに向けているが、一部からは疑うような目や、思いっきり睨まれたりしている。

 どうか平穏な学生生活を送りたいものである。


「それじゃあ、リオンくんの席は真ん中の後ろね」

「はい」


 担任教師が指さした席へと歩く。

 席に付くと、左隣のカワイイ生徒が声を潜めながら挨拶をくれた。


「私は『アシュリー・サハクィエル』よろしくね。リオンくん」

「よ、よろしく」


 萌え袖から控えめに出した真っ白な手。ほんわかとした緩い笑顔。天使のように柔らかな声。

 リオンの性癖にストライク。思わずドキドキと胸が高鳴ってしまう。


 しかし、間違ってはいけない。

 彼は男子生徒の服を着ているのだ。

 いわゆる男の娘である。


(マジで好きなんだけど……男の子なんだよなぁ……)


 ゲームをプレイしていた時から推しキャラだった。

 彼を恋愛的に攻略できないと知ったときには、血涙を流して『バグだろこれ⁉』と叫んだものだ。


(……ノエルみたいに、女の子になってねぇかな)


 そうしたら告白してるのに――などと考えるとリオンの背筋がゾッとした。

 どこかから殺気が向けられた気がしたのである。


(気のせいか……? まぁ、まさかアシュリーが女の子になってるわけもないよな……)


 あんな謎自称が何度も起こってたまるものか。

 アシュリーは男の子。血迷ってはいけない。リオンは自分に言い聞かせる。


「――おーい。リオンくん聞いてる?」

「あ、すいません。聞いてませんでした」

「ちょっと、君のために説明してるんだから、ちゃんと聞きなさい?」


 リオンがアシュリーへの煩悩を抑えている間、担任が何やら話していたらしい。

 全く聞いていなかった。


 隣ではアシュリーが口に手を当てて、くすりと笑っている。

 どうして、そんな所まで完璧に女の子なんだ。心の中でリオンはつっこむ。

 これ以上は可愛さをアピールしないで欲しい。こっちの心臓が持たない。


 リオンが隣の男子にときめいているとは知らずに、担任教師が話を始めた。


「じゃあ、もう一回だけ話すわね。零組に入って早々で悪いんだけど、来週には特別課外学習が予定されているの。行き先は内緒だけど、心の準備をしておくように。今度は聞いてたわね?」

「分かりました」


 当然ながらリオンは既プレイ勢。

 課外学習のことも、ドコに行くかだって知っている。


(仲の悪い奴らと旅行に行くなんて地獄だし……それまでに多少クラスメイトと交流を深めとくか)


 リオンはのんびりと、クラスメイトとの関わり方について考えていた。

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