第23話 不良って怖い

 朝のホームルーム終了後。

 最初にリオンの机に訪れたのはジーク王子だった。


「やはりお兄ちゃんは零組入りとなったか、歓迎するぞ」

「お兄ちゃんって呼ぶな。歓迎に関してはありがたく受け取っておくよ」

「フハハ! これからは共に励み高めあっていこう」


 バシバシとリオンの背中を叩くジーク王子。

 地味に痛いから止めて欲しい。

 友だちがクラスに編入してきて嬉しいのだろうか。

 いつもよりテンションが高い気がする。


「ッチ!」


 がたん!

 隣席の男子生徒が乱暴に椅子から立ち上がった。

 ツンツンしたこげ茶色の髪。着崩した制服が様になっているヤンキー風の男子だ。

 ギッと肉食獣のような獰猛な目つきでリオン達を睨む。


 リオンとしては内心おっかないのだが、ジーク王子は楽しそうに不良生徒に笑いかけた。


「どうしたヴァルト? お前も仲間に入りたいのか?」


 彼の名は『ヴァルト・アルディーニ』。

 見た目はまさに怖い不良生徒。

 リオンはゲームの経験から、悪い奴じゃないと理解しているが――それでもやっぱり怖い。


「……俺は卑しい平民なんでね。アンタ等みたいなお貴族様とは仲良くなれねぇんだよ」


 ヴァルトは言い捨てると、教室から出ていってしまった。

 もう少しで授業が始まるのだが、彼はサボるつもりなのかもしれない。


 ヴァルトは貴族全般に悪いイメージを持っている。

 ストーリーが進めば改善されるのだが、現時点ではどうしようもない。


「フッ。面白い奴だろう? 親交を深めようと何度か話しかけているのだが、どうにも上手くいかない。まるで猛獣を手懐けている気分だ」

「……そっすね」


 反抗的なヴァルトに、ジーク王子はまんざらでもない。

 ゲームではもうちょっとバチバチした雰囲気だったはずだが……やはり、ノエルにぶん殴られたせいで頭のネジがイカレてしまったらしい。

 ジーク王子がしっかりと王族を全うできるのか心配だ。

 

「あの人……お兄ちゃんに対して失礼じゃない?」


 リオンがジーク王子の今後を心配していると、元凶がやってきた。

 なんだが嫌な予感がする。

 リオンは思わずノエルの肩を掴んだ


「ど、どうしたの急に……あ、もしかして……」


 ノエルは顔を赤くして目をつむった。

 まるでリオンがキスをしようとしているようだ。


「違うから。キスとかじゃないから。お願いだからジーク王子みたいにクラスメイトをおかしくさせないでくれよ? ヴァルトをぶん殴ったりしちゃだめだぞ?」

「わ、わわ分かってるよ……そ、そんな私が誰彼かまわず殴り掛かるみたいに……」

「おい、なんで目が泳いでるんだ……ッ⁉ もしかして、あの坊主もお前が……⁉」

「チ、チガウヨ。ワタシジャナイヨ」


 カタコトになるノエル。

 もはや自白しているようなものである。

 あの坊主頭の裏にそんな秘密が隠されていたとは……リオンはがっくりと肩を落とす。


「あぁ、はいはい。兄妹でじゃれないでくれる。賭けの代金を支払ってい頂きたいんだけど?」


 リオンとノエルの間に割って入ったのはシェリルだった。

 賭けの代金とは、リオンが零組に入るかどうかの賭けだろう。


「俺が負けたから王都でデートするんだっけ?」

「そうよ。忘れてないのは偉いじゃない」

「お兄ちゃん、私もだからね!」


 デート()として食事やら何やらを奢らされるのだろう。

 幸いなことにリオンのポケットマネーには余裕がある。

 学生の遊びに使うお金くらいは問題ないが……二人別々で行くのは面倒だった。


「それ三人で王都に行くので良いか?」

「言いわけ無いでしょう」

「お兄ちゃん。デートの意味知ってる?」


 二人から冷たい目を向けられてしまった。

 別にデートの意味が分からないわけでは無いが、面倒なものは面倒なのだ。


「いや、近場とは言っても王都に行くとなると一日がかりだし……その分だけ高いの奢ってやるから。頼む!」


 リオンが手を合わせて、拝み倒す。

 二人はため息を吐きながらも頷いてくれた。

 

「……はぁ。分かったわ。私はそれで良いわよ」

「仕方ない。余計なのが居るけど、私はお兄ちゃんと一緒に居られればいいから」


 これでデート問題は解決。

 後は現地で女子二人の我がままに付き合うだけだ。


 などと思っていたら、横から残念イケメンが挟まって来た。

 ジーク王子である。


「それで、日程はいつにする? 王都の観光案内なら俺に任せてくれ」

「いや、アンタが付いて来て良いわけないでしょ」

「空気読んでください」

「俺、悲しい」


 メンタル強者なジーク王子でも、正面から断られると傷ついたらしい。

 余裕そうな笑みを浮かべながらも、立ち去る背中は悲し気に見えた。


「まぁ、そのうち男だけで遊びに行こうぜ」

「ふっ、そうだな」


 元気を取り戻していた。

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