第21話 校長

 事件が解決してから数日後。

 リオンは放課後に校長室へと呼び出されていた。

 正直言って、死ぬほど行きたくないが無視をするわけにもいかない。

 リオンは渋々ながら校長室へと向かった。


「失礼します」


 校長室のちょっと豪華な扉を開ける。

 窓から外を眺めていた老人が振り向いた。

 白いひげを生やした白髪のおじいさん。がっしりとした肩幅を見るに年老いてもトレーニングは欠かしていないことが分かる。


 彼が『シュベルト学園』の校長だ。

 校長の衰えを感じさせない鋭い眼光がリオンを睨む。


「よく来たなリオンくん。かけたまえ」

「失礼します」


 勧められるまま、リオンはソファーに座った。

 校長は戸棚を漁ると、中からクッキーを取り出した。箱を見るに王都で人気の菓子店の物だ。

 自ら入れた紅茶と共にリオンへと出した。


「食べなさい。私が隠している間食だ。他の先生に見つかると、学校にお菓子を持ち込むなと怒られてしまう」

「い、頂きます」

 

 どうやら校長の隠しオヤツらしい。

 さっさと食べて証拠隠滅したほうが良いのだろう。

 リオンは遠慮なくクッキーを頂く。


「リオンくんのことは、改めて調べさせてもらった。ローゼンベルク殿に弟子入りしていたことは分かっていたが……ずいぶんと活躍していたようだな」

「まぁ、ぼちぼちです」


 リオンは前世の知識を活かした発明品をいくつか売り出している。

 しかし、それらは表向きは師匠である『ダイン・ローゼンベルグ』が開発したことになっていた。

 ダインは弟子の手柄を横取りするようで嫌がっていたが、夜の店に通っていることを材料に脅し――納得して貰っている。

 このため、魔導技師としてのリオンは世間一般には名前が知られていない。


「実験と称して、街を壊したことが数回。街道沿いに出現した魔物を討伐した回数は数知れず。しかも、どれも強力な魔法を撃ったような痕跡が残されていた。間違いはないか?」

「まぁ、そっすね」

「だが、これらの情報は学校側には届いていなかった。なぜなら、領内で隠蔽されていたからだ……なぜ隠したのかね」


 街を壊したのはともかく、魔物を討伐したのは武勇伝である。

 領地の後継ぎとしては隠す理由もない。

 校長は純粋に不思議で聞いているのだろう。


「あんまり、目立ちたくなくて……」


 平穏なモブ人生のためである。

 下手に目立ってストーリーを崩せば、今後の展開がどうなるか分からない。

 だからストーリーの進行中は、モブとして学園生活を生き抜くつもりだった。


「目立ちたくない……? うーむ……」


 校長は腕を組んで考え込んでしまった。

 設定によると校長は元軍人。戦場では何度も武勲を立てたらしい。

 そんな人だから、功績を隠すリオンの気持ちは理解できないのだろう。


「……私は教育者として、出来る限り生徒の望みは聞き入れたい。しかし、リオンくんの『目立ちたくない』という望みは叶えられそうにない」

「……と言いますと?」

「方々と協議した結果。リオンくんには零組に入ってもらうことになった。他の生徒たちに納得してもらうために、先日の討伐結果も公表することになるだろう」


 残念ながら賭けはリオンの負けだった。

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