第14話 イカれてらぁ
「それで、零組の方はどうだったんだ?」
入学式があった日の夕飯時。
リオンとノエルは寮の食堂にやって来ていた。
食堂はビュッフェ形式であり、リオン達はすでに食事の用意を終えて席に付いていた。
「それが、いきなり学園の地下に連れて行かれて。ダンジョンを攻略しろとか言われたんだよ?」
ノエルは不満そうにパスタをくるくると巻いている。
もっとも、いきなりそんな命令をされては不満に思って当たり前だろう。
「あぁ、なんか学園の地下には古い遺跡が広がってるらしいな。なんでダンジョンを攻略するんだ?」
「さぁ……先生に聞いてもはぐらかされちゃって詳しくは教えて貰えなかった。なんだか定期的にノルマが出されるから、その分だけ攻略しないと駄目なんだって」
「ふーん」
リオンはその辺の話はゲームで知っている。
それよりも、クラスメイトとの仲に付いて聞きたい。
「クラスメイトはどうなんだ? 良い人そうだったか?」
「それが……変な人に付きまとわれちゃって……」
「変な人?」
零組の生徒は個性豊かなはずだが、変な人と評される人物に心当たりがない。
リオンが首をかしげると、ノエルが口を開いた。
「男子なんだけどさ。最初は失礼な人だったんだ。私に『弱い奴は後ろに下がってろ』とか言ってきて」
「ほぉ……」
本来ならばゲーム開始時点のノエルは弱いはずだった。
しかし、今のノエルはリオンがメイドに鍛えられたのに触発されて、同じようにメイドから訓練を受けていた。
おかげさまでリオンが素手では勝てないほどに、ノエルは強くなっている。
そんなノエルが『弱い』と評されたら、ちょっとイラっとするのも仕方ないだろう。
「しかもずっと『俺様は――』って自分語りしてきてうるさいし。まるで私があの人を好きになって当然みたいに言ってきて気持悪かったんだよ?」
どうやら我が強く、俺様系のナルシストのようだ。
この時点でキャラの特定は済んでいる。
彼の生い立ちの都合上、そんな性格になっても仕方がない。
実際にモテるはずだし。
「しかも、私の頭を撫でようとして来たんだ。私を撫でて良いのはお兄ちゃんだけなのに!!」
「いや、そんな特権貰った覚えが無いんだが……」
ノエルは彼のことが気に入らないようだ。
しかし、相手は国のお偉いさん。なんとか仲良くやって貰いたいものである。
「それで気持ち悪くて――殴っちゃった……」
「王子様を殴っちゃったのぉ⁉」
リオンの叫びが食堂に響いた。
ヤバいとばかりにリオンは頭を下げる。
「お兄ちゃん、相手の人に気づいてたの?」
「ま、まぁ、零組は人少ないし、なんとなくな」
リオンは冷や汗をかいていた。
ノエルがぶん殴った相手は、レーツェル王国の王子『ジーク・レーツェル』だ。
これは下手しなくても不敬罪。最悪の場合はノエルが国外追放されてしまう。
主人公が国外追放とかどうなってんねん。
「その人は怒らせるとヤバいから、後でお兄ちゃんと謝りに行こう!」
「たぶん、怒ってはないよ……」
「いやいや、なにを根拠に――」
「ああ、ここに居たのか」
そう声をかけてきたのは、輝くような金髪のイケメン。
もの凄く目立っている。
周りの生徒はざわざわと騒ぎながら、イケメンに視線を集中。
それもそのはず、この金髪イケメンこそが。
「ジーク様……」
まさに件の王子様だったからだ。
ジークはリオンの隣に座ると、不敵な笑みを浮かべてノエルを見詰めた。
不細工がやったら不審者だが、イケメンがやると映えるのだからズルいモノである。
しかし、熱い視線を向けられたノエルは迷惑そうにリオンを見詰めた。
助けて欲しいらしい。
仕方がないのでリオンも助け船を出してみる。
「あのぉ、ジーク様はどうしてこちらに? あまり食堂は利用されないものだと思っていたのですけど……」
高位の貴族は食堂を使うのを嫌がる。
現在では食堂は貴族でない生徒も利用するため、階級意識が根付いた者ほど利用を避けるためだ。
まさかそのトップである王子様が食堂を利用するとは思わなかった。
ゲームでも序盤の内は食堂にやって来ることは無かったはずだ。
「なに、少しノエルと話がしたくてな……俺を思いっきり殴って来る奴なんて今まで居なかった。こんなに面白い女は他に居ない」
ノエル。まさかの『面白れぇ女』扱いである。
なんか乙女ゲールートに入ってない?
「お兄ちゃん。気持ち悪いでしょう?」
「いや、これノエルのせいじゃないのか。お前が王子様の頭ぶっ壊しちゃったんだよ。これイカれてるもん」
「俺を壊れてると評するとは……さては、お前も『面白いお兄ちゃん』だな?」
「ダメだコイツ……」
そうして、なぜか王子様と仲良くなったリオン達だった。
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