第11話 クラス分け

「なぁ、そろそろ離してくれないか?」

「ダメ。お兄ちゃんに変な虫が寄ると危ないから」

「それお兄ちゃんのセリフじゃないか?」


 列車を降りた二人は無事に学園へと到着した。

 しかし、周囲からの視線がビシビシと突き刺さる。

 理由は分かってる。ノエルがリオンの腕に抱きついたままだから。

 男子からは嫉妬の、女子からは楽しそうな視線が発射されていた。


 何度か自然な動作で腕をほどこうとしたのだが、全てノエルに流されてしまった。

 こうなっては、リオンは現状を受け入れ、ノエルが満足するまでおとなしくするしかない。


「あれ、なんだか人が集まってるね?」

「あそこでクラスを確認するんだろう。俺たちも行こうか」


 野外に設置された掲示板。

 その周囲に人だかりができていた。

 これはゲームでも見た光景だ。あの掲示板にクラス分けの書かれた紙が貼ってある。

 リオン達は人だかりに入り込むと、自分たちの名前を探した。


 ちなみに、現代のシュベルト学園は全ての人に門戸を開いている。

 しかし貴族の子女が通うという習わしがあるように、元は貴族たちが通うための学校。

 クラス分けや授業内容に関しては、貴族と平民で別になっている。 


(俺は二組か……ゲームと変わらないな。そうなると、ノエルも変わらず――)

「あ、あれ? 私の名前が無いよ?」


 キョロキョロとクラス分けの紙を見回していたノエル。

 しかし自分の名前が見つからないと、不安そうにリオンを見上げてきた。

 普段はヤバい言動が見え隠れするが、こうしていれば可愛い妹だ。

 リオンは思わずノエルの頭を撫でながら、空いた手で掲示板を指さした。


「向こうに小さい紙が見える。念のため確認してみよう」

「分かった……」


 紙を覗くと、クラス名には『零組』と書かれていた。

 所属生徒の欄には十二名の名前が書かれている。

 その中にはノエルも含まれていた。


「なんだか、特別なクラスみたいだな」

「うー、お兄ちゃんと同じクラスが良かったなぁ……」

「こればっかりは運だから仕方ないだろう?」


 ノエルが零組に配属されたことを話すと、周りの生徒がざわざわと騒ぎ出した。

 なにせ零組の生徒欄には、『王子様』やら『大企業の社長令嬢』やらの、豪華な名前が書かれている。

 そんなクラスに配属されたノエルは興味を寄せる格好の的だ。


(そういえば、ゲームでも囲まれそうになって逃げ出してたっけ)


 生徒たちがわらわらと、リオン達の周りに集まる。

 包囲して質問攻めでも始めるつもりだろう。

 王子様は囲めないが、ただの美少女であるノエルなら問題ない。


 そこまでして事情を聞きたいのかとも思うが、なにせ零組は人材の宝庫だ。

 なんとかして滑り込むことが出来れば、今後の人生で役に立つ人脈を手に入れられる。

 ただのクラス分け。されどクラス分けなのである。


「ちょっと良いか。どうして君は零組に――」


 しかし、彼らの話に付き合っている暇はない。

 入学式が始まってしまうのだから。


「少し急いだほうが良さそうだな」

「ひゃ⁉ お兄ちゃん⁉」


 リオンはノエルを抱き上げた。お姫様抱っこだ。

 ノエルは恥ずかしそうにしながらも、しっかりとリオンの首に腕を回していた。

 意外とノリノリである。


「お前らも、早く行かないと遅れるぞ!」


 ドン!!

 リオンの足元で小さな爆発。

 その勢いを利用して高くジャンプしたリオンは、野次馬の壁を飛び越えた。

 そのまま入学式が行われる講堂へと走り出した。


「えへへ。なんだか駆け落ちしてるみたいだね」


 リオンの胸元で溶けたような笑みを浮かべるノエル。

 どうやら彼女の頭の中では、妄想が爆発しているらしい。

 『新婚旅行』『新居』『子供の名前は』などと、ドリームな独り言が漏れている。


 リオンはそれを聞かないようにしながら、無心で足を動かしていた。

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