第6話 死亡フラグ

 リオンがダインの元に弟子入りしてから、一年が経過したころ。

 アーバンモルト家の屋敷にリオンの高笑いが響いていた。


「ナハハハハ!! このまま一生分の金が稼げるかもしれないなぁ!?」


 テーブルの上には、山のように積まれた金貨。

 両親から貰ったお小遣いではない。

 リオンが自分自身で稼いだお金だ。


 ダインに弟子入りした後、しばらくの間は基礎的な知識を憶えるために、ダインの魔道具製造を手伝っていた。

 しかし、ある程度の知識を憶えた後。

 リオンは前世の知識を利用して、この時代では革新的な魔道具を作成。

 作ったものは掃除機とドライヤー。

 これらが貴族や商家を中心に売れて、リオンの元に大きな利益をもたらしていた。


 稼いだお金を見てニヤついているリオン。

 そんな姿を見て、メイドが不思議そうに首をかしげていた。  


「そもそも、リオン様はアーバンモルト家の次期当主です。そもそも生活には困らないのでは?」

「……まぁ、そうなんだけどな」


 リオンはアーバンモルト家の次期当主。

 順調にいけば、自身で稼がなくても生活に困ることは無い。


 しかし、リオンは知っている。

 もしもゲームのストーリー通りにいけば、リオンは妹であるノエルに殺される。

 現状では問題ないように感じるが、もしもの時は国外への逃亡も考えなければならない。

 このお金は、その時の資金となる予定だ。


「ただ、旅に出るようなこともあるかもしれん。その時には金が必要になるだろう?」

「はぁ……馬鹿なことを言わないでください。リオン様が居なくなったら、誰がこの家を継ぐんですか?」


 現状ではアーバンモルト家を継げるのはリオンだけだ。

 残念ながら、ノエルは血が繋がっていないため家を継げない。

 しかし、ゲームでは国を救った英雄としての功績が認められて、アーバンモルト家を継ぐことになっていた。

 なんだかんだ、リオンが居なくてもなんとかなるだろう。


「ほら、ノエルも居るし俺が居なくても――」

「お兄ちゃん?」


 がちゃりと扉を開けて入って来たのはノエルだった。

 腰まで伸ばした髪が、さらさらと揺れている。


「旅に出るとか聞こえたけど……冗談だよね?」


 ノエルはにこりと微笑んでいるが、目が笑っていない。

 見開かれた目は、瞳孔までガン開き。

 まるでリオンを試すように、ジッと見つめている。

 たぶん怒っている。

 返答を間違ったら刺されそうなヤバい雰囲気だ。

 

「お兄ちゃんは私とずっと一緒に居るんだよね? どこにも行ったりしないよね?」

「あ、当たり前だろ? ちょっとした冗談だから……だから包丁を下ろして……」

「ノエル様は包丁なんて持っていません。正気に戻ってください」


 ぽかりとメイドに頭を叩かれる。

 頭の中に居た血まみれのノエルが消え去る。

 だが、目の前のノエルは不審そうにリオンを見つめていた。

 まだ疑われているようだ。


「そうだ! ちょっと買い物にでも行かないか? 好きな物を買ってやるから」

「え? ううん。別に買って欲しい物はないけど……」


 ノエルは物を買ってあげようとしても遠慮することが多い。

 だが、おしゃれに目覚めてきた女の子なのだから、服飾の類はあるだけ良いだろう。

 リオンはノエルの頭に手を置くと、サラリとした髪を撫でる。


「遠慮するな。俺がノエルと一緒に遊びに行きたいだけなんだ。付き合ってもらうお礼に、何かプレゼントさせてくれ」

「えへへ……じゃあ、お出かけしよっか」


 ノエルは機嫌を直したように、リオンの腕に抱きついてきた。

 なんとか包丁エンドは回避できたようである。

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