兄を振り向かせたい妹ちゃん

ゴミ捨て場

あにいも

私、鈴城舞香には心に決めた人がいる。

その人の名は、鈴城 悠。そう、私のお兄ちゃんである。

兄は私が小学生の頃、クラスのいじわるなこたちからいじめを受けていた私をいつも守ってくれていた。兄は私のヒーローだった。

私はその頃からずっと兄のことが好きだった。

この気持ちはずっと隠しながら生きてきたでも、歳を重ねる度に、兄は私から離れていく。別に仲が悪くなったわけじゃない。でも成長するにつれ、お互い話すことも少なくなり、いざ話そうとしても。なかなか上手く話せなくって。

そんなモヤモヤした日々を続けながらいつの間にか私は高校生になっていた。私はもう我慢できない!

このままでは私の気持ちが爆発してしまう。その前に早く、兄を私に振り向かせないと…。



私と兄は同じ高校に通っている、もちろん私が兄と一緒にいるために同じ高校に入ったのだ。

「いってきまーす」

兄はいつも私より20分くらい早く出ていく。

男子は準備が楽そうでいーなー。おっとそんな事言ってる場合じゃない。

私も早く行かなくちゃ!


登校ルートにて兄を発見。作戦開始す。



「お、おはよう!」

「おはよう。って舞香か。」

「あは、あは、き、奇遇だね、お、お兄ちゃん…」

「…?そうだな」

や、やばい緊張して、上手く話せない…。

お兄ちゃんは私の事など気にする風でもなくブラブラと歩いている。


「誰かと待ち合わせでもしてるのか」

「ち、違うよ、そうじゃない!私がお兄ちゃんに…」

「ん、もしかしてなにか忘れ物してたか俺」

「だから、そうじゃなくって、わたしが、ってわあああ!」

すってーん。段差に転んでしまった…


「…なにやってんだお前?ほら立てるか?」

お兄ちゃんが私に手を差し出す。私はお兄ちゃんの手を取って立ち上がる。

「あー、足、派手に怪我してるな、豪快に転んだからなあ…。痛むだろう舞香。仕方ない、おんぶして学校まで送るか」

そういってお兄ちゃんは私をおんぶしようとする。


「…え?ちょ、ちょっとまっ」

戸惑う私も気にせず、お兄ちゃんは私を背中にのせた、そう、おんぶしてしまったのだ。

「よし、行くか」


「あ…、あ…あああっ…」

お、お兄ちゃんが私を、おんぶしてる…。ひぁあ、お兄ちゃんの、手、手がわたしの、脚に…。


お兄ちゃんの感触に耐えきれ無くなった私は思わず飛び降りた。脚が痛んだ気がしたがきっと気の所為だろう。

「どうした?舞香」

「ひ、あ、あ、あ。あああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ」


そして私は、一目散に逃げ出した。


気づけば、学校にたどり着いてしまっていた。

ああもう私のバカバカバカバカバカバカバカ!せっかくのチャンスだったのになにやってるの!

こんなことではお兄ちゃんに私の気持ちに気づいてもらえないよ!

ああ、でも…

「お兄ちゃんの身体、暖かかったなぁ…」

などと考えながら私は学校に入った。



昼休み


お兄ちゃんを求めてお兄ちゃんのクラスにやって来たものの、お兄ちゃんは居なかった。

クラスの人によると、いつも図書室にいるらしかった。


そういえば、いつも見かけないなーとは思っていたが、いつも図書室にいたんだ。

私は図書室へ向かう。


図書室


図書室の一角でお兄ちゃんが本を読んでいる姿が見えた。

「よし、お兄ちゃん発見」

周りにも特に誰もいない、絶好のチャンスだ。

私はそーっとお兄ちゃんに近づく。

すると、お兄ちゃんが私に気づき声をかけてきた

「ん、舞香か。珍しいなお前がこんな所にいるなんて」

「え、えぇと私も何か読もうかな〜って」

「そうか」

「…ね、ねぇ、お兄ちゃん。隣座ってもいい?」

「ん?席ならたくさん空いてるだろう。俺が近くに居たら邪魔なんじゃないか?」

「そんなことないよっ、それに、私がここで読みたい気分なのっ。だからお兄ちゃんも気にしないでっ」

「そうか?、ならいいんだが」

ホッ…、なんとか隣に座れた。

「そういえば、脚はもう大丈夫か?」

「うん、ちゃんと保健室で診てもらったから」

「それはよかった。急に走り出すんだから心配したぞ」

「あー、あれね、じ、実は今日日直当番だったの思い出して、それで急いでたのあはあは」

もちろん嘘である。

はー、でも図書室って静かでいいなあ、こんなゆったりした場所でお兄ちゃんといられるなんて最高…。

ボーッと室内を見ていると、私の左肩が重くなった。

「え…?」

見るとお兄ちゃんが眠っていた。私の左肩に身体と顔を預けていた。

「あわわわわわ」

お兄ちゃんの身体を感じてソワソワして何も手につかない。

でも、でも、幸せ…。

昼休みが終わるまで私はこの幸せな時間の中にいた。


放課後


午後はずっと昼休みの幸せを噛み締めていた。あんなにお兄ちゃんと一緒にいられたのはいつぶりだろう。

しかし幸せを噛み締めている場合ではない。

そう、私の目的はお兄ちゃんに振り向いてもらうことである。

そのためには、まず、私の気持ちをはっきり伝えなきゃいけない。

そう、お兄ちゃんに『告白』、するんだ…。

うぅ、考えただけで緊張してきた…。怖いよう。

でも、このままじゃあいつまで経っても何も変えられない。やらなきゃ。


下校中のお兄ちゃんを見つけた。

「お兄ちゃん!」

「ん?舞香か、どうした?」

「ちょっと、こっち来て!」

「お、おい引っ張るなよ〜」

私はお兄ちゃんの手を引っ張って、人通りの少ない場所へと走った。


「はぁ、どうしたんだお前…急に」

「…聞いて、お兄ちゃん。大事な話があるの。凄く、凄く、真面目な話なの。」

「お、おぅ。」

お兄ちゃんの目をまっすぐに見据える。

緊張が極限に達した。

好きって言う。好きっていうんだ。

言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ

「…わ、私、お兄ちゃんの、ことが…、その…、す、す、…。好き。です。」

いっ、言った…!とうとう言っちゃったあああああああ…!

そして、お兄ちゃんはというと、口を開けてポカーンとしていた。

「……舞香。ソレは、"そういう意味"で言っているのか?」

私は頷いた。

「言ったでしょ、真面目な話だって。…私、本気だよ?ほんとにお兄ちゃんの事が好きなの」

お兄ちゃんは、そうか。と言い、首を捻る。

そして、お兄ちゃんは言った。

「…悪い。舞香。俺は、お前の気持ちには応えてあげられない。」

「」

……………………………………………。

私はその言葉を聞いた瞬間何も見えなくなっていた。

気づいたら走り出していた。ただひたすら走った、なにかから逃げるように。

涙が止まらなくなっていた。自分が何をしているのか分からなかった。自分が何処にいるのかもわからなかった。

気付けば街の片隅でフラフラとさ迷っていた。

「………。」


本当はきっと気づいていた。分かっていた。でも認めたくなかった。

私がどれだけ思っていても、兄と妹が結ばれるなんてありえないことだと。

だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんで、私は、妹…。

それに、兄には兄の世界があるのだ。兄にも好きな人がいて、彼女がいて。そしてそこには私の姿はない。

でも、どうして、どうして駄目なの。ただ好きになったのがお兄ちゃんってだけなのに、なんでそれだけの事が許されないの。

おかしいよこんな世界。


私は全てが、どうでもよくなってきていた。

お兄ちゃんと一緒になれない世界なんて…。

もうどうでもいい。

フラフラ歩いていると、ドンッと肩になにかが当たる。

「あぁ?なんだァてめェ…」

しょーもないヤンキーかなにかだろう、私は無視した。

しかし。ガッと腕を掴まれる。

「おおいおいおいオイ!シカトですかァ!この俺様に向かってスルーキメちゃいますかぁー?…ナメてんじゃねーぞこのクソアマ!」

壁に投げつけられる私。

さらにコイツの手下と思われる男共が集まってくる。

「ん?よく見たら可愛い顔してんじゃあねーの?へぇーこいつァいい…。」

ああ、私はここまでか。

私はこのままこいつらに犯されて汚されていくのだろうか。でももうそんなことすらどうでもよい。

もうどうにでもなっちゃえばいい…。


男の手が私に触れようとしたその瞬間。

その男は吹っ飛んだ。

「え…」

なにがおこったの…

リーダーと思わしきその男は、その一瞬で伸びていた。

そして、振り返ると、そこには兄の姿があった。

「おにぃ、ちゃん…」

「な、なんだこいつは!俺たちに刃向かってタダで済むと思ってんのかァ!」

「申し訳ないが、あんたらが何者かには興味が無い。だが、うちの大切な妹に危害を加えるつもりなら、…容赦はしない」

そしてお兄ちゃんは何人ものヤンキーたちを次々と吹っ飛ばした。お兄ちゃんにかなう者は誰もいなかった。

その姿は、小さい頃、私をずっと守ってくれていた、あの時と同じ。昔から何も変わることのない、私のヒーローそのものだった…。


「ふぅ…。さ、帰るか」

お兄ちゃんは私をおんぶした。

「…悪かったな、さっきは。俺も少し動揺してたんだ。でも、お前の心を傷つけてしまったよな。…ごめんな。」

「…ううん。お兄ちゃんは悪くないよ。私が勝手にお兄ちゃんを好きになっちゃっただけだもん」

私はそのまま言葉を続けた、うちから湧き上がってくる感情をおもいのままに。

「私ね、お兄ちゃんのことが好き、大好きなの。小さい頃からずっとこの感情を隠して生きてきた。でもね、もう限界だった。…私ね、本当はお兄ちゃんには誰のものにもなって欲しくない、ずっと私だけのお兄ちゃんでいて欲しいって、ずっと思ってた。ずっとそんな事ばっかり考えてた。ふふっ、私悪い子だよね」

「……」

「いるんでしょ、お兄ちゃんにも。好きな人とか、か、彼女とか」

しかし、兄はそんな私の言葉に対し、首を横に振った。

「いないよ。そんなの。おれは好きな人もいなければ、今まで彼女のひとりもいたことは無い」

「…え?」

「自分でも不思議だと思う。学校にも女の子はたくさんいるが、なぜかな、そういう気持ちには一切ならないんだ。」

「でも、じゃあなんで…、って、あ、そうか、私は、妹、だから…」

「いや、そうじゃない。そうじゃあないんだ。…舞香、俺はな、本気で人を好きになる。という気持ちが、まだよく分からないんだ。この場合は、恋とか愛するとでも言えばいいのか。だから。さっき言った、お前の気持ちに応えてあげられない。という言葉は真実だ。俺はお前に、お前と同じ意味での「好き」という言葉を、今はかけてあげられない。だから、さっきの答えは、保留ってことで、いいか?……すまない、お前が勇気を振り絞ってここまでしてくれたのに」

………………。

私はてっきり、他に好きな人がいる、とか。兄妹だから一緒にはなれない、とか。そんなことを言われるのだと思っていた。

でも、兄の答えは、私の予想していたものとは大きく違っていた。

それが、その言葉が、本当なら、まだ、私にも…

死にかけていた私の気持ちが、大きく息を吹き返していく。

「ううん、私こそゴメンなさい。私、勝手に早とちりして、勝手に落ち込んでた…。でも、今の言葉が本当なら、まだ、私にもチャンスはあるってことだよね!!」

「まぁ、そうなるな。なに、お前が心配しなくても、考えてみれば俺の身近な女性なんて舞香くらいしかいないよ」

「ふふ、それなら。いつかお兄ちゃんの方から、私に好きって言われてあげるから。みててね、お兄ちゃん」

「…ああ」

「ねぇねぇ、これからは毎日一緒に学校いこーよ!あ、あとお兄ちゃんいつもお昼休み図書室にいるでしょ?私も一緒に隣に座っていい?一緒に本読もう!」

「…そうだな、それも楽しそうだ」

「やった〜♪」

2人で話しながら夕焼けが映し出す道を進む。

私はお兄ちゃんの背中から降りる

「どうした、舞香」

「お兄ちゃん、ちょっと目閉じて?」

「…?ああわかった」

お兄ちゃんが目を閉じた。

ちゅっ

私はお兄ちゃんの口にキスをした。

「…………」

「ふふっ、ファーストキス、お兄ちゃんにあげちゃった♡」

きっと、お兄ちゃんも同じ…。

って、うわああああああああああああああああああああああ、なんか勢いでキスしちゃったよおおおおおおおおおおおおおおお…!やばい、む、胸がドキドキして、止まらない…。

…………………………。

…お兄ちゃんの顔を見ると、真っ赤に染まっているように見えるのは、きっと、夕日のせい、だよね。


「お兄ちゃん、おんぶして」

お兄ちゃんは黙ったまま、私をおんぶした。


……。

今はまだ、兄と妹。

お兄ちゃんに気持ちを伝えはしたけど、まだ

、ただの兄と妹だ。

今はそれでいい。きっとそれだけでも幸せ。

でも、いつかきっと、振り向かせてみせるからね!覚悟してよね、お兄ちゃん!

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兄を振り向かせたい妹ちゃん ゴミ捨て場 @yunofa9

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