其の六 ハーピー、漁船を襲う。
「……そんなわけで、あたしは〈
オレはかつて
その煩い生物は、こともあろうに今、オレの左肩に乗っている。身長一フィート足らずであるから、さほど重さは感じない。だが、
小さな妖精、ヴィヴィは早口で長広舌をふるった。オレはというと、森を疾走する
オレは「ほう」とだけ、相づちをうった。肯定するでもなく否定するでもない曖昧な調子で。というのも、オレは前方を駆ける影に気をとられていたのだ。
ベリルは、蜘蛛の巣から救出されたヴィヴィから「漁船が座礁して難儀している」という話を聞くやいなや、またしても自分の
焦燥感に駆られているようでもあり、義務感に
*
漠然とした疑問を抱えながらも手綱を繰り、暗い森を走り続けていると突然に視界が開けた。
森の樹々が途切れた先、
ベリルは素早く乗騎から大地に降り立ち、断崖の縁から大海原を見下ろした。ヴィヴィもオレの肩から優雅に飛んで、今度は鍔の広いベリルの帽子に降り立った。オレも鞍上から恐る恐る眼下に目をやるが、海面まで少なくとも七十フィートはありそうだ。
ゴクリと喉が鳴った。我知らず生唾を飲み下したようである。背筋にゾクリと震えが走った――そう。何を隠そうオレは、高所が少々苦手なのである。
「この場所ですか、ヴィヴィ。難破船はどこに!?」
「座礁といっても岩場に乗り上げている感じだったから、たいして船体は壊れてないかも……ホラ、あそこよ」
そういってヴィヴィが指差す方を見れば、陸地の近くに海面から顔を出す岩場があって、浅瀬に引っ掛かった
「「ハーピー!!」」
ヴィヴィとベリルが同時に、悲鳴のような大声を上げた。
「
その怪物の噂は耳にしたことはあったが、実際に見るのは初めてだ。ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ!とけたたましい奇声を上げる、半人半鳥の奇怪な姿。上半身は
「あのモノたちの唄う〈歌〉に気をつけてください! 意志の弱い者は
「ワケのわかんない〈
そうなのだ。やつらの声には、
漁船を救い出すというのは、この怪物どもを何とかすることも含まれるのだろうし――ならば、面倒ではあるが、いたしかたあるまい。
オレは鞍上から大地へ飛び降りると、斧嘴鳥に背負わせた装備の中から、
海風が吹きつける断崖の上から、怪物が舞い飛ぶ海原を見下ろす。あまりの高さに瞬間身がすくむが、意識を空飛ぶハーピーへと集中してやり過ごす。オレは半弓を引きしぼり、比較的近くを飛ぶ一羽に狙いを定めた。おそらくまだ我らの存在を気づかれてはいまい。不意打ちの上、高所から矢弾を射るという地の利もある。
今だ。ぶん。ひょう。ぎゃあ!
オレの射た矢は強風でわずかに狙いを逸れたが、大きな翼には命中して、ハーピーは悲鳴とも怒声ともつかない声をあげた。
その奇声が開戦の合図だった。
崖上に新たな獲物の影を見てとったハーピーたちは、風に翼をはためかせ、次々と上昇してきたのだ。
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