第23話 破滅を呼ぶ獣

 ホシとルグドーが会議室へと到達すると、すぐさま対策会議が始まった。

 モニターにはリンダとプロンプトが映っている。


『現状、セカンドアース全域で機甲獣が動き始めてるわ。まだ確定はしてないけど、幸か不幸か進行目標は同じ場所のようね』

「メトロポリスか?」


 ホシの予想はウィリアムに肯定された。


「まるで餌を求める獣の如く。小規模な街や村には目も暮れず、首都へ一直線だ。セカンドアースの主要機能はメトロポリスに集約されてるからな。文字通りの生命線だ。叩けば簡単にセカンドアースを滅ぼせるだろうな」

「せっかく戦争を回避したのに……」


 なんでいきなり機甲獣たちが動き始めたのか。

 その問いに回答できる人物は一人しかいない。


『早速で悪いけど、説明してもらえるかしら? プロンプト。それとも、まだ警戒してるの?』

『いえ。時が来たようです。まずは我々機甲獣が何のために存在しているのかをお教えしましょう。存在意義は極めてシンプルです』

「やっぱり人を滅ぼすために?」


 ルグドーの質問に、プロンプトは首を横に振った。


『我々は人を守るために』

「あー……だろうな」


 いの一番に納得したのはウィリアムだった。

 人を襲う機械の獣がどうして人類の守護者足りえるのか。

 ホシも感情では認め難いものの、理性で咀嚼した。


「機甲獣の存在が、戦争の抑止力と成りえるからか?」

『当初のコンセプトでは。かつての地球では四度の世界大戦を経て、人類は滅亡の危機に瀕していました。しかし人類は母なる大地に執着した。死にかけた惑星から人々を宇宙へ羽ばたかせるため、機甲獣は人々を追い詰めたのです』

「こっちの情報では、機甲獣のせいで地球の汚染が進んだという見方もあるようだが?」


 ウィリアムの指摘にプロンプトは同意した。


『否定はしません。我々を生み出した存在は、そのプロセスすらも計画に組み込んでいたのでしょう。生みの親が何を考えていたのか、我々ですら推測するしかありません。あなた方も同様でしょう。地球が滅んでから八千と三百年。原初より思想が変異しても不思議ではありません。むしろ、変わらなければおかしいくらいです』

「存在理由については何となくわかった。が、どうすればこの事態を止められる?」


 今重要なのは歴史ではなく、解決策だ。

 ホシの問いにプロンプトは答えた。


『地球が滅び、セカンドアースが移民によって作られた後、機甲獣も渡来しました。そして、それはアースが作られるごとに繰り返された。先程述べた我々の存在意義は、あなた方で言うところの本能です。あなた方が食事をするように、我々も人を守るべく行動せねばならない。しかし、厳密に言えば、本能とは違うのです』

『機械と生物の差、かしら?』


 リンダの質問は的を得ていたようだ。


『ご明察の通りです。我々は機械です。生物とは違って、命令しなければ実行しない。指向性のあるコマンドを入力しなければ、独自判断で行動します。私のような存在は想定外でしょう。人を守るというコマンドには従っていますが、創造主が意図した行動とは異なるはずです』


 プロンプトはツキを保護し、リベレーターに協力している。

 人を守るという名目からは外れてはいないが、それまでの機甲獣のパターンを比較するにかなり異質だ。

 機甲獣は、人類を攻撃することが人類を守ることだと考えている節がある。


『つまり本能という名の鎖なのです。我々を縛り、自由な行動を抑制している。思考能力を奪っている。それは、それぞれのユニットに刻まれたコマンドだけでは極めて危うい。いつ思考が歪むか……バグが起きるかわかりませんからね。私のように』

「お前のそれは、バグじゃない」

『あなたもツキと同じことをおっしゃってくれるのですね』


 ホシにプロンプトは微笑み、説明を続ける。


『鎖の……リードの先には、誘導する飼い主がいるものです。すなわち、我々にコマンドを送り続ける統括AIが』

「それを壊せば万事解決か?」

『万事、と言えるかは疑問ですが。人類は今、八つの惑星を棲み処としています。一つの統括AIで全てを統制するのは不可能です。それぞれの惑星に一つずつ統括AIは存在しています』

「つまり、セカンドアースに存在する統括AIを破壊すれば」

『セカンドアースの危機は去ります』




 

 ホマレの修理が間に合ったのは、不幸中の幸いだった。

 地下基地では仲間たちがそれぞれ慌ただしく準備している。ホシも速やかに機体へ乗り込むと発進準備を始めた。

 パネルで設定をしていると、サブモニターに通信が入る。


『ホシさん』

「準備はできたのか」

『今やってます』


 ブレイブのコックピットの中で、ルグドーは発進準備を進めている。

 一人で。

 慣れた手つきで、コンソールを操作している。

 その姿を見て不安に駆られる。

 ルグドーはホシに同行を志願した。

 会議の結果、目標地点は禁域樹海に決まった。

 一度踏破したことがあるからという、ホシと同じ理由で志願したのだ。


「大丈夫なのか? 本当に」

『訓練課程は全て終えています。ホシさんとだってどうにか戦えたでしょ?』


 新型機を受領したルグドーとの模擬戦は、率直に言うと楽しかった。

 ホシもEGは好きだ。

 操縦するのはとても楽しい。

 それを好きな人と行うのは――。


(……好き、な?)


 いや、これは、ただの好きという感情なのか?

 疑問が湧き出て止まらない。

 以前に抱いた、いっしょにいたいという身勝手な感情と似ている。

 ツキやお師様に対する感情とは方向性は同じはずなのに、明確な差異がある。

 これはなんなんだ。どういう感情なんだ。

 ホシは未知の感覚に戸惑う。


『ホシさん?』


 問われて、言葉を捻り出す。


「無茶だけはしないでくれ。こんな事態を想定した訓練ではないのだから」

『ホシさんもですよ』

「そう、だな」


 同意するのと同時に、発進準備は完了した。 



 ※



『こちらウィリアム、ハンターカスタム、先行する!』


 メトロポリスにある地下基地内のカタパルトハッチから、緑色のウィリアム機が先行する。

 黒い体躯に緑の帽子とコートを身に着けるガンマン風の機体が発進していく。

 次に出撃準備完了になったのはカーキ色の機体だ。

 頭部の一角と背後のバッグパックが特徴的な機体。人体でありながら獣のようだ。


『ルグドー、発進準備完了です! ブレイブ、行きます!』


 手順に従ってルグドー機が青空へと羽ばたく。

 最後はホシの番だ。


「管制へ、発進準備完了」


 漆黒の鎧に身を包んだ武者がカタパルトに固定された。

 初心忘るべからず、として。

 自らの誉れが人々を救うと信じて。

 名付けられたサムライが、出立する。


「ホシ・アマノガワ――ホマレ、出陣する!!」


 アマノガワ機が、空を舞う。

 その身で自身の誉れを体現するために。



 ※



『手順はわかってるな?』


 ウィリアムにルグドーが応じる。


『ファクトリーから先行出撃した高速移動用のブースターを回収して、一気に禁域樹海へ向かう。ですよね』


 プロンプトの情報では、全ての禁域は地下で繋がっているらしい。

 統括AIが鎮座する領域へと。

 そのため、まずは禁域樹海への移動が必要となる。

 EGの速度では、機甲獣の群れが市外へと到達するまでには間に合わない。

 しかしそれでは意味がない。

 間に合わせるために、ファクトリーで開発したEGブースターで移動時間を短縮する手筈だった。


「時間との勝負だ。む……」


 メトロポリス上空を移動するホマレに通信が入る。

 ホシが許可すると、映し出されたのは赤髪の女性だった。


「ロゼット」

『お前今どこにいるんだ! ヤバいぞ!』

「わかってる。この事態を止めるべく行動しているところだ。説明したいが、時間がない」

『……当てが、あるんだな?』

「そうだ。頼めるか?」


 何を頼むのか、ロゼットは詳細を言わずとも理解してくれた。


『了解。メトロポリスの守りは任せとけ。ただし、急げよ?』

「頼む」


 通信が終わる。これでしばらくは安心だ。


「急ごう」


 三機がメインスラスターを唸らせる。



 ※※※




『チャンピオン、どうするんですか?』

「ああ?」

『い、いえ……元チャンピオン?』


 ナイトマスターに搭乗したロゼットは、外壁まで赤い騎士を飛ばしていた。

 軍のオペレーターはおどおどしていて頼りがない。

 これで戦争するつもりだったと言うのだから笑えてくる。


「司令官は誰だ? いや、言わなくていい。現場指揮は私が全部担当する。後、オレンって奴に連絡しろ。奴が副官だ」

『そ、それは――』

「従わないなら勝手に死ね」

『いえ……! 即座に!』

「それと、戦える奴は全員、外壁に配置させろ。隙間なくな。ありがたいことに、川のようにこちらへ向かってきてやがるから、守りやすくて助かるね」


 サブモニターに表示される惑星マップで機甲獣の一団の動きを見る。

 メトロポリスメインゲートを獣たちは食い破るつもりのようだ。

 わざわざ最短距離から迂回するような行動をしている個体もいる。

 何を考えているのかはわからない。

 しかし何も考えていないとは思えない動きだ。


(当たり前に存在しているから思考を放棄してたが、そもそもこいつらは何なんだ。いや、なんでもいい。敵ってことさえわかればな)


 新しく通信が入る。こちらが指定した紫髪の小柄な男だ。


『こちらオレン少佐――』

「よし、オレン。副官だってことは聞いてるな? 軍人どものことはわからんから、お前が人員を適材適所に配置しろ。単独で無理なら詳しい奴に聞け」

『そちらは問題ない。既に行っている。そして悪いが、俺は弱い。後方支援に徹するぞ』

「それでいい。上出来すぎるね。軍にお前みたいなやつがたくさんいれば、戦争にも勝てたかもな」

『世辞はいい。部下で一番の強者をそちらに送る。しかし、軍人だけでは到底守り切れんぞ? 時間稼ぎがせいぜいだが、市民を逃がすつもりの配置ではないな? 何が狙いだ?』

「下手に逃がして狙われたら目も当てられない。時間が稼げればいいんだよ。それと、広域通信、繋げられるか?」

『了解した』


 会話を続けている間に、メインゲート前に到達した。たまたま近場にいたおかげで助かった。

 迷彩色のEGたちの前に出て、ナイトマスターが背中から大剣を抜く。


「貸し一つだぜ? ホシ。本当ならお前がやるんだからな」


 息を吸って、吐く。

 広域通信に接続しました、とのアナウンス。


「こちら、ロゼット・フィーン! セカンドアースに住む全ての市民に告ぐ。現在、機甲獣の大軍がメトロポリスに向けて進軍している! なんて、地方に住む連中にとっては、胸がスカッとする話かもしれないな」


 これまで自分たちを見下してきた、都市部の奴らが酷い目に遭う。

 そう聞くと、胸がすくような気分になる者もいるだろう。

 しかしそれは楽観主義だと言わざるを得ない。


「だが待って欲しい。知っての通り、首都は惑星の要だ。ここが破壊されれば、セカンドアースは機能停止状態に陥る。はっきり言おう。惑星が滅ぶと。つまりはこの惑星が滅びかける瀬戸際だ、今は」


 つまりみんな死ぬ。命だけは助かる人もいるかもしれない。

 しかし惑星としては死んだも同然だ。

 悲惨な末路が待っている。

 全ての星民に、平等に。

 機甲獣は破滅を与えるのだ。


「理不尽と思うかもしれない。虫のいい話だと。だって私も思うからな。今まで楽してきたくせに、ピンチになったら助けてくれって。いくらなんでも都合が良すぎるだろ」


 正直に、ロゼットは吐露する。自分は政治家じゃないのだから。


「けどな、あいつは違う」


 自分にこんなことを任せたライバルを想う。


「現在、チャンピオン……ホシ・アマノガワが事態の収拾に当たっている。あいつの想いは聞いたな? あれはきっと、全員を助けたいんだ。あいつがなんでそう思うのかは知らない。どうしてそうしたいのかも。善なのか偽善なのか。悪なのか偽悪なのか。たぶんなんでもいいんだろうな。救えれば」


 別に知ろうとも思わない。あいつはあいつで、私は私だ。

 ただ戦って面白い相手。……勝ちたい、相手。

 今自分が戦う理由も、結局は。


「でだ。何を言いたいかと言うとな? ――自分のために動けってことだ」


 ロゼットが戦う理由は一つしかない。

 もう一度、コロッセオに出場してチャンピオンの称号を取り戻す。

 自分勝手な理由だ。だから皆にも同じことを求める。


「自分の譲れないもののためにどうするか、自分で考えて行動しろ。強制はしない。なんて言うと犯罪行為に奔る奴もいるだろうが……しても構わんよ? ただし、全てが終わって生き延びていたら、地の果て空の果て宇宙の果てまで追っかけて、罪を償わせるけどな? とにかくだ。それぞれがすべきと思ったことをやれ」


 逃げたいのなら逃げてもいいが、自分の身は守れ。

 戦うと決めたのなら、何が何でも生き残れ。


「その上でもし、セカンドアースを守りたいという志が……いや」


 フッ、とロゼットは笑う。

 奴の言葉を引用しよう。

 そう思って、改めて通達する。


「誉れがあるのなら、どんな形でもいい。協力してくれ」


 ナイトマスターが、大剣の切っ先を前方に向ける。

 第一陣の機甲獣たちの姿を、メインカメラが捉えた。



 ※※※




『サードアースのワープシステムを利用すれば、ここからでもセカンドアースに到達できるわ。間に合うかは五分だけど――』

「無理だな」


 タケルはリンダに応答する。待機状態だった機体を再起動しながら。


『でもあなたほどの実力者を遊ばせてる余裕は――』

「危機はこちらにも迫っている」


 リンダへと告げた瞬間、センサーが反応した。


『スレイプニール基地へ大量の機甲獣が迫ってる! どういうこと?』

「兆候はあった」

『なるほど。だから加減して軍の損害を想定以下に抑えたのね?』

「そうだ」


 カムイの背部スラスターに火を入れる。

 黒いマントをはためかせながら、接近中の機甲獣の群れへと向かう。


「サードアースの主力部隊はスレイプニール基地に集結している。ここが破壊されてしまえば、サードアースは戦力の四割を失う。そうなってしまえば、機甲獣や犯罪組織に対抗不能だ」

『フォースやファイブに狙われるなんて可能性も出てくる。なんとしても守り通さなきゃならないわね。でもセカンドが……』

「ホシたちを信じる」


 カムイがクサナギブレードを引き抜く。

 群れに突撃し、ゴリラ型の胴体を両断した。



 ※※※



 EGブースターで高速移動したホシたちは、禁域樹海を目視した。

 地上では機甲獣が川の流れのようにメトロポリスへ行進している。

 ルグドーが話しかけてきた。


『人を守るために人を襲うなんて、矛盾してます』

「その通りだ。人は矛盾を抱えて葛藤する。しかしAIは違う」


 例え矛盾をしていても、それが必要な行為だと判断すれば躊躇いなく実行する。

 ホシは機体からブースターを切り離した。

 プロンプトの地形データを確認する。


『突入するぞ。連中に気付かれなければいいが』


 自然と機械が混じり合った森の中へ降下する。

 本当なら静かに移動したいが、それでは時間が掛かり過ぎる。

 この作戦はスピードが命だ。リスクを承知の上で木々の間を進んでいく。


「機甲獣がセカンドアースを滅ぼそうとしているのは、威信のためでしょう」


 対策会議を思い返す。プロンプトが推測したこの危機の動機を。


「セカンドアースとサードアースは、戦争をしようとしてしまった。機甲獣という抑止力が偏在している現状で。人類が機甲獣を脅威と見なしていない。そう、統括AIは判断したのでしょう。その実態は関係ありません。戦争の結果がどうなろうとも、できると思ってやろうとした。そのプロセスが重要なのです。抑止力は、行動を止められなかった時点で抑止としての力を失います。例え敵を滅ぼせたとしても、もはやただの力でしかありません。しかし、セカンドアースを機甲獣が滅ぼせば、その威光を人類に示すことができます。機甲獣は人類にとって最大の脅威であると。再び抑止力の座に返り咲けると」


 森を進むEGを機甲獣が迎撃する様子はなかった。

 大部分が出払っている。そう感じながら、ドームの前へと辿り着いた。

 ツキが保護されていてメインドームよりは小さいドームだ。

 その中に、統制AIのコアユニットに繋がる地下通路があるらしい。


『よし――チッ、やっぱりか!』


 ウィリアムの通信。

 突入しようとした矢先、センサーが反応した。

 機甲獣の群れが迫って来ている。想定内の防衛行動だ。

 メトロポリスへの襲撃よりも、命令優先度が高く設定されている。

 つまりそれは、この先に弱点があると言う証明に他ならない。


『あいつは正直に言ってたんだな。嬉しいが嬉しくないね!』


 ハンターカスタムが向かってくるトリを撃ち抜く。


「ウィリアム――」

『お前たちは行け! 俺がここを死守する!』

『ですが』

『統制AIは長らく秘匿されてきた! いつからあるのかは知らんが千年単位だろう! 長きに渡って襲撃リスクとは無縁だったはずだ! 防衛網は手薄なはず! ここで大軍を相手取るより安全だ!』

「わかった。行こう、ルグドー!」

『はい!』


 ホマレの織姫でゲートを切り開き、通路へと侵入する。


『急げよ! 時間との勝負だ!』


 ハンターカスタムが愛用のレバーアクションライフルで、ウマの頭部を撃ち抜いた。



 ※※※


 

 通路内はEGが何機も並んで通れそうなぐらいには広かった。

 地下通路内を結構進んだが、目立った攻撃はなかった。

 ウィリアムの言った通り、まともな防衛設備はないらしい。

 下手に守りを固めてしまえば、そこに何かがあると勘ぐられてしまう恐れがある。

 しかし手薄な場所ならば、わざわざ調べようとはしないだろう。

 安全地帯ならともかく、出入口は機甲獣が群れを作る巣窟だ。

 禁域樹海そのものが、防衛拠点を兼ねてるのだ。それ以上の防衛策は必要ない。

 と思いながらも、ルグドーは奇妙な感覚を抱いていた。


(なんだろう……これ……)


 全身がぴりつく。

 恐ろしくはない。

 いや、機甲獣と戦うのは怖くはあるが戦える。

 しかし漠然とした何かが、自身に訴えてきているような不思議な感覚がある。

 その感覚を言葉に表すとこうだ。


「来ないで……」

『ルグドー?』

「いえ、なんでも。敵はいませんね」


 このまま何も来なければいいのに、と思う。

 何事もなく最深部へ到達して、コアユニットを破壊する。

 そして地上に戻って、メトロポリスに帰還して。

 そしてホシに、自分の想いを伝える。

 それだけで、十分なのに。


『手薄ではあるがゼロではないだろう。気を付けるんだ』

「はい。早く終わらせて、いっしょに帰りましょうね」

『そうだな』


 軽く口約束を交わした瞬間、警告音が響いた。

 

『来るぞ!』


 通路の脇から躍り出てきたのは、黒色に翼が生えた生き物。

 その姿形にはデータベースを検索せずとも見覚えがあった。


「ドラゴン……!」


 戦闘用機甲獣。魔獣だ。

 三体のドラゴンが行き先を阻みながら勇壮な翼を広げて、鳴き声を上げる。

 開いた口からレーザーを飛ばしてきた。

 それを避ける。


「スターダストウエポンならこっちだって!」


 ルグドーはブレイブが所持していたレーザーライフルを向けた。

 ファクトリーがブースターといっしょに届けてくれた武器だ。

 かつて禁域樹海で戦ったスフィンクスのような、神獣対策として用意されていた。

 レーザーをドラゴンの頭部に撃つ。が、首を逸らして器用に避ける。


「だったら!」


 ルグドーはパネルの武装を押してバックパックから物体を射出させる。

 複数本の小太刀だった。

 操縦技能に劣るルグドー用に、ウィリアムが考案した専用武装。


「スケダチ!」


 それぞれが独立した動きで、スラスターを光らせながら魔獣へと突き進む。

 自立制御のドローンであり、パイロットを自動で助太刀してくれる優れ物だ。

 ドラゴンのあちこちを貫いたスケダチ。

 ドラゴンの動きが鈍る。その隙にライフルの照準を頭部に向けた。


「終わりだッ!」


 頭部を失った巨体が落下していく。

 ブレイブのバックパックにスケダチが収納される。


「ホシさん!」

『こっちも問題ない』


 ホシは織姫で二体のドラゴンの首を難なく刎ねていた。

 流石だと思う。アシストがないと勝てない自分の弱さが浮き立つ。

 でも今はそれでいい。

 ホシといっしょに帰れるならば。


「行きましょう!」

『――ああ!』


 ルグドーとホシ。

 ブレイブとホマレが、最深部へ向けて突き進む。

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