夢の中にいる

よるがた

夢の中にいる

 供 述 調 書

本籍 ■■■■■■■■■■■■■■■■■

住所 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

電話■■■-■■■■-■■■■

氏名 松伊田 ■弘

平成■■年■■月■■日生(■■歳)


上記の者に対する 殺人 被疑事件につき、平成■■年■■月■■日

■■県■■警察署 において、本職は、あらかじめ被疑者に対し、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。



1 私じゃないんです。本当です。アイツが、名前はわかんないんですけどアイツがやったんです。私が知ってることを話します。


2 私は小さいころからよく見る夢があるんです。

いや、関係あるんです。夢を見る頻度は一,二ヶ月に一回くらいで、謎の空間に一人ポツンと居続ける夢なんです。

野球場くらいの広さがあって、大きな結晶みたいな壁で囲まれた空間で、外にも出れなくて、物も全然なくて、真ん中にベットがあるくらいで、誰もいないんです。


特にやることもないのに何故かこの空間であったことは起きた後も結構覚えてるんで、夢を見た時は考え事をしたり、なにか小説とかを考えたりしてるんですけど、自分が主人公の。

それで二ヶ月くらい前に、ずっと俺一人だけだったあの夢にアイツが現れたんです。


その、真っ黒い人型の影に顔だけが浮いている、ちょうどジブリのカオナシみたいなやつです。仮面はつけてなくて中年の男の顔で、ずっと無表情なんです。


アイツはあの空間にいる間ずっと離れた場所から私のことを目で追ってくるんです。今までずっと一人だった空間に別の何かがいるだけで気持ち悪くて、すごいストレスで。

この夢は起きても忘れられないし、睡眠時間と同じくらいこの夢の中に閉じ込められてる感じなんです。アイツが現れてからは、毎日同じ夢を見るようになって、私不眠症になっちゃって。寝れないとぼーっとするし辛くて、けど寝てもアイツがいるし、もう頭がおかしくなりそう。いや、おかしくなってたと思います。

仕事でもミスして病院行けとか言われるし、もうアイツが出てきてからなんも上手くいかなくなっちゃって。


3 ある日あの夢を見た時、いつもは目を合わせるだけで怖かったアイツを一発殴ってやろうと思ったんです。

「何で俺がこんな目に!ぶん殴ってやるんだ!」って思いながらアイツのとこまで走りました。なのにアイツに近づくにつれ怒りの感情が上書きされるみたいにどんどん恐怖が湧いてくるんです。近づいて初めて気づいたんですけどアイツは二メートルくらいあって、ホント、怖いんです。

でも「俺はコイツのせいで人生をめちゃくちゃにされかかっているんだ」って、「夢なんかに怯えてる場合じゃない」って思ってグッと拳を握りました。

すると手の中に異物感があるんです、それで手を見ると包丁を握ってました。


何故?とは思いましたけど、夢の中ですし私の思いがカタチになったんだと思いました。私は包丁を持ち直してアイツに思いっきり刃を突き立てました。

ドブッと包丁が飲み込まれて、手がヌルヌルとして気持ちの悪い感触を覚えてます。見上げるとアイツは笑ってました。


4 夢から覚めると部屋にアイツがいました。

部屋の隅に立ってたんです。刺された時と同じ張り付いたような笑顔で私のこと見てました。状況が理解できずに固まってると、アイツの手に握られた包丁が目に入りました。見た瞬間「殺される!」と思って外に飛び出しました。


警察に言った方がいいのか、というかあんな化物信じてくれるんだろうか。と思ってると四、五十メートルくらい先の道にアイツがいるのを見つけました。私を殺そうと思って追ってきたのかと思ったんですが、夢の中と同じで動きませんでした。アイツの近くを人が歩いているのも見えました。アイツは私以外の人には見えてないみたいでした。


その日は人のいる所に居たくてインターネットカフェに泊まりました。

インターネットカフェへ行く道中も、泊まっている間もアイツは遠くから私のことを見ていました。次の日も次の日もです。


5 数日経って気づいたんですけど、アイツ少しずつ私との距離を詰めてきてたんです。距離が詰まりきったら私のこと殺すつもりなんだと思いました。

それまでは怯える私の様子を見て楽しむつもりなのかもしれないって、

アイツずっと笑って私のこと見てたし。


毎日気味の悪いやつの不気味な笑顔が気持ち悪くて仕方なかったんですけど、私とアイツとの距離が二メートルにまで縮まったころには、夢の中で抱いた感情が蘇ってきました。

「なんでコイツは俺に執着するんだ」とか「こんなやつに不幸にされてたまるか!」とか思って。


5 それで私、少し腕を伸ばせばアイツに触れるくらいにまでなったあの日。家にあった包丁で夢の中でやったみたいにアイツをぶっ刺したんです。


それで、気付いたら道端に立ってて、それで、目の前に知らない人がうずくまってて、血だらけで、さっきアイツに刺した包丁が手に握られてて、何がなんだかわからなくて逃げちゃって、あの救急車とか呼べばよかったんですけどその時わかんなくて。


それで家に帰ってずっと怖くて、ビックリして包丁その場に置いてきちゃいましたし、「捕まるのかな」とか「俺がやったのかな」とか「いやそんなわけない」とかずっと考えてたら警察の人がきて。


だから、私じゃないんです。コイツがやったんだと思うんです。

アイツが悪いんですよ!

アイツ、アイツどこ行きやがった!また殺してやる!

次こそ俺がぶっ殺してやる!出て来いよクソが!

(松伊田が暴れたため警官に抑えられる)



以上のとおり録取して読み聞かせた上、閲覧させたところ誤りのないこと申し立て、各葉の欄外に指印した上、末尾に署名指印した。


   前同日


             ■■県■■警察署

             司法警察員

             巡査 ■■ ■■



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夢の中にいる よるがた @yorugata-aratame

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