プール

水中我慢比べ

 どこにでもある二十五メートルの屋内プール。ここのは少し屋内の明かりが暗く、そのせいか泳いでいると気分までどんよりしてくる。でも水の中に潜ってしまうとそんな気分もどこかへ飛んでいってしまうのだから不思議なものだ。

 いつもプールに入ると底に座ってみたくなるのだが、これがなかなか難しい。深く潜ろうとしても浮力のようなもので水面へと押されてしまう。その力に負けじとさらに腕と足で力強く水をかく。何度も押し返され、それでも同じように水をかいてプールの底を目指す。すぐそこにあるのに、足が触れているのに体全体で目指そうとすると、これがなかなか難しい。

 それでもなんとかたどり着くと、今度はそこにとどまり続けるのが難しい。やはり上へ上へと力が働き、浮かされてしまう。ようやく体育座りをしてみてもそのまんま水面へと押し上げられる。はたから見ると無様というか滑稽だ。

 やがて体力が限界を迎え、水面へ顔を出し大きくプハッと息を吐く。

 水の浮力との我慢比べ。でもこの馬鹿馬鹿しい我慢比べでイライラすることはない。普段は些細なことでイライラして「なにくそ!」と意地になってさらにイライラが募ったりするのに、この水中我慢くらべで「チクショー」となったことはないのだ。

 不思議なものだ。

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