第2話 再び来た越谷桃子。

結局越谷桃子は千代田春輝の所には行かなかった。

千代田春輝からは「越谷さんだったんだよね?来なかったし、公園にはいなかったよ」と翌朝電話があった。


俺は本気で千代田春輝の元を目指して遭難したと思っていた。


高三の終わりに、皆で高校生活を思い出してしゃべっていた時、クラスメイトの高柳始に「くそー、俺の青春はどこだー」と面白半分に言うと、「え?岩渕はそういうの何かないの?」と聞かれて、「何もねーよ」と返すと「ほら、女の子から呼び出されるとか」と聞かれた。


「あっても、他人の家に行きたくて遭難したから来てくれって奴しかねーよ」と漏らして、中学の時の同級生だった越谷桃子の話をしたら、「え?それって岩渕を呼び出す建前…」と言われて、「ねーよ。なら普通に呼んでくれ。俺はイリゾニアで魔王退治に勤しんでいた。決戦中にブランドがヤラれて、カイン頼みだったんだ」と返す。


だがその後の、高柳始の「それって岩渕が鈍感で…、その子は不器用で…じゃないの?」と言った言葉が妙に気になって頭に残っていた。

俺はそのモヤモヤを、高卒時の同窓会で出くわした越谷桃子に聞いてみた。


「なあ、2年前。春輝の所に行かなかったの?俺はキチンと春輝に電話をしておいたんだぜ?」と話しかけたら、「うるさい」と怒鳴られた。


その越谷桃子が今更バッチリメイクで俺の前に現れた。

もしかして何かあるのかも知れないが、やはり訳がわからない。

用があるならキチンと言って欲しい。



バイト先では「何だったんですかね、この間のあの女?」と皆が言っていた。

俺でチェンジが止まった事で、皆俺に聞いてくるが「もしかしたら同級生です」とは言えずに、「わかんね」としか言えなかった。


まあバッチリメイクの越谷桃子にはかつての面影はない。

逆に言えば化粧の恐ろしさを見た。

キチンとやれば越谷桃子もあんなに綺麗になる。

心底化粧すごいと思っていた。



だがそれから何日経っても何もない。


何だったんだあれは?

罰ゲームか何かで、バッチリメイクで俺が出るまでチェンジをして、ケーキセットを食って来いと言うものだったのだろうか?

とりあえず24歳にもなって何をやっているんだろう。


皆の記憶から越谷桃子のことが抜けたある日、また越谷桃子が来た。


バッチリメイクではないがキチンと化粧をしていて、年相応の可愛らしさで学生時代の雰囲気はない。


俺はさっさと諦めて、越谷桃子が奇行に走り、周りがこの前の女と気付く前にテーブルに案内をすると、水を置いて「ご注文は?」と聞く。

久しぶりだというのに、越谷桃子は睨みつけてきて「ケーキセット」と言った。


俺は最大限気遣って「お客様…は越谷…だよな?なにキレてんの?この前もだけど、なんかやらされてんのか?嫌なら断った方がいいぞ?」と言うと、顔を赤くした越谷桃子は「この前は久しぶりもない!連絡もしてこない!こうしてまた来たらやらされてるのか?何よそれ!」と怒鳴ってきた。


「お客様、落ち着いて」

「なら何でこの前は無視したのよ?答えて」


俺は店長様が出てこないように皆に「平気」と、アイコンタクトとジェスチャーで説明しながら、「…あんなに化粧されたらわかんねぇって。今日は辛うじてわかったけど変わり過ぎ」と説明したら、数秒固まって「…………はぁ?わかんなかったの?」と言われる。


俺は胸を張って「無理、俺は髪型ひとつで人がわからなくなる」と言うと、キレ顔は即座に呆れ顔に変わる。


「嘘でしょ?」

「マジ話」


「じゃあ連絡くれなかったのは?」

「…わざわざ家電に「お前店来たか?」なんてするわけないだろ?」


「メアド…」

「知らね」


「ケータイ…」

「知らね」


「メッセージアプリ…」

「知らね。逆に俺の知ってる?」


俺の返しに盛大なため息を吐いた越谷桃子は、「とりあえずケーキセット。剛が持ってきてよね」と言って話を終わらせる。


俺は店長様達に「昔の知り合いで、なんか久し振りの挨拶がないとかブチギレてました」と説明してケーキセットを用意すると、越谷桃子の元に持って行く。


「えー、ご注文は以上ですか?」

「以上よ。はいこれ」


俺は紙ナプキンに赤いペンで書かれた電話番号とメアド、メッセージアプリのIDを渡される。


「なにこれ?越谷の?」

「そうよ。仕事終わったら連絡して。絶対だからね」


俺がわかったと返事をして仕事に戻ると、ケーキを食べた越谷桃子はさっさと帰って行った。

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