第3話 (最終話)鈍感男と不器用女のはじまり。

仕事が終わり、電話をワン切りして「今のが俺の番号」とメールを送り、「仕事終わった」とメッセージをすると、すぐに「今から会える?」と聞かれたので、「構わないけど」と返して、場所を聞くと駅前のファーストフード店を指定された。


店に入ると越谷桃子は既にいて、俺はコーラ片手に着席をすると、挨拶代わりに「どしたん?春輝の家でも行くか?」と聞く。

越谷桃子はそんな俺を見て「アンタって本当ムカつく」と言った。


「何がだよ。意味わかんねぇ」

「はぁ?あの日は呼んでも来ないのに今日は来るし」


「あの日は魔王退治が忙しかったからな」

「……は?」


「ブランドがやられて大変だったんだ。イリゾニアってRPG知らね?」

「知ってるけど…」


「俺は受験勉強とか言って3年の時にゲーム機封印させられたから、高校入学と同時にゲーマーに復活転生したんだ。あの日は忙しかった」

「…それで今日来たのはゲームが終わったから?」


「別にあの日だって、越谷が馬鹿しなきゃ良かっただけだろ?」

「馬鹿?」


俺はあの日を思い出すように「春輝に用事があるなら春輝を呼んでくれ。俺を間に挟むな」と言うと、「本気で言ってる?」と聞き返された。


「本気に決まってるだろ?越谷だって俺と春輝のやり取りに混ぜられたら困るだろ?」

「……悪かったわよ」


俺は「わかってくれてよかった」と言いコーラで喉を潤す。


「で、何の用?」と俺が聞くと、越谷桃子は真っ赤になって「アンタ…わかんないの?」と聞いてくる。


「自覚はないけど、コレってのならある。高校の友達で高柳って奴なんだけど、ソイツに言わせると俺は鈍感で越谷は不器用らしい。ちなみにソイツに言われるまでわからなかった」


俺の返しに「不器用?」と聞き返す越谷桃子。


「不器用だろう?用事もない春輝の名前を出すくらいだからな」


ここで俺が気付いていると察した越谷桃子は、「アンタ…わかんないフリ?」と聞き返してくる。


「鈍感らしいし今も自信ねーし」

「…ないの?」


「ねーって、会社無くなってフリーターになった男と、垢抜けてバッチリ化粧すると見違えて、誰だかわからなくなる不器用な女だぞ?」


顔を赤くして盛大なため息を吐いた越谷桃子は、面白くなさそうに「付き合ってよ」と言う。

俺が即答で「おう。よろしくな」と返すと、唖然とした越谷桃子は「こんなアッサリと…」と漏らす。


「嫌だった?」

「嫌じゃないわよ」


赤い顔で嬉しさを隠すように言う越谷桃子に、「それは良かった」と返して俺はにひひと笑う。


「で、剛に彼女がいたことは?」

「ねーよ」


「じゃああの日は?」

「普通に呼ばれてたらOKしてただろうな。まあゲーム優先でキレられてたかもな」


「と…遠回りしただけ?」

「だな。不器用って大変だな」


「鈍感ほどじゃないわ」

「鈍感は大変なことにも気付かないんだなコレが」


越谷桃子は「くっ」と言ってから席を立つと、「これで帰るとか嫌だから散歩付き合って。手を繋いで」と言った。


俺は「おう」と言って外に出ると、越谷桃子と手を繋ぐ。


まあ何というかまさか彼女ができるとは、しかもそれが越谷桃子だとは…。

まあ人生を50年で考えたら、ここらで彼女がいないと困るし、良いかなと思うことにした。


それにしても横を歩く越谷桃子は真っ赤だな。

面白いから揶揄おうと思い、腰に手を回したら真っ赤な顔で「心の準備が出来てない!」と言いながら腹をぶん殴ってきた。


凶暴な奴だ。

だが悪くない。

これは面白い。


「えぇ?じゃあキスしねーの?」と聞くと、真っ赤な顔を更に赤くしてビクッとした越谷桃子は、「えぇ!?心の準備…」と言ってくるので、「まあコーラ味で良ければだけどな」と続ける。


それでも「心の準備」と言うので、「仕方ない。じゃあ次は来年だ」と言って話を終えると、「ら!?ららら…来年!?」と言う。今はまだ6月。あと半年もあるので越谷桃子は大慌てだ。


面白い。

本当に面白い。

これは色々楽しめそうだ。

まあちょうどフリーターなのだから、コレを機に人生設計をやり直そうと思った。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る