第4話

 それから俺は様々な世界に転移していった。本当にいろんな世界があった。

 現代地球に似た、しかし世界中でテロが絶えない世界があった。俺は軍に入ってテロリストと戦い、最終的に世界統一政府を作って初代世界大統領になった。転移回数は減った。


 巨大なハチが支配している世界があった。スキルで会話はできるが思考体系が違いすぎて言葉はわかるのに話は一切通じなかった。ただ、俺はおいしそうに見えたみたいでよく狙われた。俺は97歳になるまで戦いと逃亡の生活を続けた。転移回数は減らなかった。


 石器時代みたいな世界があった。人類のような存在がいたが、非常に獰猛で知性も低く、常に襲われ続けたが弱すぎたので勢い余って滅ぼしてしまった。転移回数は減らなかった。


 魔族が人間に支配されている世界があった。人間は魔力強者であるはずの魔族を魔道科学で支配し、魔族は奴隷であり燃料であった。俺は魔族の奴隷解放をした。平等な世界を目指そうと訴えた。しかし俺が死ぬころには魔族が人間を支配するように逆転してしまった。人間は奴隷であり食料になった。転移回数は減らなかった。


 星間戦争をしている世界があった。巨大な帝国がいくつもの星系を消滅させながら、人間を生体パーツに、星を資源に加工して自国の富を高めていた。俺は戦争にレジスタンスとして参加して、帝国の首都を消し飛ばす兵器を使い自爆特攻。悪意がなかったので自動防御も発動しなかったようでこの時初めて97歳になる前に死んだ。転移回数は減った。


 最悪な世界があった。後にも先にもこれ以上悪い世界はなかった。夫婦というものはなく、性的欲求を満たしたいときは異性を捕まえて満足するまでまぐわい、殺した。母親は赤子が生まれた瞬間にそれを売り払い、買い取った店は都合のいい労働力にするため人格破壊の魔法をかけるか、儀式のいけにえにされた。それ以外の子供たちは、大人の姿から言葉を学ぶ前に盗みを学び、食器の使い方を学ぶ前に人の殺し方を知った。この世界は争いで構成されていて、信頼や愛なんてものは存在しなかった。生きている女の子を切り分けて食べる大人がいれば、ただ生体物質を生産するパーツにされた男を管理する子供がいて、買った子供に、人体手術と称して体の端から鉄くずに徐々に置き換えていつ死ぬのか賭けをする大人。この世界は根本から間違った。俺はこの世界に3回転移した。転移回数は減った。


 滅んだ世界があった。見渡す限り荒野で、落ちているものを見ると兵器の残骸だったようだ。

 俺は空腹と渇きに耐えながら荒野を歩き回った。生物どころか水すら干上がってわずかも存在しなかったからだ。多分酸素もなかったんだろう。俺は死ぬこともできずに70年間さまよい、そして死んだ。転移回数は減った。


 サイバーパンク世界があった。全人類はナノマシンを入れられ、デジタルとアナログの境はなく作られた幸せの中を生きていた。俺は政府に雇われて現体制に反対するテロリストどもを殺して回った。ある時政府から捨てられ、俺も追われる身になり逃げ続け、寿命で死んだ。転移回数は減らなかった。


 異世界と戦争中の世界があった。技術レベルは同じようで、どちらも目を覆うような被害を出していた。どちらの世界も相手の世界を滅ぼさなければ相手の世界に押しつぶされ、自分の世界が消滅してしまうといい絶滅戦争を繰り広げていた。俺は何が起きているのか調査して、これがさらに別の異世界による策略であることを突き止めて争っている2つの世界に教えた。2つの世界は協力して黒幕の世界と戦い始めたところで俺は寿命で死んだ。転移回数は減った。


 異世界人を連れてきて敵と戦わせる世界があった。俺のいた、地球の高校生たちが、右も左もわからずに不安がっていた。俺は自分でもわけもわからず思わず泣いた。そして敵を滅ぼした。滅ぼした後に敵にも日本の高校生が召喚され、戦わされていたことを知った。俺はこの世界を破壊しつくした。残った高校生は地球に返した。俺は泣きながら、平和になった世界で余生を過ごして寿命で死んだ。転移回数は減らなかった。


 金に覆われた世界があった。とある錬金術師が金を増やす薬品を作ったらしく、それによって金が増えた。しかしそれはとんだ欠陥品で、金は無限に増えていき誰も止められなかった。俺はその世界にある増えた金を全てマジックストレージに入れて、その間に解決する薬品を作ろうとした。しかし多くの人が反対し、俺は金を回収しきることも、集中して薬品開発をすることもできずに寿命で死んだ。転移回数は減らなかった。


 英雄を作る世界があった。古今東西、果ては異世界まで技術を求め、そこで得た技術を選ばれた数人に施して常人の数千倍の力を得て、様々な問題の対処をさせていた。俺はそれまでこの世界になかった能力を持っていたので国につかまって研究材料にされた。自動防御スキルで体を切り開かれることはなく、薬物も影響はなかったが、逃げ出すこともできなかった。一緒につかまっていた女の子に話しかけたら彼女はレベルの無いこの世界に、一時的にレベルを与えることができる能力者だった。俺はレベルを付与してもらい、レベルブーストでステータスがカンストすると、女の子を連れて施設から逃げ出した。俺は女の子と結婚して過ごし、寿命で死んだ。転移回数は減った。


 物理法則が違う世界があった。1+1は2ではなく、時間の流れは不均一で、ものの形や数さえも可変的であった。この世界ではスキルやステータスは意味をなさなかった。俺はもしかしたらこの転移地獄から解放されるかもしれないと思った。俺は毎日遊んで暮らしたが、ある日突然死んだ。多分70年たったんだろう。転移回数は増えた。


 音楽の世界があった。意思疎通の手段に言葉ではなく歌で表現する世界だ。俺は異世界言語理解で普通に話しているつもりでも聞いてる方は素晴らしい歌を聴いていることになっているらしい。いつの間にか俺は世界で一番歌のうまい存在になっていた。いろんな派閥をまとめ上げ、俺は歌の神になった。俺は寿命で死んだ。転移回数は減った。



 こうして俺は何万もの世界を巡った。いい世界も悪い世界も理解できない世界もあった。悲しい世界、怒りの世界、楽しい世界もあった。そうして気が遠くなるほど多くの時が流れ、転移回数が減ったり減らなかったりたまに増えたりしてーーーー


 気が付けば、残り1になっていた。

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