第3話

 俺は気が付くと荒野に立っていた。

 は?どういうことだ?俺は死んだはず?ここは死後の世界?そういえば体がずいぶん軽い。腕を見ると年とともに細く、しわだらけになっていたはずなのにまるで若返ったかのように肌に張りがあり、力に満ち溢れている。どういうことだ?


 混乱した俺はいつもの癖でつい、未来予知をしようとした。とりあえず1週間後を見ようと思ったがなぜか発動せず、3日後なら見ることができた。そこには見慣れないものを持ちながら必死な形相で見慣れない人型の存在と戦っている姿があった。いや、ちょっと待てもしかして持っているのは銃じゃないか?


 俺は猛烈な嫌な予感に襲われ、震えながら異世界理解のスキルを発動させた。「この世界の名前はセーカン。多くの種族が争う…」と長々と説明が始まった。俺は茫然としながら内容を聞くともなしに聞いていた。


 なんだ?セーカン?ファステンじゃなくて?なんだこれは。なんだこれは⁉

 俺は混乱の極致に陥ったが、その時異世界理解が恐ろしい説明をした。「…この世界にはレベルや魔法といったものは存在せず…」


 俺は2度目の衝撃に襲われ、もはやすがるようにステータスオープンと叫んだ。


 名前:界動 賢司(カイドウ ケンジ)

 年齢:27

 状態:正常

 ステータス:Lv -

 HP 105

 MP -

 ATK 10

 INT 20

 AGR 13

 DEF 11

 DEX 21


 スキル:異世界理解lv Max

 異世界言語理解lv Max

 無病息災 lv Max

 マジックストレージ lv Max(魔法の存在しない世界なので無効)

 レベルブースト lv Max(レベルの存在しない世界なので無効)

 自動防御 lv Max

 未来予知 lv 1

 時間停止 lv1

 永遠なる転移 lv Max

 リスタート lv Max




 このステータス画面には俺の状態がいかに恐ろしい状態にあるのかを教えてくれる。


 まず、レベルがない。今までカンストしていたステータスが見る影もないほど貧弱になっている。試しに近くにある岩まで走って行ってみた。考えられないほど遅い。認識と体の動きが合わずに転んでしまう。そうすると膝から血が出てきた。前の世界ではけがをすることすらなかったのに、70年ぶりの痛みに涙が出る。悔しさのあまり地面を思いっきりたたいてしまった。以前なら地面に大きなクレーターでも作っていただろうが、今はただ自分の手が痛いだけである。


 きっと、俺の表情はかなりの絶望した顔だろうな、と現実逃避気味に思った。しかし嘆いたって現実は変わらない。それよりも俺のステータス画面にはまだまだ問題がある。とりあえず今の自分の現状をはっきりと知らなければならない。

 一見するとこのステータス画面にはこれ以上問題ないように思える。マジックストレージが使えないことも痛いが、そこもまだいい。問題はスキルがすっきりしすぎていることだ。

 俺はファステンで70年生きた。当然、生きながら様々なスキルを獲得していった。剣術なんか最大レベルまで上げたし、魔法も覚えた。ものを作る錬金術や制作のスキルも持っていたし、食べ物を調達するために狩や農耕なども覚えた。だが俺の努力の結晶であるスキル群はすべてなくなっている。まるで前の世界の幸せや努力を否定するように。


 だが俺には心当たりがあった。前の世界ではついにわからなかった2つのスキルが解放されている。俺は一度だけ深呼吸をし、スキルの詳細を確認した。


 永遠の転移 ― 死ぬことを条件に解放。レベルに応じた回数ぶん、死んだときにランダムな異世界に転移する。ただし地球は除く(最大レベルの場合転移回数は1万回。(この回数は各世界に対する貢献度が最大のものであった場合。残り9999回))

 リスタート ― <<永遠の転移>>発動を条件に解放。異世界転移時にすべての能力、所持品、状態を最初の異世界転移時のものにリセットされる。(レベルによる変化なし)



 俺は、もはや怒りさえ覚えながら自分をなだめつつ、必死に考える。まず一つ、どうやら俺は後最低9999回死ぬ必要があるってこと。もう一つ、俺はどの世界であっても死ぬほど努力をしなければならないし、しかしその結果得たものは、俺の記憶以外のこらないってことだ。

 なんだこれは。俺は怒りに震えた。こんなのは呪いではないか。前の世界で俺は70年かけて世界を大きく発展させたが、それによって転移回数が1減った。つもりこれから俺は最低9999回同じことをしなくてはならないのだ。しかも成長することもなく、親しい人はみな別れなければならず、世界によっては能力に大きく制限を受けながら、やりたくないからと言って逃げることもできない。


 その時俺は女神シヱテンの言葉を思い出した。

「安心してください。私はあなたが異世界転移を全力で楽しめるように様々な能力を差し上げます。」

 俺はこの時悟った。あいつは全てわかったうえで俺をこんな目に合わせているんだ。この2つのスキルを最初からわかるようにしなかったことがいい証拠だ。俺が異世界で苦しんでいるのを見て楽しんでいるに違いない。さぞかし今の俺は見ていて楽しいピエロだろうな。


 いいだろう。やってやろうじゃないか。どれだけ大変であってもあいつが見て喜ぶようなことは絶対にしない。何千年、何万年かかっても全てを終わらせて、必ずあいつに復讐してやる。


 さしあたってはこの世界でもなんとか変革をしなくてはならないらしい。途中からしっかりとは聞いていなかったがこの世界はどうやらSF寄りの世界で、様々な種族が領土争いをしているようだ。技術レベルは地球の1960年代ほどらしい。まずは未来予知で持っていた銃を手に入れよう。そして時間停止と未来予知を早くレベル上げして計画と対策を練ろう。ファステンで学んだことは、スキルとしては残っていないが記憶としては残っている。チートもある。必ずやり遂げてやる!俺は銃を手に入れることのできる場所を異世界理解で探り、一歩を踏み出した。



 ~70年後~


 最近体を動かすことが億劫になってきた。未来予知によると俺の寿命はもうすぐ終わる。どうやら俺の一つの世界での人生はきっちり70年らしい。


 今回の世界はなかなか難しかった。俺にステータスチートがないのでごり押しができず、いちいち小難しい作戦を考えて敵と戦う羽目になった。そのおかげもあって軍司とかいうスキルが生えたがどうせなくなるので興味はない。


 この世界では人間やタコみたいな生物やら鳥人間やらが領土の取り合いをしていたが、それは食糧問題に起因していた。各種族の食べられるものは限られており、それは自分の領土では作ることができず、ほかの種族の領土でのみ作ることができたのだ。各種族は作物を作れる土地を聖地とし、その場所を奪おうとした。しかし責められる種族もその土地に先祖代々住んできたので譲り渡すことができずに殺し合いに発展した。

 実はこの世界では聖地の作物以外に、各種族が食べられるものがあった。それは相手の種族の肉だ。つまりこの世界では、聖地と肉の取り合いによる戦争を延々と続けてきた。

 最初俺は一つの種族以外すべてを滅ぼしてしまおうと思った。もし仮に各種族が聖地に行ったとしても、間違いなくまた戦争が起きると思ったからだ。それだけこの世界では食欲と憎悪があふれていた。

 しかし、10年ほど戦って俺はあきらめた。なぜなら、どこかの種族が相手を滅ぼそうとすると、一強状態になるのを恐れた他種族が攻め寄せてきて、また均衡状態に戻ってしまうからだ。

 仕方がないので俺はどの種族でも食べることのできる作物を作ることにした。ファステンで農業も行ったし、錬金術もした。スキルはないが知識はある。このまま戦い続けてもどうしようもないから、根本的な問題を解決することにした。

 40年かかって何とか作物はできた。正直驚いた。スキルもなしに作れるか不安だったのだ。俺のことを信じて様々な種族から協力者も出てきた。どの種族でも食べることのできる作物もできた。俺は各種族の協力者に作物の種を分け、一度に広げていき、20年たった今、ようやく各種族で安定的に供給できるようになってきた。

 今でも各種族間の戦争は続いている。何千年間も戦った恨みはそう簡単にはなくならないし、肉が死ぬほど好きな奴だっている。だが間違いなく頻度も規模も減った。そうして俺は各種族から共通して英雄と呼ばれるようになった。

 しかし俺は不安だった。確かに争いは減った。確かに俺はこの世界に大きく寄与できただろう。英雄にもなれた。だが前の世界ほどの貢献はできたとは思えない。まだできることがあったんじゃないのか、俺はそう思いつつ徐々に意識が遠のいていく。ああ、ここで時間切れか、次の世界はどんな世界だろう?できれば魔法が使える世界だといいんだが。

 こうして俺は意識を失った。



 ????

 2回目もなかなかでしたね!ですが今回はまだ運のいい世界でしたね~。


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