あと3人
「終業式の物言い次から禁止かー。ちょっとやってみたかったのに」
「ちょっと待ったー!って?誰にやるのよ。」
学年末テストも終わり、久々の部活動となる部が多いのだろう。放課後の教室はいつもよりも人が多く残っていた。
「んー、顧問とか?」
「まだ当分いるでしょ、あの人は」
これから部活に行くのだろう、前の席の2人は運動着を用意しながら先ほどのホームルームの知らせについて話している。
離任式での"物言い"が来年から禁止されると今日のHRで通達があった。
中止の理由は、進行の時間が読めないからだという。
前期の修了式を思い返してみれば、至極妥当な理由だ。
前期の修了式は、秋休みという名前だけついた9月の最初の土日の前に実施された。暦通りの休みで節目感もなく、ただの土日に特別な注意事項も必要ない。夏休み明けの期末テストの返却も終わり、体育館にはどこかだらけた雰囲気がただよっていた。
うだるような蒸し暑さに包まれた体育館の中で、大半の生徒は興味なさげに床に座り時間の経過を待っている。
修了式後、山吹先生と谷川先生の2人が年度途中ではあるが、学校を離れるということで壇上で挨拶された。
先に山吹先生が当たり障りの無い言葉で先に挨拶を終え、拍手とともに奥に下がっていった。
入れ替わりで壇上に立ったり谷川先生は、ふと一瞬の間のあとに、地声のまま威勢よく話し出した。ハリのある声は、体育館中に広がる。マイクを通さないその声に俯く生徒の背があちこちで伸びるのが見えた。その勢いのままに谷川先生は挨拶を終えた。それと同時に体育館の何ヶ所から「ちょっと待った〜!」との声が上がった。
1年生が座っているブロックでは、何事かときょろきょろと辺りを見渡している生徒が多くいた。2年生と3年生の列のあたりから数人の生徒でできた集団が3グループほど体育館の前方に向かって走っていくのが見えた。
壁際に立つ先生達が走っている生徒を止める様子はない。1年生以外の列は落ち着いて前を見ていたので、これは予定調和なのだろう。
前方に向かったグループ達は、そのまま壇上に上がっていった。それぞれのグループが先生に花束や色紙を渡し、先生と言葉を交わしているのが見えた。1つのグループのやりとりが終わるたびに生徒側から拍手が起きる。
壇上のやりとりはマイクに拾われない声量だったが、先生が肩を軽く叩く様子や、両の手で包むようにする握手から、彼らのやり取りは十分に察せられた。
やりとりがひと段落して谷川先生は壇上の後方に下がり、先に挨拶を終えた山吹先生の横に並ぶ。
色紙や花束を抱えている谷川先生の隣で、手ぶらで立つ山吹先生がいたたまれなさそうに立っていた。
花束を抱え目を潤ませる谷川先生よりも、その隣で自身の足元を見つめていた山吹先生の方が私には印象的だった。
生物の先生の挨拶が終わったところで2つのグループから物言いが入ったところだった。
津川先生まであと2人ー
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