第20話 5

「……チッ。思いの外、手強かったですね」


 人気のない、暗い裏道でルーナムは悪態を吐いた。周囲は夕闇に包まれ、突如何者かが現れても気付かれないだろう。


 己を撤退させた魔法少女マギカ達のことを思い出す。どのような戦闘力を持つのか、どのような技を使うのか、など。


「今回は小手調べだったからまあ良いですが」


「途中で生み出された、あの白い鏡が厄介そうですね」とルーナムは呟く。


 あの鏡を生み出したのは、おそらくあのオレンジ色の魔法少女マギカ『フロースオレンジ』だろう。それはほとんど確信めいたことだった。

 なぜなら記録を見た限り、他の魔法少女マギカと違って使だからだ。


 油断をしなければまあ勝てる相手だった。そのはずだった。


「……この私が、撤退、など」


この世界で初めて魔法少女マギカに出会った時以来だ。

 悔しいか、と言われると「意外だっただけだ」と返す程度の感情だった。本気さえ出せばまだ勝てる。だから、悔しくはない。

 だが、それじゃあつまらないだろう、と思考する。


 そして黒い端末を取り出し、ルーナムは連絡を入れる。


「確認は終わった。お前達は今まで同様に『不幸ミセリア』を集めるように」


同じ『暗黒の国メディア・ノクス』に所属する3人に通達したのだ。すぐさま端末を切る。


 これで、しばらくはあの魔法少女マギカの研究に時間を費やせるはずだ。


「あのマギカ……フロースオレンジが、私の探していた『卵』だ」


と一人呟く。

 そしてルーナムはまとっていた『不幸ミセリア』を変質させた。そうして、この世界の人間に化ける。


 銀の長髪は肩につく程度の黒髪へ、虚ろな目はそのまま生気がなく暗い黒曜石のような目に。

 服装は黒いシャツと黒い上着に黒い細身のパンツスタイルと、季節感を無視した格好へと。


 彼は葦月だった。


「絶対に手に入れてみせる。……逃してなるものか、折角の奇跡を」


×


 そんなことはつゆ知らず、橙花とうか達は新たに現れた強敵にどう立ち向かうか考える。


「特訓とかどう?」


と、桃絵もえが提案してみる。強くなるために特訓、というのはいかにもな内容である。


「だけれど、まずは学業に専念しないと」


もうすぐテストよ、と藍華あいかが困った様子で告げた。


「またいつ『暗黒の国メディア・ノクス』の人達が来るかも分からないですよ?」


檸檬れもんは不安そうに呟く。


「どうしたの、橙花さん」


茶姫さきが問いかけた。


「へ、何?」


聞いてなかった、と橙花は気まずさで愛想笑いをする。


「どうしたの」


「なんでもない」


問う桃絵に、首を振った。


「(……どうしよう)」


ルーナムのことが、頭から離れないのだ。


 こんな気持ち、人に言えるわけがない。

 橙花は苦しくて、泣きそうな気持ちになった。


×


 数日過ぎても、異常は治らなかった。


「(どういうこと……?)」


自身の異常に、橙花は混乱している。

 気付くと彼のことばかり考えていた。


「……どうかしました?」


様子がおかしいですよ、と葦月いつきに指摘される。


「なんでもない」


と誤魔化すが、あんまり信用してないようだ。間違いなく、怪しまれている。


「(……どうせ、魔法少女マギカ関連の内容だろう)」


 そう、葦月は表情を変えずに橙花を見下ろした。

 実は、橙花が魔法少女マギカであろう事はあらかた予想付いていたのだ。


 似た雰囲気やその指に嵌めている『幸せフェリキタス』を内包した指輪など。


「(……色からして、恐らく『フロースオレンジ』だろうが)」


 葦月ルーナムが狙っている魔法少女マギカとすでに知り合いだったとは実に幸運なことだ、とほくそ笑む。

 だが直接変身している姿を見ていないので予想の中でしかない。初めて出会った日に変身前の姿を見ていたはずだったが、間違いのない確証が欲しかった。


 事実かを確認するために行動をしなければならない、と葦月は次の行動を考える。

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マギウス×マギカレイド (Magus×Magikaraide) 4^2/月乃宮 夜 @4-2-16

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