第18話 3

 そして、夕方。


 勉強会もといゲーム大会が終わり、みんなの帰る時間となった。


 その時。


 ぞわり、と、橙花とうかはやけに嫌な気配を感じた。なんだろう、と周囲を見回すが桃絵もえ達は何ともない様子だ。

 気のせいだったかな、と首を傾げた時。


「みんな! 外で『絶望デスペア』が暴れてるみたいだ!」


そう、パレットが告げる。


「もう! 今日は出てこないって思ってたのに!」


 桃絵は頬を膨らませた。楽しい1日だったのだから、最後まで楽しい気分で終わらせたかったのだと。「まったくだ」とみんな同じ気持ちで頷く。


 それからみんなで変身をして、魔法少女マギカ達は『憩いの場所オアシス』を飛び出した。


×


 『絶望デスペア』出現の市内放送が流れる街中で、魔法少女達は『絶望デスペア』を探す。


「(そういえば、すっかり『絶望デスペア』の出現に慣れたよね)」


そう、フロースオレンジは思う。出現場所や被害状況の放送がすぐに流れるし、避難も最初の頃よりスムーズになっているような気がしたからだ。

 今だってもう、外には余計な人の気配がない。


「あ、見つけた!」


 と、フロースオレンジは『絶望デスペア』を見つける。それと同時に、やけに嫌な気配も感じた。

 見ると『絶望デスペア』の側に背の高い人影が有る。


「あ、あなたは……」


 その姿を認めて、フロースオレンジは目を見開いた。


「おや。久しいですね、そこの魔法少女マギカ……『フロースオレンジ』と言いましたか」


 白銀の長髪をなびかせ、虚ろな闇のような目をした異様な男。

 この男は、橙花が初めて『絶望デスペア』に出会い、初めて魔法少女マギカ『フロースオレンジ』として変身した日に出会った男だった。


 背の高い男は目を細めて笑う。そして、真っ直ぐにフロースオレンジを見据えた。嫌な気配の正体はこの男だったらしい。


「あたし達もいるよ!」


ひるんだフロースオレンジをかばい、ソムニウムピーチは前に出る。みんな追い付いたようだ。


「なるほど、大人数ですね」


 周囲に視線を向け男は頷く。だが、心底興味がなさそうな冷え切った声だった。


「契約のやりがいがあったのでは」


と、男は意味あり気に、パレットへ一瞬だけ視線を向ける。


「なんのこと?」


だが、パレットは首を傾げるだけだ。


「おや、ご存知でない?」


そう、男は僅かに目を見開く。


「まあ良いでしょう」


すぐに興味を失った様子で視線を逸らし、フロースオレンジに視線を向けた。


「……お前か?」


そして小さく呟く。


「は?」


「少し毛色が違いますね。やはりお前か」


 周囲を無視して、ルーナムはフロースオレンジだけを見つめた。


「——お前を、絶対に手に入れる」


熱を孕んだ声だった。


「な、何この人……」


指名されたフロースオレンジは顔を青ざめさせて後退あとずさる。


「申し遅れました。私、『暗黒の国メディア・ノクス』のルーナム・ノクテムと申します。以後お見知り置きを」


胸に手を充て、丁寧に頭を下げる。


「——では。私の邪魔をする前に、早速くたばっていただきましょうか」


「『絶望デスペア』、行け」そう静かに命令を下した。


×


 現れた『絶望デスペア』は、特別な見た目をしているわけでなく、大きさもよく見かけるサイズだ。……なのに。


「『ピンクファンタズム』っ!」


ソムニウムピーチが必殺技を放っても


「『イエローサンダー』っ!」


トニトルスパインが雷を落としても


「『グリーンブレス』っ!」


フォリウムミントが風で包み込んでも


「『ブルーメテオ』っ!」


グラキエスベリーが氷のつぶてを放っても、『絶望デスペア』は消え去らなかった。


「どうして?」


ソムニウムピーチが困惑の声を上げる。何度、繰り返し技をかけてみても『絶望デスペア』が染まる気配が無いのだ。


 きっ、と『絶望デスペア』を睨み付け、フロースオレンジは細長く変形した白い射筒を向けた。


「『オレンジ・バースト』っ!」


カチ、と引き金を引いて太い光線が『絶望デスペア』を貫く——


「どうだ!」


——だが。


「消えてない……っ!」


変わらず、『絶望デスペア』はそこに居た。まるで技を喰らっていないかのように無傷だ。


「なんで……!」


 フロースオレンジは表情を歪める。このまま浄化できないとなると、次はどうすればよいのか分からなかった。


「ふん。これは『絶望デスペア』を依代にした『絶望デスペア』。いわば普段の強化版ですからね。そう簡単には消えませんよ」


「試作品でしたが、存外性能は良さそうです」と、ルーナムは答える。試作品、ということはこれの改良版が出てくる可能性もあるのではないか。そう思うとぞっとした。


「そんなこと! やってみなくちゃ分からない!」


今度は全員で一斉に技を『絶望デスペア』に向けて放つ。だが。


「消えてない……っ!」


変わらず、『絶望デスペア』はそこに居た。

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