第17話 2

「ゲーム、やってみませんか?」


 そして、檸檬れもん橙花とうか達に告げた。


「ゲーム、って」


「アクション系やRPGではなく、みんなが楽しめそうなスポーツ系のゲームです!」


戸惑う藍華あいかに構わず、檸檬はゲーム機を取り出す。


「でも、コントローラ足りる?」


と橙花。ゲーム機の個数は一つだが、みんなでゲームをするには人数分のコントローラーが必要になるはずだ。


「大丈夫よ」


茶姫さきは穏やかに答える。


「いざという時のために、私も持ってきていたから」


どうやら茶姫も檸檬と同じ機種のゲームを持ち込んでいたらしい。おまけにコントローラーを複数も持っていたので、大人数でも楽しめそうだった。


「勉強会なのに……」


と藍華は呆れる。


「画面もあるわよ」


と、モニターも出す茶姫に、さすがに橙花も苦笑いした。随分と乗り気らしい。


「じゃあ、早速セットしますねー」


檸檬と茶姫は嬉しそうにゲームの準備に取りかかる。

 もしかすると、ずっとみんなで遊ぶ機会を伺っていたのかもしれない。


「へーぇ、色々あるんだねぇー」


と、桃絵もえはパレットと一緒になって檸檬達の様子を傍観していた。


「桃絵はゲームやらないの?」


そう橙花とうかが訊けば


「うん。やってるのを近くで見たことはあるけど、『鈍臭いから邪魔するな』って言われるから……」


と、照れ臭そうに笑う。


「セット終わりましたよー!」


 檸檬、茶姫がみんなを呼んだ。


×


「このゲームはですね! さっき言った通りのスポーツができるゲームです!」


「コントローラーを振ったり、タイミングに合わせてボタンを押したりすれば大体は大丈夫よ」


 興奮気味の檸檬れもんの説明を、茶姫さきは補足する。簡単に言えば擬似的にスポーツの体験ができるゲームだ。


「……じゃあ、わたし達が試しにやってみますねっ!」


 一通り説明を終え、檸檬と茶姫がコントローラーを握る。そしてゲームを開始した。


 そしてゲームのやり方を逐一説明しながら、色々とやってみせる。そして、それから藍華あいか桃絵もえも体験をしてみた。


 操作に不慣れな藍華や、運痴な桃絵はやや低めのの成績が出る。


「……大体の操作は分かったわ。もう一回!」


「ふへぇ、疲れたぁ」


藍華は少しむくれて言い、桃絵は力無く座り込んだ。


橙花とうかちゃんはやらないの?」


ふと顔を上げ、桃絵は問う。


「ん? やったことがあるから、みんなの後でも問題ないだけだよ」


そう、橙花は笑った。


「じゃあ代わってぇ」


と泣き付く桃絵に「仕方ないなぁ」と、コントローラーを受け取る。

 橙花はスポーツが得意な上にゲームはまあまあできる方なので、すぐに好成績を出した。

 それに、藍華は元々運動神経も良い方なので段々とゲームの感覚を掴んで好成績を出し始める。


「わわ、負けちゃいそうです!」


「あら、私達のアドバンテージが無くなってきたわ」


強くなる藍華に、檸檬はやや焦りだし茶姫は穏やかに微笑んだ。


「みんな頑張れー!」


プレイ人数の問題で溢れてしまった桃絵は、橙花達を応援をする。


「(……楽しそうでよかった)」


そう、みんなとゲームを楽しみながら橙花は胸を撫で下ろした。


「よくわかんないけど、みんな楽しそうだね」


パレットはにこにことしている。


「ゲーム、やってみる?」


橙花はパレットにコントローラーを手渡した。


「ゲーム?」


首を傾げながらも、パレットはコントローラーを受け取る。


「操作できる?」


「なんとか」


コントローラーを両手で持ち、パレットは振ってみた。

 小さいはずのコントローラーが、パレットの小さな手に握られると大きなもののように見える。


「やっぱり手、ちっちゃいねぇ」


そう、桃絵は呑気にパレットの様子を見ていた。

 ゲーム初挑戦のパレットは最初は苦戦していたが、徐々に慣れてきた様子だ。


「楽しいね!」


「すごい、あんな手なのにちゃんと操作できてる」


喜ぶパレットに、藍華は感心する。


「まあ、一つのボタンを押すタイミングゲームだものね」


と、茶姫は微笑んだ。


「そう言えば、飲み物持ってきたよー」


 ゲームの休息時間中、橙花が大きめのペットボトルを複数本取り出した。指輪の収納に入れて持ってきていたのだ。


「ジュースとお茶があるよ」


何飲む? と聞きながら、橙花は紙コップも取り出す。


「炭酸あります?」


と檸檬は興味津々に問いかけた。


「もちろん」


 それから、色々なゲームをしてワイワイと橙花達は盛り上がる。

 個人同士や二つのグループに分かれて戦ってみたり、4人でチームを組んでゲーム内での相手チームと戦ってみたり。

 勝敗に一喜一憂して大いに楽しんだ。


 なんだかんだ言ってチームワークが上がっていくような感じがした。


「これはこれでありなのかも知れないわね」


と、藍華は考え直す。


 それから「気分転換は終わったでしょ。一旦ゲームは仕舞うわよ」と、藍華に注意を受けまた勉強会が始まった。


 そして、最終的に1時間程度ずつで勉強会とゲームを繰り返す。

 もはや勉強会だったのかゲームの会だったのか分からなくなってしまったのだった。


「……勉強した気がしないわ」


と藍華は困った様子だったが、桃絵達は満足そうだ。なのでこれで良かったのかもしれないと、橙花は小さく笑った。

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