第16話 運命との出会い

 テスト前期間の、とある休日。


「今日はお友達と勉強するから」


橙花とうか葦月いつきに告げる。彼の家まで寄って、直接言いに行った。


「そう、ですか」


ほんのわずかに目を見開き、葦月は橙花を見下ろす。格好からして、このまま友人達に会いに行くのだろう、と容易に想像できた。


「……可能ならば、次回からはもう少し事前に教えて下さいませんか」


小さく溜息を吐き、やや呆れた様子だ。彼の格好は、すでに外出できる状態になっていた。きっと、橙花の家に行く準備をしていたのだ。


「あー……ごめんね?」


「……いえ。貴女にご友人ができたならば、そうなる事はおのずと予想出来たはずでした。思慮が足りませんでしたね」


眉尻を下げる橙花に、葦月は気にしなくて良いと首をゆるりと振る。


「自分を責めることじゃないよ! わたしがすっかり伝え忘れてたから……」


そうは言いつつも、2人は連絡先を交換している訳ではない。それに登下校の時間が被るのも毎日ではないので、『ちゃんと連絡する』行為自体がやや難しいのだった。

 今までは急用が入ることがなかったので、大抵は口頭での伝達で事足りていた。だが、これからは友人との予定(や、魔法少女マギカとしての活動)が入る可能性がある。

 考えた橙花は、とある決心をした。


「……ね、導引さん」


「なんです」


葦月は僅かに首を傾げる。

 それを見ていると、なぜだか顔が熱くなった。


「えっと、……」


顔が熱いまま、橙花は言葉を口に出そうとする。だが気後れて、思いのほか声が出なかった。


「もう一度、おっしゃってくださいませんか」


静かに、彼は聞き返す。やっぱり聞こえなかったか、と更に別の羞恥で耳が熱くなった。


「れ、連絡先の交換、する?」


そう、橙花は告げる。駄目元だった。「貴女でなく貴女の家の方と連絡先を交換する方が理にかなってます」と断られると思っていた。


「連絡先、ですか」


少し思案し


「良いですよ。交換しましょう」


と、彼は連絡機を取り出す。


「え、いいの?!」


「何か問題が?」


「う、ううん! 分かった。交換ね!」


断られると思い込んでいただけに、衝撃が大きかった。思わずにやけてしまいそうになるのを堪えて、橙花も連絡機を取り出す。

 そして、連絡機を近付けてデータを交換した。


「……終わったね」


交換が、と居たたまれなくなった橙花は何となく口にする。


「そうですね。……これで、いつでも連絡ができますね」


「あ、もう時間だから行くね!」


「気を付けてくださいね」


×


「悪いこと、しちゃったなぁ」


 橙花は勉強を断ったことに、少し罪悪感を抱く。友達との予定を優先させるなんて、初めてのことだった。

 その余韻か、まだ心臓がドキドキする。

 そう思いつつも、橙花は人気ひとけのない場所に移動した。


「えっと、」


周囲を見回して人呼吸置き、


「(……『憩いの場所オアシス』に行きたい)」


強く念じる。そして、橙花は光に包まれた。


×


 天ヶ原の街を見通せる展望台に、男が立っていた。

 『暗黒の国メディア・ノクス』のルーナムだ。


「……この地に、やはり『卵』が居る」


呟き、思案する。


 どうやって『卵』を見つけるのか、『卵』をどうやって手中に収めるのか。


「……焦る必要はない。確実に、探し出さねば」


×


 目を開くと、橙花とうかは『憩いの場所オアシス』に着いていた。


「あ、おーい!」


声のする方を見ると、桃絵もえが手を振って待っていた。他にも檸檬れもん茶姫さき藍華あいかも揃っている。


「わ、みんなもう揃ってる!」


慌てて橙花はみんなの元に駆け付けた。


「橙花が最後だなんて、珍しいわね」


と茶姫。


「待ち合わせの時間通りだから気にしなくて大丈夫よ」


焦った橙花に、藍華は安心するよう告げる。


「他のみんなが早く来すぎただけですよ」


「落ち着かなくて」


檸檬と桃絵は照れた様子で答えた。


 それから橙花達は『憩いの場オアシス』の中に移動する。そしていつの間にか現れていた、大きめのテーブルと人数分の椅子にそれぞれが着席した。そしてノートや教科書類など、勉強道具を広げる。


「じゃあ、テスト勉強を始めるわよ」


 藍華の声かけの下で、みんなで勉強を始めた。


 無論、最初は橙花達は集中して勉強に取り組む。……だが。


 集中力が切れたのか、桃絵がテーブルに突っ伏した。次に、檸檬がノートの隅に落書きを始める。


「ちょっと。あなた達、まだ始まって15分も経ってないわ」


と、藍華が注意する。


「だってわかんないんだもん」

「そうですよぅ」


と2人は文句を言う。


「仕方ないわね……」


と、藍華が席を移動し、2人に教え始めた。


「楽しそうだね」


パレットは呑気にその様子を眺める。


 一通り教え終わったのか、藍華が席を元の位置に戻す。


 カリカリ……とノートに字を書き込む音が静かに響く。

 そして数分もしないうちに、再び桃絵がテーブルに突っ伏し、檸檬もノートの隅に落書きを始めた。


「もう、あなた達ったら」


眉尻を下げ、藍華は呆れる。

 ふと周囲を見回すと橙花と茶姫も背もたれに持たれていたり読書を初めていたりしていた。


「ちょっと、あなた達まで!」


と、藍華は困り果ててしまう。


「だって流石に飽きない?」


「休憩や息抜きは大事よね」


と2人は訴えた。時計を見れば30分程度だが、彼女達にとっては充分に勉強したと感じられたらしい。


「でも。息抜きって、何をするの」


藍華が問いかける。と。


「はいはい! いいもの持ってます!」


檸檬が挙手した。

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