第15話 拠点ができる

 みんなでショッピングモールに出かけた次の日。


 きちんと勉強会をするために、橙花とうか達5人とパレットは図書館に集まった。学校の図書館は休日でも一般開放されているのだ。

 だが、テスト前期間ということもあって、いつもより利用者が多かった。

 やがて5人と1匹分のスペース確保が難しいと察した橙花とうか達は、図書館から出る。


魔法少女マギカのみんなで集まりたいけど、大所帯だからなんとなく困るねー」


 そう、桃絵もえは眉尻を下げて零した。


「や、やっぱり。人の迷惑にならない場所がいい、ですよね」


そう、檸檬れもんも肩を落とす。美術室は利用者が少ないものの、テスト勉強に向いた場所ではないし、そもそも休日は開いていない。


「誰かの家、ってのも申し訳ないし」


橙花も呟く。3、4人程度ならまだしも、5人となると上がった家の人に迷惑をかけていないか気になってしょうがない。


「図書館が使えないとなると……」


「どこがあるかしら。公民館? 無理そうよね」


茶姫さき藍華あいかも考え込んだ。その時。


「あ」


パレットが声を上げた。「どうしたのパレット」と桃絵達は視線を向ける。


「特別な場所があるのを、思い出したの」


「『特別な場所』?」


そう首を傾げる桃絵達に、パレットはとある場所を紹介する。


魔法少女マギカの指輪を使えば行ける場所なんだ」


「指輪?」


思わずみんなは自身の右手の中指にはまった指輪に視線を向けた。日の光を浴びて、きらきらと輝いている。


「妖精のぼくはそのまんまで大丈夫だし、みんな行けるはずだよ!」


×


「一度行ったら、どこからでも行けるようになるんだよ!」


 とパレットに連れられて橙花とうか達は街の中を歩く。

 特別な場所に行くには、まずは一度、ちゃんとした同じ入り口から入るのが大事らしい。


「ここだよ!」


 着いたのは神社だった。割と橙花の家に近い場所にある。


「こんなところで?」


自然豊かで昔からあるような、魔法少女マギカとほぼ無関係そうな場所なのに。そう、橙花達は不思議そうにする。


「うん。だってここはこの街で一番『幸せフェリキタス』が感じられる場所だから!」


そのまま神社の裏手に案内された。

 すると橙花達の指輪が輝き、橙花達はその輝きに包まれる——


×


 視界が晴れた時、橙花達は見知らぬ場所に立っていた。


「うわぁ、おっきな木!」


そう、桃絵もえが声を上げる。

 周囲が自然豊かなのは同じだったが、目の前にどうしようもなく巨大な木があった。巨大の中はくり抜かれており、中に人が入れそうな雰囲気だ。


「ここだよ! 『特別な場所』!」


嬉しそうにパレットは飛び回る。


「中に入ってみましょう?」


まるで御伽話の世界のような雰囲気で、檸檬れもんもやや興奮気味だ。

 言葉を発していないが茶姫さき藍華あいかも興味深々に周囲を見回している。


 中に入ると開けた空間があり、側面に沿って小さな本棚や机、椅子などが複数置いてあった。


「自分で持ち寄った本が置けそう」


と茶姫は本棚に興味を向け、


「ここでなら、周囲に邪魔されずにお勉強や魔法少女マギカのお話とかできそうね」


藍華は感心しきりだ。


「で、神社の裏手以外での行き方ってどうするの?」


 周囲を見回し橙花とうかはパレットを見る。


「指輪に向かって、この場所を想像しながら強く念じるんだよ」


簡単でしょ、とパレットは橙花を見つめ返した。確かに、簡単な方法のようだ。


「みんなで共通の名前を付けてみて! その方が、もっとこの場所をイメージしやすくなると思う!」


 パレットが提案し、橙花達は考える。みんなが色々と案を出してみるが中々決まらない。そこで


「じゃあ『憩いの場所オアシス』」


と橙花が提案してみた。


「シンプルね」

「覚えやすくて良いんじゃない」


なぜかそれに藍華と茶姫が興味を示し、檸檬も桃絵も特に不満もなかったのでその名前に決まった。


「魔法少女っていうのはね、溢れるたくさんのエネルギーでみんなを助ける存在なんだって聞いてたんだ」


とパレット。


「だから、みんなが魔法少女マギカになってくれて、本当に嬉しいんだ!」


実に嬉しそうで、橙花達も自然と笑顔になる。


「あと、念じたら指輪にものを収納することもできるよ! ここに持っていきたいものがあったら収納してみるのも良いかも!」


 「そんな便利機能が……」と、橙花達は指輪を見た。この機能があれば、さほど怪しまれずにこの場所に私物を持ち込めそうだ。


 それから中をそれなりに散策し、他にもそれぞれに丁度良さそうな小部屋を幾つか見つける。


「確か、指輪の所持した子の数だけあるはずだよ」


とパレットが答えたので、対応する魔法少女マギカ専用の部屋なのだ。「個人部屋だ!」と檸檬と茶姫は喜んでいた。


「じゃあ一旦おんなじ神社の場所に出て、そっちから帰ろっか」


 そうして、みんなは神社の裏手の方から出る。


×


 すっかり空が赤く染まった、その帰り道。


 『絶望デスペア』の暴れる気配がした。


「みんな! お願い!」


 パレットに頷き、橙花とうか達は魔法少女マギカに変身する。そして、急いで『絶望デスペア』の元へ向かった。


×


「……これ以上は、もう増えないようだな」


 そう、黒い格好の女性、ディールクルムは呟く。


「増える増えないってまるで虫みたいに言わないで!」


ムッとしてソムニウムピーチが言い返した。


「うるさい! 5人になっておいて文句を言うな!」


半ば自棄になってディールクルムも言い返す。


 そんなやりとりがあったものの、魔法少女マギカ達の協力プレイにより『絶望デスペア』は消滅し、世界の破壊が修復されて行った。


「一旦、あいつらのいる場所に潜入する必要があるか……?」


と、ディールクルムは考え込む。


×


 ディールクルムが拠点に帰ると、いつもの通りに、そこにはウェスペルとディエースが居た。


「この街を拠点にしてから数ヶ月は過ぎたぞ」


「そろそろ成果を出さないと僕達が危ないんじゃない?」


ウェスペルとディエースはディールクルムを見る。


「うるさい! お前達だって成果は出していない!」


魔法少女マギカへの対処法を考えていたその時。


「騒がしいですね。内部分裂は良くないですよ」


と、背の高い男が現れた。


「ルーナム・ノクテム様?!」


「最高幹部の貴方様が何故ここに」


 ディエース、ディールクルムは狼狽え、ウェスペルは静かにひざまずく。


「……この辺りに現れる魔法少女マギカについて確かめたいことがあります。保証はするので、しばらくは邪魔をしないように」


とルーナムと呼ばれた男は静かに告げた。


×


「楽しかったな」


 帰り道、やや鼻歌混じりに橙花は歩く。


「わたし、パレットと契約してなかったけどみんなとおんなじ場所に行けてよかった」


そう、安堵していた。

 実際、橙花以外のみんなはパレットが指輪を作っていたが、橙花の指輪は自前だからだ。


魔法少女マギカについて、今日は色々と知れた気がするなぁ」


今日を振り返って小さく呟いた。


「……じゃあ、『暗黒の国メディア・ノクス』って何者なんだろう」

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