第6話 適合者探し

 翌日。

 橙花とうかはパレットを補助の鞄に詰めて、学校に連れていくことにした。


「ぼく、みんなに見えないみたいだから大丈夫だよ?」


そうパレットが鞄の隙間から顔を覗かせ主張する。だが、


「いつ導引さんに会うかも分からないんだから気を付けないと、なの」


そう、橙花はパレットを鞄に詰め直しながら答えた。それに、毎日ではないが葦月いつきと登校時間が被る時があるのだ。

 別に悪い人ではない、とは思うのだがパレットの姿を見られた時になんて言い訳をすればいいのか思いついていない。だから言い訳をせずに済むよう、そもそも物理的に見えないようにしよう、と橙花は考えたのだった。


 登校の途中、橙花は友人に出会った。同じクラスの森河もりかわ茶姫さき氷室ひむろ藍華あいかだ。二人とは小学校の頃からクラスが同じだったり同じ班になったりする程度の仲である。


「おはよう、森河さん、氷室さん」


声をかけると二人も「おはよう」と返してくれた。そこまでは至っていつも通りだ。


「……あれ?」


 だが。

 なんとなく、彼女らが輝いているように見えた。

 そっと視線を巡らせ、周囲の人々を見る。……何らいつもと変わらない。


「(やっぱり、この二人、他の人よりキラキラ輝いているような……?)」


そう、不思議に思っていたところ


「橙花ちゃん、おっはよー!」


と、明るく声をかけられる。振り返ると夢咲ゆめさき桃絵もえが笑って手を振っていた。「うん、おはよう」と小さく手を振りかえすと、「えへ」と嬉しそうに笑う。


「茶姫ちゃん、藍華ちゃんもおはよー」


そして、桃絵は三人の方へ小走りで駆け寄った。合流したところで二人も「おはよう」と返す。


「うわ、眩しい」

「え?」


その笑顔が、橙花にはよりキラキラ輝いて見えた。それに思わずうめくと


「あー、朝日とか強いもんねぇ」


そう桃絵は納得した様子で一人、頷く。

 そうじゃないんだけど、とは思いはしたが、ややこしくしないためにも「そうだよね」と曖昧に橙花は頷いた。


 桃絵は席が隣(橙花が窓側)の同級生で、今年初めて同じクラスになった女子だ。ややおっちょこちょいで天然気味で、クラスのマスコット的存在。


「あ。あのさ、魔法少女って知ってる?」


「魔法少女?」

「急にどうしたの?」


そう、茶姫と藍華は不思議そうに首を傾げるが、橙花はややどきりとする。


「その魔法少女……が、どうしたの?」


会話で詰まると不自然なので、そのまま問い返す。鞄がごそごそと動くのを手で押さえながら。『魔法少女』の単語に反応したらしい。


「昨日見た魔法少女がね、かっこよくて。憧れちゃったんだー」


桃絵は夢見がちな表情で溜息を吐いた。


「ああ、最近噂の」

「確か、どこからともなく颯爽と現れる、のだったかしら」


藍華と茶姫は軽く相槌を打つ。だが、桃絵ほど熱量は持っていない。


「大きな怪物からみんなを守るなんてかっこいいよねー」


「そうだね」と、橙花は曖昧に相槌を打っておく。噂になっていたなんて知らなかった。

 本音はかなり恥ずかしい。


「じー」


「な、何?」見つめる桃絵に問う。


「なんか雰囲気似てるなぁって」


 意外と勘が鋭い、と思った。だがバレると明らかに厄介というか何か恥ずかしかったので「似てる人って世界に3人いるらしいよ」とてきとうに受け流した。


 校門を抜けて靴箱で、隙を見てパレットを放流する。


「気をつけてね」

「もちろん」


小さく頷き、パレットは飛んで行った。


「どうしたの?」


問いかける茶姫に「なんでもない」と返す。最近色々と誤魔化してばかりのような気がした。


「あ、」


振り返ると、今度は桃絵が覗き込んでいる。


「今日は入ってないね、ラブレター」


「毎日入ってもらっても困るよ」


「いいなぁ、ラブレター。あたしも恋とかしてみたい」


「わたしは恋されてる側だけどね」


「早く行ってくれる? ちょっと詰まってるわ」


藍華が割り込んだ。「ごめん!」軽く謝り橙花と桃絵は靴箱を出る。


×


 それから、何の問題もなく授業が開始する。


「夢咲! ちゃんと授業を聞いているか?」


 と、いつもの通り、桃絵は授業で教師に怒られていた。

 しょんぼりと項垂うなだれる桃絵を横目に、橙花はパレットについて考える。


「(ちゃんと、魔法少女になりそうな子見つけられたかな……)」


 休み時間になると少し廊下を歩いて、パレットが困っていないかを確認してみる。今回は見つからなかった。他の場所にいるのだろう。


「今日、何だかぼんやりしてたね? 考え事?」


 給食時間、桃絵に問いかけられた。

 パレットについて考えすぎたなんだと少し後悔する。


「そうかな? ちょっと朝食足りなくてお腹空いてたんだよねー」


そうどうにか誤魔化す。


 昼休み。

 考えてもしょうがないな、と思い直し、橙花は図書館へ向かう。


 その頃、桃絵は新しいものを探して校内を探検していた。

 中学2年生にもなって、と周囲には呆れられるだろうが、桃絵自身は真剣にやっている。


「ん? あれ、なんだろ?」


 屋上付近の階段で、何かふわふわと浮く白くて丸いものを見かけた。


「追いかけてみよ」


呟き、白いふわふわを追いかける。


「あ、あれ……?」


だが、屋上に上がったところで見失ってしまった。


「……何だったのかな、あれ」


白くてふわふわで、細長いものの先が淡く虹色をしていた。

 動いていたので多分生き物だろうが、そんな生き物を見たことはなかった。


「放課後、また探してみよ」

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