第4話 3
「ちょっと擦れてるお兄さんなんだよね」
はぁ、と溜息を吐いて歩みを元の速さに戻す。ちら、と振り返るも
ボランティアや無償の愛などを鼻で笑いそう、という意味で擦れた人だと
「
言いつつ、根は悪い人じゃなさそうなんだけど、と思う。第一に(おそらく給金は払われているものの)わざわざ中学生のために家庭教師をやる時間を作ってくれているので、根っからの冷笑主義ではない、と思う。
「……追いかけてこないな」
と、呟いてみた。元から期待はしていなかったが。
そのまま待っているのも
周囲は相変わらず平和である。所々に黒い
「……あれ?」
その途中、何か小さな声が聞こえた気がした。その声を放って置けなくて、橙花はいつもの帰り道から外れる。
そして周囲を見回しているうちに、建物の影で
「わぶっ!」
柔らかい何かが額にぶつかったのだった。
×
「
ぶつかった何かは剥がれたが、その衝撃が酷くて
「いたぁーいよぉ」
と、もう一つ声が聞こえる。ハッとして周囲を見回した。
すると、そこには白いうさぎのような生き物が顔を抑えて転がっていた。
「ひぃん、いたいー」
明らかに人間の言葉を話すその生き物は、耳の先がカラフルで、尾が絵筆のように細長く伸び、先が
「なんとなく、可愛い……かも」
橙花は冷静(?)に分析する。
どうやら可愛い物好きの橙花のお眼鏡には
すでに異様な男や巨大な純黒の怪物に出会い、自身は不思議な力で魔法少女に変身していたので、喋る動物程度にはもう驚かなかった。
そして、あまりにも痛がっている様子だったのでなんとなく申し訳ない気持ちになってくる。
「あーっと……ごめん、ね?」
痛みに夢中になっているらしく、近付いても気付かないので声をかけた。すると、心底驚いたように生き物は飛び上がり周囲を見回した後、橙花に気付く。
「わわっ、君……ぼくが見えるの?」
「え?」
思いもしない言葉に、聞き返した。
「ぼく、ちょっと見えにくいみたいで。他の人達に気付かれなかったから」
「ふーん?」
どうやら、この謎の生物は普通の人には見えないらしい。そうなると今見えている自分はなんだろう、と小さな疑問が湧き上がる。
「急に飛び出してきたみたいだったけど、どうしたの?」
疑問を堪えてその生き物に問いかけた。
「あ、えっと……」
きょろきょろと周囲を見回した後、意を決した様子で妖精は語る。
「『
「メディア・ノクス?」
そう聞き返した途端、
——ズシン
何か巨大なモノが動くような地響きがした。
「っ、まさか!」
慌てて橙花と生き物は地響きのした方へ向かう。
「我こそは『
そう叫ぶ声が聞こえた。見ると黒い格好の女性が純黒の怪物の側に立ち、険しい顔で周囲を見回していた。
「この辺りにいるのは分かっているぞ!」
その叫び声を聞き、生き物は「ひっ!」と怯えた様子で身体を縮こまらせる。きっとあの黒い格好の女性が探しているのは、この目の前の生き物のことだ。
そして周囲の喧騒が、段々と大きくなっていく。このまま放っておくのは間違いなく危ないだろう。
「仕方ない、きみ、そこにいてね」
「え?」
「『レインボーパクト』!」
橙花は叫ぶ。
かけ声に応呼し、可愛らしいコンパクトが現れ虹色に光る。それから橙花を中心に周囲に強い光と風の奔流が起こった。
「『オレンジ・フラワー』!」
そしてその奔流が消えた後には——
「元気になれるビタミンカラー、幸せを告げる『フロースオレンジ』!」
オレンジ色を基調とした可愛らしい服を身に着けた魔法少女、フロースオレンジがそこに現れていた。
「まさか、君は」
去っていくその後ろ姿に、生き物は小さく呟いた。
×
「出てこないならば、周囲を更地にするまでだ。『
ディールクルムが純黒の怪物に指示を出そうとしたその時、
「そうはさせない!」
フロースオレンジが目の前に立ち塞がる。
「なんだ、お前は……やけに
「わ、わたしは、『フロースオレンジ』! そこの怪物をやっつける者だ!」
「面白い。やってみせろ!」
そして黒い格好の女性は純黒の怪物から離れ、「暴れろ。『
それを火切りに怪物は雄叫びを上げ、周囲を破壊し始める。
「なんてことを!」
道路の整備とか税金かかってるんだからね! と叫び、フロースオレンジは手元に丸っこいフォルムの白い銃を発生させる。そして
「『オレンジ・ショット』!」
と怪物に何度か打ち込み、動きを止める。
それから銃をロケットランチャーの形状に変化させ、
「『オレンジ・バースト』っ!」
と、オレンジ色の煌めく光線で怪物を貫いた。
その光が消えた時には怪物は姿を消す。
「なっ……これは、報告せねば……」
言い捨て、黒い格好の女性は姿を消した。
それと同時に、周囲の破壊されていた景色がキラキラと煌めき、元の形へと修復されて行く。
×
人が集まる前に急いで移動し、人気のない場所で変身を解く。
「そういえば、あの小さい生き物くんのこと、『妖精』って呼んでたな」
呟きつつ、その生き物を待たせている場所へと戻った。
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