第3話 スキルを選ぼう
どうせ死んでいるのだし、お腹もすかず、疲れも感じていない。ゆっくり選ぼう。
ギフトとして渡すことができるスキルの一覧、と女神様は言っていたから、全てのスキルが網羅されているわけじゃないのだろうけれど、かなりの数がある。
ユニークスキルは勇者、賢者、聖女、剣聖とか、
一応、少しだけ説明を見てみる。
【勇者】
聖なる力で闇を討つ。スキルレベルが上がると、特殊な力を発動できるようになる。ユニークスキル。
【賢者】
全ての魔法の属性を持つ。スキルレベルが上がると高位の魔法を操れるようになり、消費魔力も減る。また、複数の魔法を同時発動できるようになる。ユニークスキル。
……すごいな。
間違いなく主人公になれるスキルだろう。勇者の特殊な力って、よくある「限界突破」のようなチート能力なんだろうな。たぶん。
賢者が操れる高位魔法も、災害級の威力を持つチート魔法なんだと思う。
ユニークスキルは、確かに、魅力的なものが多い。間違いなく、オンリーワンの力として、周囲から認められると思う。
でも……ユニークスキルを持てば、世界の動乱に巻き込まれやすくなる気がする。特別な力は、それを必要とするところに引きつけられる、というし。
特殊スキルも、剣技、槍技、魔導師、大神官、隷属師など、ぱっと見、強そうなものばかりだ。
【剣技】
剣を持てば力、防御力が大きく上昇する。スキルレベルが上がると、威力は増大し、さらに剣撃を飛ばせるようになる。剣術スキルの上位互換、特殊スキル。
【大神官】
闇と邪を払う力を持ち、大いなる癒しを施す。スキルレベルが上がると、力を行使できる範囲が広がる。僧侶スキルの上位互換、特殊スキル。
剣技、槍技とかは騎士団の団長が、魔導師、大神官は宮廷魔術師のお偉さんが持っていそうなスキルだ。もっとも、そんなスキルを持っていると、国に抱えられてしまいそうな気がするけれど……
果たして、自分は異世界で何を望むのだろう?
……考えてみる。
まず、主人公レベルの立ち位置は望んでいない。全然、望まない。どう考えても僕は、勇者とか賢者の性格ではないし。人の上に立つことは想像できない。無理。
それに、貴族が幅を利かせる元の世界でいう中世の頃のような政治形態が多いみたいだから、主人公の立場になると、権力争いに巻き込まれるのは不可避のはずだ。
僕は、どちらかと言えば、華やかな人生より、目立たなくて良いので穏やかな人生を選択したい。
確かに主人公生活への憧れがないとは言わない。これまで、同居人はハム助だけで、女性との縁もなく、ボッチに近い生活だったし。
でも、逆に考えれば、憧れているだけとも言える。
異世界で、長く安心して暮らしていくためには、目立つ力は持たないに限る。もちろん、力がないと安全に生きていくことはできない。でも社会の中で生きていく中で承認欲求を満たす生き方を選択すれば、権力に引き寄せられる。そして、引き寄せる力は「悪しき力」の方が強い、と思う……まあ、僕の偏見だけれど……
とにかく、目立つ力は不要だ。ユニークスキルは選択肢から外そう。一つしか抽選で貰えないし。
特殊スキルも同じだ。
複数のスキルを授かるとはいえ、ユニークスキルに及ばない。普通スキルの上位互換かもしれないけれど、ユニークスキルから見れば下位互換以下で、中途半端のように感じる。
もちろんスキル自体は、持つことのメリットは大きい。ユニーク、特殊、普通のいずれも、比較するから良し悪しを感じるだけで、単体で見ればデメリットはまずないはずだ。
だったら……もっとも数をそろえられて、しかも自分で選べる「普通スキル」が一番良いんじゃないだろうか?
うん、自分が望む異世界生活に必要なスキルを元に、普通スキルの中から探してみよう。
まず、転生先が、剣と魔法の世界であることから、過去に読んだ異世界ファンタージの小説や元の世界の中世の頃を考えると、危険がいっぱい潜んでいると考えた方が良い。避けきれない危険は必ず存在するはず。
ならば……避けきれないなら、その危険から逃げられる手段を持ちたい。
「逃げる」ことを考えたら……うん、まずは「転移」のスキルが欲しい。「転移」というイメージは特殊スキルなんだけれど、一応、普通スキルの項目の中にあるし。
次に「転移」の弱点を考えてみる。
……阻害かな。
小説とかで転移の能力を持つ者がやられる一番の機会は、その能力が使えなくなった時だと思う。麻痺とか混乱とかで、転移ができない、とかあり得そうだ。
それに、王宮とか国の中枢となる場所は転移を阻害できる「何か」で守られている、と考えた方がよいと思う。もし、転移の阻害が全くできないとなると、暗殺し放題になってしまうし、宝物も盗み放題だ。
もちろん、そんな大層なところに行くつもりはないけれど、例えば、罠にかかって、転移が阻害される部屋に幽閉されることもあり得ない話じゃない。
それに、「転移」が特殊スキルじゃなく、普通スキルであることを考えれば、この世界では、比較的容易な魔法なのかも。だとすれば、その対抗手段も多く存在しているはずだ。
だから、「転移」を邪魔する要因を妨げるようなスキルが欲しい。
あとは、逃げなければならない状況を知ることも大切だ。不意打ちは、転移の弱点になる。
そして、他人に知られない=頼らない生活を考えるならば、自分で回復できるスキルは必須だと思う。
こうして、いろいろと考えた結果、普通スキルの中から、5つのスキルを選ぶことにした。
説明を見て確認する。
【転移】
任意の場所に転移できる。レベルが上がれば、転移できる距離や量などが増える。普通スキル。
【耐性】
毒や麻痺など、体や精神に生じる異常状態に対して耐性を得られる。パッシブ化も可能。普通スキル。
【察知】
気配や悪意などを探れる。パッシブ化も可能。普通スキル。
【治療】
怪我や病気などを癒す。レベルが上がれば癒せる範囲や内容が増える。普通スキル。
【鑑定】
対象を調べることができる。レベルが上がると鑑定できる対象が増える。普通スキル。
これでどうだろうか……
本当なら、転移を阻害する要因を無効化できるスキルが良かったのだけれど、「無効」スキルは、普通スキルではなく特殊スキルだった。その下位互換が「耐性」だったのでこれを選んでみた。それに、異常状態に陥らないことは、大切なはずだし。
選んだ中に、攻撃や身体強化のスキルは一つもないけれど、危険があれば、戦うより逃げることを選ぼうと考えているのだから、これでいいはず。
それに、剣を振っていれば剣術は覚えるみたいだし、わざわざギフトで選ぶ必要はないと思っている。
なにより、僕の精神は、間違いなく貧弱なはず。異世界が、元の世界の中世や戦国時代の雰囲気ならば、人の死は僕が想像している以上に身近だろう。
何より、戦うことを選べば、「人の死」に出会うことは避けられないはずだ。
それも、その死を他人がもたらすのではなく、僕がもたらす可能性もある。正面からの殺し合いに巻き込まれて、戦った上で、他人の死を見ないでその戦いを収めるだけの技量を身につけられるとはとても思えない。そうなると他人の死を見ない代わりに待っているのは、高確率で「自分の死」ということになるだろう。
なので、鋼でできた精神を持たない僕は、やっぱり戦うよりも逃げることを優先するべきなんだと思う。耐性のスキルで、もし「グロ耐性」が得られるようなら、そこで改めて戦うスキルを育ててもいいんじゃないかな。
とにかく僕の安全な異世界ライフを支えてくれるのは「戦う」スキルではなく、「逃げる」スキルのはずだから、だいたいこのチョイスで大きく間違っていないと思いたい。
よし。
「これでいいかな……」
「決まったみたいね」
近くで待っていたのかな。僕がつぶやくと、女神様の気配がすぐに戻ってきた。
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