第4話
門をくぐり教会まで送ってもらったけど、あとはご自由にとばかりみなさっさといなくなってしまった。ねぇ、わたしまだ10歳なんですけど!たしかに、10歳から働きにでる子もいるけどさぁ……はぁ。
王都の教会と比べると小さくボロい印象だが、ここで足踏みをしているわけにもいかないと行列を横目にトボトボと教会内へ入った。
「ご用の方は列に並んでくださいっ!」
「え、いや……あのー」
睨まれてしまった。こわっ。仕方ない……なんの列かよくわからないが並ぶことにしよう。
「本日はここまでとなりまーす!」
「「えぇ」」
「「そんなぁ」」
「「「まただわ……」」」
「俺、締め切られたのもう3度目だぜ」
「儂は2度目じゃ……あそこの婆さんは6度目らしいぞ」
「やっぱ、日が昇る前から並ぶしかないかの」
「はっ。そんな元気あったら教会に来ねぇっての!」
「たしかになぁ」
あれ?列に並んでたのに締め切られた。並んだ意味ねーな!
「あのー、すいません」
「もう、だから今日はもう終わりなんです!」
「いや、そうではなくて……こちらを司教様に渡していただきたいのです」
少し強引に王都の教会でもらった手紙を差し出す。
「えっ!少々、お待ちを!」
どうやら、わたしのことはあの手紙で初めて知るようだ。
いや、それでいいわけ?事前に連絡いってるよね?え?教会で調整待ちって馬車とかそういう意味だったの?聖女候補派遣の書簡と聖女候補が同時に到着ってアリ?
少し待っていると……
「手紙は拝見しました。ようこそ候補殿」
「リリシュと申します。よろしくお願いいたします」
司教様が丁寧だったのはここまでだった。
部屋を振り当てられ、世話係が紹介されたり指導されるのかと思えば……
「あとは適当に見て学んでください。我々も忙しい身なのでね」
ふんっと鼻で笑って去っていった……まじかよ。
王都の教会では詳しくは現地の聖女や司教などが教えるとしか聞いていなかったけど……きっと、教えてもらうにも賄賂が必要なんだろうな。
けっ……そんなお金ありませんよーだ。
翌日からとにかくやるしかないと必死に見て学ぼうとしたけどさ、ろくに見せてもらえないのね……それに聖女や候補の数も少ないし、下働きばかりさせられて同じ空間にいないことの方が多い始末。
見るに見かねた平民出身の回復魔法使いロレンザ(足腰が弱くなった老婆)さんがこっそりコツや魔力について教えてくれなければ途方にくれるところだった………まぁ、回復魔法と聖女の聖魔法は微妙に違うけどさ、魔力の扱い方とか教えてもらえただけでも安心感が違うよね。
といってもロレンザさんも教会に身を置いていて、立場が弱いからばれないように短い時間だったけど。
ともかく、わたしの聖女候補生活はロレンザさんのアドバイスと教本が頼りに始まった。
教えてはくれないのに「あなた、これやっといて」「そこの候補!これも頼む」など続々と仕事がまわってくるので必死に工夫した。
魔力が余ったときや寝る直前には魔石に自身の魔力をこめて予備とした。
これは教本に魔石に聖魔法を閉じ込める方法として載っていて、それなら魔力も出し入れできるのでは?と試してみたら出来たのだ!
他のひとがやっているのは見たことないけれど、これが出来るようになったことでいくらか楽になった……が、その分仕事が増えたので負担は変わってない。
毎日、魔力枯渇で気絶していたらじわじわと魔力が増えることも発見した。
魔石は伯爵令嬢時代のアクセサリーからくすねてきたものを使用したり、貧民街に住む中年の冒険者夫婦のマレナさんやドルツさんがたすけてくれた。
マレナさんたちはわたしの扱いに気づいたんだろう……わざわざ行列に並んでこっそりと手紙を渡してきたのだ。
行列とは当初わたしも並んだアレである。
聖女の癒しを求めたもので聖女や聖女候補たちは貴族やお金持ちしか相手にしないため、平民は行列に並ぶか賄賂を渡して別入口からいれてもらうしかない。行列はすぐに締め切られることも多く並んでも無駄になることも……辺境でも賄賂は力を持っていたのだ。
まぁ、辺境に追いやられたひとたちばかりだから当然といえば当然か。
平民のほとんどはわたしかロレンザさんの担当でロレンザさんは体が不自由なためわたしの負担は大きくいつも駆けずり回っていた。
回復魔法は聖魔法の下位互換という認識で回復魔法と聖魔法の一番大きな違いは瘴気が浄化できるかどうかだ。
瘴気は詳しいことはわかっていないが瘴気の濃いところでは魔物が発生したり、人体に影響を与えるので浄化が必要なんだとか。
そういう姿を見て、マレナさんからの手紙には困っていることや必要なものはないか?逃げるときは手を貸すなど……気遣うことばかりが書かれていた。
ロレンザさん曰く、ふたりは冒険者をしながら捨て子を見つけては育てている気のいいひとたちなのだそう。子どものわたしを心配してくれたのかもしれない。
実父に迎えられて唯一よかったと思えるのは読み書きが完璧に出来、貴族になりきるマナーを学べたことかな。
短期間なのでマナーは付け焼き刃だが、それまでも読み書きはなんとかできたがスピードが違うし誤字も多かったから。
貴族になりきるマナーは学んだけど教会ではほとんど役に立たない。だって、そこらの平民出身の下働きより下の扱いだからねっ!
冒険者でも識字率は低いというのにワザワザ手紙を書いてくれるなんて……悩んだけれどほしいものは魔石を頼んだ。切羽詰まっていたので!一番安いやつでいいので……だって、冒険者ならよわい魔物を倒すこともあるかと思って。もちろん、お礼にわたしのできることはしたよ。魔石に聖魔法を込めて渡したり……ね。
逃げ出すことも考えたけど、お偉いさんに逃げたらわたしによくしてくれる人たちを傷付けると匂わされ断念。お偉いさんたちって無関心なようでひとの弱点となるところはキチッと押さえてくるんだから末恐ろしい。
わたしは毎日のように早く手の甲の紋様が消えて慰労金をもらって平民として暮らせればいいのにと願っていた。
あ、ふさふさの髪が自慢のお偉いさんに禿げの呪いもかけておいた。せいぜい禿げるがいい!
教会は護衛という名の見張りがいるため接触は難しい……が、時々平民出身の護衛がいて見て見ぬふりをしてくれるためなにかの受け渡しはその時に行うか、護衛の中にに冒険者夫婦に育てられたこどもがいるらしくたまに手引きしてふたりと会わせてくれた。
まず、会って教えてもらったのは暗号である。
わりと簡単なのだが……手紙を手順通りに折っていくと文字が出てくる仕様だ。
この暗号はふたりに近しいものしか折り方を知らないそうで、知らない人から見ればくしゃくしゃの紙だと思われるので重要なことはそちらを使うことが増えていった。この折り方を知っているひとは信用してもいいみたいだ。ふたりには感謝しかない。
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