第6話 正面突破
輝かしい平原は森の影に寝ていた私の睡魔を煽ってくる。でも慣れているから気にはならない、いつもなら――――、
「おい、起きろー、もう昼だぞ」
「……揺するな」
「なんだ、起きてたのか」
イーグル大町から逃げてきて、ここはそこから少し離れたイーグル平原、その森の傍ら。目覚めて初めて視界に入ったのは暑苦しいライラットの顔だ。
「てか近い」
「ああ、悪い悪い――――ってそんな顔すんなよ、ほら飯あるぞ」
私を宥めるようにスープの入った木の皿を手渡してきたライラック。
むしろこういうところに腹が立つが、嗅覚は正直に食欲を促してきて、もう諦めた。
「っ!?」
「お? 美味いか?」
「……悔しいけど」
「そうか、作った甲斐があったな。ほれほれ、まだたくさんあるぞ」
まだ一口しか食べてないのに零れるくらいに装ってきた。馬鹿なやつ。こんなに食べたらこの後動きにくくなるというのに。
ただそんなことはあまり気にならないほど、ウサギ肉のスープは美味しい。
「この美味い料理。俺がいてよかったな、アルスト。なぁ、そうだろ?」
「別に適当に狩りしても十分だった」
「略奪はしないんだな?」
「暗殺者でもいろんなやつがいる」
「まぁ、そりゃそうか」
食事を終え、身支度を整える。いつどこで敵が現れるかわからない。
短剣は数本だけ、戦闘を避けていくしかないか。
「さて、港と小さい村が近くにあるが、どっちに向かうんだ?」
「港だ」
「そうか、じゃあ先導する」
「……」
「おい、どうした?」
ライラックのアホ面がよく見える。わざとらしく嫌悪を示している私がわからないのだろうか。
「なぜ私と一緒行動しようとしてる?」
「なぜって、まぁ、行くところないしな。俺も追われる身になったし」
「軽々しく言うが、私はすでに用心を殺している。危険だって理解してるのか?」
そう問いかけるとライラックは恐れるどころか喜びの笑みを浮かべ、
「ああ、もちろんだ。」
と答えた。
本当にわかっているのかと疑問が隠せないが、どうせこの男が死のうがどうでもいいかと、納得できた。
「足手まといになるならすぐ置いていく」
「はは、その威勢、頼りになるな」
こうしてライラックと平原を歩き、港へ向かった。
その道中は一人でいたよりもだいぶ煩いものに違いない。代わりに賊などの戦闘で短剣と体力をかなり節約できたからと、納得しといた。
イルグル大陸、その東の端にイーグル大町があり、その周辺がイーグル平原。この平原を道なりに進んでいくと、ダーン港町がある。
クルードはきっと港町で船を用意しているはず。そうでなくても、アジトに戻るには海を渡らないといけない。だからダーン港町へ向かっていたけど――――門の前には騎士が数十人待機して、見張り塔からの視線も厳しい。
「いや、これは大変だ。港町だから入り口はあの門しかないぞ、どうする?」
「今考えてる」
「わかった。砥石使うか?」
こちらは準備できているという眼差しで砥石を差し出された。惑うまでも無く、結論は一つ、正面突破だけか。
「決断が早いのは馬鹿だからじゃないみたいだ」
「はは、今更わかったのか」
物陰から出て、私とライラックは門へ駆けだした。そして数十メートル、見張り塔の兵は私たちに気づいて鐘を鳴らした。
門まではもう数十メートル、急ぎ走るが、門の上ではすでに隊列を組み弓を構えた兵へ、一斉射撃を告げる手が振り下ろされた。
「三回くらいなら足りる」
「頼むぞ、アルスト」
空から降ってくる矢の雨、その一群を前へ抜けきるのも後ろへ引くのもできる距離ではない。
だから――――私は中範囲の風圧のシールドを張り、ライラックの分も含め、その矢を弾いた。
「ナイス、さすがだな」
「口よりも足を動かせ」
「ったく、冷たいやつだな」
門までは25メートル。兵は再び弓を構え、こちらへ一群を差し向けようとするが、ずっと構えたまま放たれない。
兵の頬をなぞる汗がその焦りを象徴している、また忠誠心も。
「なっ!? 司令官!?」
ただ過度な緊張と真面目さは首を無くした引き金に気づくのに遅れすぎたようだ。司令塔はすでに私の投げた短剣が殺害していた。
「よし、正面だ。任せろ!」
「わかった」
門の前、数十の騎士が武器を構えてこちらへ向かってくる。ライラックは臆することなく、その大斧を抜くと、私の前を駆けていった。
「この数をたった一人で突破できると思っているのか!」
「馬鹿はすぐに死ぬだけだ!」
「じゃあやってやるからよく見とけよ!!」
正直、私はライラックが自信気に正面突破を勧めたのか、よくわからなかった。どんな優れた前衛であってもたった一人で数十の騎士を相手するのは難しすぎるし、ライラックにその腕はない。
でもその大斧を大きく振りかぶった瞬間、わかって戸惑った――――ライラックはその大斧を前方の騎士ら目掛けて投げつけた。
「はぁ!?」
驚くも騎士たちはしゃがんでブーメランのように飛んでいる大斧を躱すしかなく、私とライラックはその頭を踏んで門を突破した。
「武器を投げるなんて!」
「なんだ、あの野蛮な男は!」
「はは、騎士道が仇になったな!」
門に刺さった斧を引き抜きながら騎士たちを煽るライラックだが、
「抜けない!」
「やっぱ馬鹿だったな!」
「死ねえい!」
なかなか斧が抜けず、騎士たちに襲われるところだったから、仕方なく短剣を投げた。
「た、助かった。ありがとな!」
「うるさい、さっさと行く!」
こうして私とライラックはダーン港町の中に入ると、しつこい追っ手を振り切り、空き屋に身を隠した。
逃げている間もライラックが乱暴に戦うせいで、なかなか振り切れなかった。本当によくうまくいったと思うほどだ。
「巻いたみたいだな」
「ああ……はぁはぁ……」
「おいおい、これくらいでそんなへばってんなよ」
「うるさい……誰のせいで……」
言いたいことはあるだけ、仕方はない。とりあえず休憩しながらクルードの連絡を待つか。これだけの騒ぎなら気づいているはずだし。
――あとがき――
久々に書いたからキャラがブレているかもしれない。
アルストは冷静な男みたいな女子、ライラックは馬鹿だけど優しい男、割と言葉は器用。そんなイメージ。
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