第4話 夕陽に照らされる戦士たちの影

ウィルソン家はイーグル大町の統治者だ。

元々小さい村だったイーグル大町を発展させ、その功績から世界で最も権力のある貴族、四貴族の一つに選ばれた。

それからおよそ50年後、ジョー・ウィルソンがイーグル大町を統べるようになり、イーグル大町は他の大町に比べて見劣りするようになった。

そのせいか、この町に強い誇りを持っている年長者の間ではジョー・ウィルソンの悪評が絶えず、前の統治者であるウィリアム・ウィルソンのほうが町を支配するに相応しいということがよく言われていた。

この前ジョー・ウィルソンが死んで、今はウィリアム・ウィルソンが代理で仕事をしている感じだが、町の活気は上がり始めている。

「だからなに?死んだ人間のことなんて興味ないけど」

「だから、ジョー・ウィルソンが死んで悲しむ人はいないってことだ。裏では薬の取引とか武器を山賊に流していたとか聞くぜ。」

「・・・そんなことはない。」

「山賊とつながりがあるのか、暗殺者は。」

私とライラックはイーグル大町の下水道を歩いており、南の塔に向かっている。

ライラックが言うには、夕方は南の塔の人が少ないから、そこから防壁に入って外に出るのがいいと。

「それよりも何で私を助けた?」

「あ、いきなりかよ」

「せっかく、借金取りがいなくなったのに。これじゃあ私のしたことが無意味。」

「だったらあそこで助けなきゃ、俺がお前を看病した意味ないだろ?」

「・・・あっそ」

「こういうときはお礼を言うもんだぞ?」

「うるさい」

暗い下水の中でもライラックの笑い顔が見えてしまうのが気配でわかる。

職業病ってやつか、最悪だ。

「あー、俺も指名手配犯か。大変なことになったな。」

「だから助ける相手は選べって言ったでしょ。」

「選んだ結果だ。」

「・・・うわ」

だれかこの男に暗殺依頼を出してくれないか。

いつでも準備はできてる。


下水に入って30分くらい、ライラックの足が止まった。

上にはマンホールがある。

「ここだ」

「たしかに人は少ないか」

ライラックが梯子を上っていく。

やっぱり馬鹿なのか。

「おい、何してる」

「何って上に出るんだろ?」

「下りて」

「・・・?」

ライラックは不満げに梯子を下りた。

「なんだよ?」

「作戦立ててないでしょ」

「ああ、そんなのもあったな」

「・・・はぁ」

どうやってここまで生きてきたんだ、ライラックは。

不安しかない。

「で、作戦はなんだ?」

「・・・ライラックが突っ込んで、私が後ろから仕留める」

「戦うのは確定か」

「そうに決まってるでしょ」

「そうか」

敵がいないのは南側だけ、正門側は敵で溢れてる。

できるだけ戦闘は避けながら逃げるのを優先。

「あと馬には乗れるか?」

「ああ大丈夫だ」

正門上までたどり着いたら両脇の塔から平原に出て、馬小屋から馬を盗んで逃げる。

念のためライラックに作戦をもう一度言ってから外に出た。


イーグル大町の南街は倉庫や工場があり、夕方になると仕事が終わって人が極端に減る。

でもそれは最近の話だ、統治者が変わった最近の。

「いい場所」

「お前こんな辛気臭いところが好きなのか」

「違う」

マンホールの外は南街の倉庫裏の道。

しかも南の塔はすぐそこだ。

私は走り始める。

「おい、隠れないと見つかるぞ」

「見つかって何が悪い?」

「すでに戦闘モードってことか」

南の塔の人数は少ない。

ならば、ここからは突っ込んでいくだけ。

アルストは短剣を、ライラックは大斧を手に持って走り出した。


イーグル大町は夕陽を見ることはない。

なぜなら大きな壁で影になってしまうためである。

それでも赤い夕陽が見たいならその壁の上に行くしかないだろう。

まさしくそこは黄昏の場所。

「大変です!暗殺者らが現れました!南からです!」

「きたか!備えろ!こっちにも来るぞ!」

「もう来てます!」

「なんだと!」

大斧を持った男が立ちはだかる騎士をなぎ飛ばし、赤眼の黒い服の少女が後ろから短剣を飛ばす。

すでに二人は南から上って正門までの道の中腹まで来ていた。

「おりゃ!どけどけ!」

剣を持つ騎士はその剣を折られ、槍を持つ騎士ならば投げ飛ばされ、弓を持つ騎士でも短剣で刺される。

完全に戦場は二人が支配していた。

「だったら盾はどうかな?」

「隊長!」

「下がっていろ!」

大きい盾と剣を持った騎士の隊長が防壁の道を塞いだ。

「まずいな、相性が悪い」

「そう?」

「どうするんだ、アルスト!」

「同じでいい」

「あいよ!」

ライラックは指示に従って大盾隊長に攻撃を浴びせる。

大盾隊長は鈍重な攻撃を盾で防ぐ。

「おりゃ!おら!」

「無駄無駄!盾は斧より強い!」

ライラックの攻撃は盾で弾かれる一方、大盾隊長も攻撃はできていない。

「じゃあ短剣は?」

「なに!?」

大盾隊長がその声に振り向くと、すでに手下の騎士は倒れていた。

そしてアルストはその背中を短剣で斬った。

「うわ!」

「短剣が盾より強いってことは、斧は短剣より弱いってことかよ?」

「くやしかったら行動で示せ」

「あいよ。」

どこからか謎のうめき声が響き、イーグル大町の市民たちは防壁に映る二人の影を見つめていた。

北の市民は心配し、東の市民は笑い、南の市民は不思議に思い、西の市民は騒いで酒を飲んでいる。

「まずいです!7番隊も5番隊も3番隊も全滅です!」

「なんだと!相手はたったの二人だろ!」

「今度は・・・俺たち6番隊か・・・?」

「来ました!」

「くそ!」

大斧を振り回す男は休みなく騎士を屈服させ、短剣を投げる少女は間髪入れずに騎士たちを嘆かせた。

「お?」

現れたのは9人の騎士と1人の隊長。

「隊列を組め!」

「はい!」

6番隊は前に盾を持った騎士、その後ろに槍を持った騎士、さらに後ろに弓の騎士、そして隊長。

「なんだ?」

「かまうな、同じでいい」

「おう、わかった」

隊長は震える手を上げる。

「撃て!」

その手が下がると弓兵が一斉に矢を飛ばした。

矢はまっすぐ壁が迫るように二人に向かってくる。

「弓兵は嫌いなんだよ!」

ライラックは斧を振り回して矢を落とす。

それでもすべては止められず、後ろに流れて行った。

「やべえ!アルスト大丈夫か!」

ライラックは後ろを向いてアルストの安全を確認するが、アルストはそこにはいない。

「ひぃいいい!命だけは!」

「ん?」

ライラックが前に目を戻すと隊長以外の騎士は倒れており、アルストに短剣を突き付けられた隊長がいた。

「命だけは!」

「・・・」

アルストは短剣を振る。

隊長は倒れた。

「・・・気絶してやがる。騎士ってどうしようもないな。」

「もうすぐで正門の上だ」

「おう!」

二人は走る。

かなりの人数いた騎士も立った一人の暗殺者と店主によって大半がやられていた。


イーグル大町の夕方は仕事帰りの人々が通りを歩き回っている。

その中、慌てて動いている騎士はさらに道の混雑ということで慌ててしまう。

「ねえママ、あれなに?」

「あれは・・・なんだろうね」

「お嬢ちゃん、ありゃあ戦士だよ。暴れ足りねえ戦士だ!」

「近寄らないでください!」

「冷たいなぁ!はっはっはっは!」

防壁の上が混乱しているわりには、防壁の中はそこまでいつもと変わらなかった。

それは壁の影によって見えないからというわけではないようだ。

「おっと、凄い人数だな」

「正門付近は道が広い、気をつけろ」

「あいよ!」

二人はついに正門のすぐそこまでやってきた。

そこには騎士が数十人固まっていた。

「降参しろ!不毛な戦いに意味はない!」

少し前には近接武器を持つ騎士が列を組み、奥には弓兵が何人もいる。

「待ち伏せか、どうする?」

「降参するわけない、倒す」

「そうだよな、アルスト!」

消して武器を下げない二人の戦士。

「ならばいいだろう、死んでから後悔しろ!」

弓が奥から一斉に発射された。

それと同時にライラックは距離を詰める。

矢は掠ることなく無効化された。

そして大斧に騎士は振り回された。

「前列後退!距離をとれ!」

「無理です!耐えきれません!」

「っく・・・じゃ、じゃあ撃ってしまえ!」

「何を!それじゃあ前の騎士が死んでしまいます!」

「かまわん!やれ!」

司令塔は手を振った。

しかし矢は飛ばない。

「や、やれ!」

指示している間も騎士たちは斧で倒されていく。

「や、やれ!弓!弓!?」

言うことを聞かない弓の騎士たちのほうを睨んだ司令塔。

しかし、すでに彼らは全滅していた。

しかも司令塔の首には短剣が触れている。

「貴様・・・何が目的だ?」

「・・・」

暗殺者は何も答えず殴って気絶させた。

そして倒れた騎士たちを眺めた。

「おい!これで全部みたいだ!」

「いや、まだ来るぞ」

「うわ、ほんとだ」

倒れている騎士たちの道からぞろぞろと騎士が走ってやってきている。

「今頃だけどな」

「逃げるぞ!」

「そうだな」

正門の塔は目の前、敵もほとんどいない。

防壁の上は走ってやってきている騎士を除けば壊滅状態だ。

「以外に楽だったな」

「安心するな、まだ終わってない」

「ああ、そうだな」

二人は正門上まで走る。

そこにはだれもいない。


正門の上には二つの塔、そこから外に出られる。

そして二人はそこにたどり着いた。

「おい、町見ろよ。絶景だぞ」

明かりが灯りはじめたイーグル大町、壁の上から一望できる。

正門から最も遠いところにあるウィルソン家の屋敷もよく見える。

そこにも明かりが灯り始めた。

「そんなことをしにきたわけじゃない、塔を降りるよ」

「屋敷の方とかじっと見てたくせにな」

「うるさい」

二つの塔があるが、片方は扉にカギがかかっている。

もう片方は空きっぱなしだ。

「なんで片方だけ?」

「どうでもいい、早くしないと追いつかれる」

「まったく、せっかちだな」

こんなところでぐずぐずしている場合じゃない。

私は早く帰りたいだけ。

アルストはその塔に早歩きして向かう。

「!?」

この気配、上からか。

「逃がさんぞ、暗殺者」

上から降ってきた大剣騎士は塔の入り口を塞ぎ、大剣で塔の入り口を破壊した。

最悪だ。

「しつこいな、お前」

「ここで、殺す」

大剣騎士は間髪入れずに斬りかかってくる。

飛ぶわけでもなく走ってきている。

「作戦は?」

「そんなものない。」

「了解。」

考えている暇なんてない。

ここでこいつが現れることなんて想定外だった。

でも倒すしかない。

倒さないと先に進めない。

「じゃあこっちも行くか!」

こっちへ斬りかかる大剣騎士に正面からぶつかりに行ったライラック。

大剣と大斧の衝突音が町に響いた。


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