知識インストール

えふの

第1話

 中学校からの帰り道、いま私は寄り道して、近所の叔父さんの玄関前に立っている。インターホンを鳴らすと、ススム叔父さんが出てきた。


「カレンちゃん、いらっしゃい。学校の帰り?」

「そう」

「お母さんからは、あまりここで遊ぶなって言われてない?」

「言われているけど、今日はお母さんも遅いし」

 家に入りながらそんな会話をぽつぽつとする。

「それに見せたいものがある! って言ったのはススム叔父さんじゃん」

「そうだったね」


 ススム叔父さんは、お母さんが言うには暇人だそうだ。たしかに私がいつ来ても、家にいるし、どんな仕事をしているのかも知らない。

 でも、叔父さんは学校の先生たちとは違って、友達みたいに話せる不思議な人だった。

 一度、お母さんにそんな風に言うと「叔父さんは、見た目は大人だけど中身が子供だから」と言っていた。それを聞いた時「そうかもしれないな」と私も思ったのを覚えている。


 私と叔父さんはリビングで椅子に座って、クッキーとレモンティーを食べながら会話する。

「それで、中学校はどんな感じ?」

「どうして大人って、みんな同じ質問をするの?」

「カレンちゃんが中学校でどう過ごしているのか、僕は見ているわけじゃないからね。授業を受けているところとか、友達とどんな風に接しているのかとか、カレンちゃんから聞かなきゃわからないんだよ。そういえば僕も子供のころに同じ質問を考えてたなぁ」

「中学生になって勉強がちょっと難しいなって思う。友達は小学校からの友達が同じクラスにいるし、席の近い子とも仲良くなれそうだから普通」

「交友関係は順調そうでなにより。勉強は難しい?」

「ちょっと。この前、小テストの点数が悪くてお母さんに怒られた」

「塾にも行ってるんだっけ?」

「そう。週に3回」

「学校と塾の授業だと、どっちがわかりやすい?」

「塾かなぁ」

「そうなんだぁー。僕が子供の頃の感覚とあまり変わらないなぁ。ちなみに勉強は好き?」

「勉強が好きな子っているの?」

「それがいるんですよ、カレンさん」

「本当に?」


 勉強が好きだなんて信じられない。


「勉強が得意な子とかね。僕も子供の時に、勉強が好き子がいるなんて知ったときは驚いたよ。あとはそうだなぁ。自分が興味のあることを調べるのは楽しいから、それがいまの勉強の範囲と被っている子とか?」

 今日の会話は話題が学校のことばかりで、私はいつもより口数が少なくなってるかもしれない。

「カレンちゃんは勉強の話題は嫌い?」

「叔父さんはどうだったの?」

「嫌いだったねー」

 じゃあ、なんでこんな会話をしているのか、と私の表情から読み取ったのだろう。叔父さんがこんなことを言ってきた。


「勉強しなくてもよくなったらどうする?」


「え?」

「もうちょっと正確には、勉強しなくても学校のテストで、いい点数を取れるようになるとしたら、かな?」

「カンニングとかズルをするってこと?」

「ズルになるのかなぁ。強いて言えば、勉強するだけなら塾でいいってパターンの強化バージョンというか」

「なにそれ」

「百聞は一見にしかず。おやつも食べ終わったし、ちょっとあっちの部屋へ行こう」


 そういって立ち上がった叔父さんについて行く。目的の部屋に着いたらしく、叔父さんは部屋の扉を開けると「じゃじゃーん!」と言った。

 部屋の中には、歯医者さんで見たことがあるようなリクライニングシートと、線がいっぱいつながったヘルメットとVRゴーグルが合体したようなものがあり、線をたどっていくと、大きなパソコンが置かれていた。


「なにこれ」

「勉強しなくてもよくなる装置」

「ウソっぽい」

「いまって勉強するだけなら学校に行かなくてもYouTubeやネットで勉強したり色々できるでしょ? それをさらに効率化したのがこれ。ざっくり言うと、スマホにアプリをインストールしたり、色々必要な情報を検索するみたいに、知識を頭にインストールする装置」

「スマホくらい頭がよくなるってこと?」

「まぁ、そんな感じ。ちなみに叔父さんも自分で使って試してあるから心配しなくて大丈夫! これを使えば、次のテストからは90点以上間違いなし!」

 叔父さんは、ときどきこうやって変なものを作っては自分で試している。怪しいけど、私はちょっとした好奇心と、テストで90点以上という言葉の誘惑に負けてしまった。

「じゃあ、ちょっとだけ」

「そこのヘルメットを被って、目は開けたままリクライニングシートに横になって」

 言われた通りに横になってる間、叔父さんはパソコンのキーボードをカタカタと叩いている。

「中学生の授業範囲だと、こんな感じかな。設定はこれでヨシっと。それじゃあ始めようか。スタート」

 ゴーグルのディスプレイに「インストール完了まであと3分です」という文字が表示される。

「3分、横になってるだけでいいの?」

「そうだよ」

「ウソっぽい」

「まぁまぁ1回だけ、だまされたと思って試してみてよ」

 ゴーグルのディスプレイに「インストールは完了しました」という文字が表示された。

「終わったみたい」

「どう?」

「なにも変わらない気がするけど」

「じゃあ、試してみよう」


 そういって、私は叔父さんが取り出した問題集の問題を解くことになった。


 叔父さんが私の説いた問題の解答の答え合わせを赤ペンでしている。

 けど、私はなんとなく結果がわかってしまっていた。

 叔父さんが解答用紙をこちらに見せてくる。


「じゃじゃーん! 全問正解です。おめでとうございます」

「できちゃったよ……」

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