第9話 ︎︎魔窟への誘い
歩く度に、ベールの飾りがしゃなりと鳴る。
この国の民族衣装は
何もかもが故郷と違う。
風は砂を含み、乾燥していて、喉が痛い。
砂漠の昼間は暑い。その中を呼びつけるのも、
だが、それも
迎えに来た侍女も、
その柄を選ぶのも、ひとつの教養と言っていい。この日、
生地も絹ではあるが、色は
離宮に辿り着けば、そこは自分達の宮とは比べ物にならないほどの絢爛さだった。貴重な紫の塗料をふんだんに使ったタイルの壁画、それを縁取る緻密な細工。さすが王太子の宮だけはある。
先導の侍女について行きながら、
この広大な宮も、富と権力を誇示するためのもの。宮自体の絢爛さも勿論だが、その庭や至る所に飾られた生花は、新鮮さを保ったまま輸入するには莫大な金が必要だ。
それが、廊下のあちこちにある。奥に進むにつれ、それは顕著になっていく。
ハレムのサロンも奥まった場所にあった。ここに着くまで、幾度も角を曲がる。方向感覚が麻痺しそうな作りは、王太子を守るための物だろう。
ハレムには王太子の子供もいる。まだ産まれて間もない乳児が三人。同時期に産まれた子供達も標的に入っている。男児が一人と女児が二人。次の王太子となる嫡男がいるのだ。残酷なようだが、後顧の憂いを絶つには非情にならざるを得ない。
直接手を下す訳では無いが、
カミルの辛そうな顔が脳裏を過ぎった。
それもそうだろう。カミルにとっては甥っ子なのだから。血の繋がった産まれたばかりの子供さえ、後々ねじ曲がった倫理観を植え付けられる。国王や王太子のように、傀儡にしようと狸達が手をこまねいているのだ。
そこにあるのは、ただ自分の栄華だけ。国という大きな箱庭は、奴らにいいように食い潰されている。人民を腐敗させ、私腹を肥やして。
ハレムの女達もそうだ。
王宮に上がっている上級婦人は皆、高官の娘達。父親は娘を使って王を操っている。娘達も贅沢ができるのだから協力的だ。王に
そして、とうとう戦へと発展したのだ。この無意味な戦で、ハレムの女達は更に贅を手に入れられる。イグアからは脂の乗った肉を、
それらが民に還元される事は無い。
そっと溜息を漏らし、顔を上げる。
負けはすなわち死を意味する。
激しい争いを制した者達だ。油断はできない。おそらく、皆がカミルと
表立っては動かないだろう。
それはカミルも同じ。だから今の状況ではカミルの身の方が危険だ。周りは敵だらけだが、職場は文官しかいないので、殺すような度胸は無いと考えた。宮にいるよりも安全だと。
それに二人同時に殺すなら園遊会だと睨んでいる。園遊会では侍女や給仕が忙しく動き回る。その波に紛れて毒を仕込むつもりだろう。
時間は迫る。
その前に王太子を殺さなければ、計画は
大門の前に行き着くと、番兵が扉を開く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます