第10話 ︎︎窮鼠猫を噛む
大門を
ぐるりと建物が囲う広場には、大きな噴水があり、貴重な水が
その視線が、一気に
その中を、
すると、一人の女が足を投げ出す。
鈍い音がして、女は絶叫する。
「痛い! ︎︎何するのよ!?」
抗議を上げる女を
「あら、ごめんなさい。汚い物があったから、つい」
見下していた者からの攻撃に、女は顔を歪め声を荒らげる。
「なんですって……! ︎︎このクソガキ!」
口汚く
「いやだわ、口の悪いこと。こんな人が王太子のハレムにいるなんて……。貴女のせいで品位がガタ落ちよ。さっさと実家に戻る事をおすすめするわ」
「……私を誰だと思っているの」
精一杯の虚勢。
それを
「貴女こそ、私を誰だと思っているの? ︎︎第三王子の第一夫人よ。王太子に
そう言う
例え王太子のハレムにいるとはいえ、直に王太子と会える者は限られている。寵愛を受けるにはそれだけの美しさと、教養が必要だ。
この広場は、その寵愛から外れた者達の集う場所。傷を舐め合い、時に蹴落とし合う、醜悪な場所だ。一応は王太子の夫人であるが、それは名ばかりの娼婦と言えた。第三王子とはいえ、第一夫人の
上級夫人達は更に上質な部屋を与えられ、王太子に侍っている。今もサロンで優雅に
睨み上げる女を一瞥して、
王太子を手玉に取り、操る女達。
それが五人。
どんな歓迎を受けるのか、
おそらく上級夫人達は
だが、王太子の上級夫人は公表されていない。それは次代の王を守るためでもあり、癒着を隠すためでもあった。
現国王もハレムに入り浸っているから、夫人達は公になっていない。本来それは不自然な事だ。王夫人とは、外交にも同行するし、公的な行事にも参加する。他国の王妃との交流や、流行の先取りといった仕事があるはずなのに、この国ではそれがなされていない。
全ては高官達の意のままだ。
どちらも狂った歯車で回る、歪な国だ。
カミルはそれを変えると言った。この馬鹿げた戦を止め、国そのものを変えると。
ならば
欲のために国を食い潰す奴らになど、負けてなるものかと意志を強く持って。この一歩が国を変えるきっかけだ。
そうして辿り着いたのは、一際豪奢な扉の前だった。白を基調とした木製の扉には、金銀の細工があしらわれ、宝石まで埋まっている。
侍女が声をかけると、内側から開かれた。
正面には、柔らかい絨毯に腰を下ろした五人の女性達。その中心に、金の髪をなびかせた美女が陣取っている。
見るからに気の強そうなキツい化粧。衣装も鮮やかな紫が目を引く。
しかし、
思考を巡らせながら、中央に進むと膝をつき、両手を合わせて
そのまま、しばしの沈黙が流れる。十分な時間を取って、中央の女が口を開いた。
「お顔を上げて。貴女が
その言葉で
そこで気付いた、違和感の正体。
宝石だ。
ネフェティアはターコイズのネックレスをしている。ターコイズは水色が特徴の天然石だ。混ざりけのない澄んだ色は上等な物ではあるが、宝石では無い。第一夫人が身に付けるには不自然だった。
そして、右端に見つけた、サファイアの女。
五人の中で一番上等な石を身に付けている。
――こいつが、第一夫人。
それが端にいるという事は、
『ふふ、本当に汚らしいお猿さんですわね。シェーサーラ様、どういたしましょうか』
ネフェティアが
すると、右端の女が談笑を装って笑った。
『遊んでおやりなさい。貴人の区別もつかない田舎の猿よ。これを口実にカミルを責める事もできるわ』
周りの女達も上品に笑い、賛同する。まさか
――なるほど。私を笑い者にしたいって訳。ならお望み通りにしてやろうじゃない。
そして、反撃に出た。
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