第9話 意外と儲けてます

「つまり、強く自分の姿を想像してる間は元の姿に戻れる、と」

「みてぇな」


ギルドの1室。

そこで出た結論がそれだった。


「よし!あきらめたっ!」


2回程情けない音を立て終わったシヅキはそう言って全力で椅子に身を預ける。


「もうなるようにしかならん」

「諦めるの早っ」

「少年よ、大人になると諦めが早くなるのだよ」


もういいや、と脱力したシヅキに呆れるソラ。

だが、そんなソラにシヅキはどうにもならん事は考えるだけ無駄と言い切った。

なんなら魔法少女な自分を受け入れた途端、喋り方に不自然な拙さが無くなった気さえする。


「よし!」


そうしてシヅキが諦めた頃、不意にギルド職員の1人が柏手を打った。


「成人なら東雲しののめ氏と同じ対応で良いな!」

「「「異議なしっ! 」」」


意見を口にしたのは支部長だったのだが、他の職員達も賛同しギルドの転移者対応が決まった。

それは………。


「烏金に丸投げで!」

「なんでだよ!」


だった。

ちなみに日本最初の転移者である東雲しののめ 阿衹あぎは老齢で聡明だったが故に己の境遇をすぐに理解し、自身の身の振りを自身で決めた。

犯罪を犯さない範囲で自由にして良いなら烏金に世話になる、と。


『どうせ世話になるならこの坊達が良いの。

御主おんしらは嫌ぢゃ』


何かを見抜くような、明けの空に似たグラデーションの眼は確かに異世界人のそれで、ギルド職員や政府関係者達は彼の存在を暫く伏せる事を条件にその要求を受け入れた。

烏金としてはなんで世話しなきゃいけないのだという話だが、ギルドと政府から一定の金額を貰う事でとりあえず飲み込んだ。

何より烏金は事務所を構えていて、なんなら泊まれる設備も事務所内に完備されていたりする。

しかも、転移者とも良好な関係を築けているようで、烏金はどこから見ても適任としか言いようがなかったのだ。



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「ここが俺らの事務所ヤサな」


ギルドに押し付けられたシヅキを連れて、烏金一行は駅近のビルへと帰ってきていた。

地下1階に駐車場があり、地上5階の計6階建てのビルは烏金の持ちビルだ。

ちなみに1階には動物病院と保護犬や保護猫のカフェがある。

コレはシロウが次々に捨て犬や捨て猫を拾ってしまう悪癖を持っており、その対策にクロウが経営しているものだった。

譲渡会なんかも定期的に開かれていて、さり気に地域ボランティアの一助も担っている。


「2階は保護した犬猫のシェルターで、3階が事務所。

4階がゲストルームで、5階が俺らのプライベートホールだ」


外から見たらそんなに広くないビルだが、クロウ自ら空間魔法でリフォームしており、見た目以上に一区画一区画が広く取られていた。


「………お前ら、相当な金持ち?」

「まァ、割と上位の探索者だし?」


命をチップに稼ぐ探索者。

彼らはリスク管理さえ出来ていればダンジョン浅瀬にしか潜れなくてもサラリーマンの月収位は半月で稼げる。

中でも烏金は1回潜るだけでサラリーマンの年収程度を稼ぐ凄腕の探索者だ。

正直、金持ちなんてものでは無かった。

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