第7話 まほうしょうじょ
時間は解説が始まる少し前に遡る。
離れていくクロウとソラを見送り、シロウはどこからか出したウィングバックチェアに子供を座らせた。
本革らしき、艶の出たアンティークなそのソファ。
なるほど、シロウが座ればまるで王様のように似合うだろう。
今は魔法少女が収まっているが。
「まじ、なんなん……」
目がぐるぐるして胃もグルグル。
魔法少女はサイアクな気分で肘置きに縋り付いていた。
「あの高所から叩き落とされたのと界渡りによる負荷だろう。
一度吐いてしまうか?」
「はくとよけいつらいきがする」
日本にいる前例の転移者曰く、界渡りは突然酸素濃度が低い場所に叩き込まれたようなものらしい。
気分は悪いし、脈拍や呼吸数は増える。
意識も朦朧とし、なんなら死の危険さえ感じるそうだ。
「ここ、どこ」
「日本國第2892番ダンジョンの深層“月が見下ろす丘陵”だ」
「ダンジョン〜?」
飲めるか?とペットボトルの水を出してやるシロウ。
それを受け取った魔法少女は少しだけ口をつけ、あんでンな所に…と眉をしかめた。
「つか、なんかおれさまのこえ……」
少しは落ち着いてきたのだろう。
魔法少女は確認するように自分を見下ろし、
「は?」
固まった。
「………なぁ?」
「うん?」
「アンタからみておれ、どうみえる?」
「正直に?」
「しょうじきに」
再起動した魔法少女の問に逡巡して、けれどシロウは魔法少女に視線を合わすよう椅子の前で片膝をつく。
そうして、
「ピンク髪の魔法少女、だな」
「グハッ」
真実を突きつけられた魔法少女は吐血せんばかりに空気を吐き出した。
「ちょっとまって!ちょっとまって?」
大 混 乱 ☆
彼女を表すならまさにこの一言に尽きた。
シロウに掌を突き出したかと思えばその手で自分の額を覆い、かと思えば天を仰いですぐに俯き、そして突然ふんわりスカートの中に手を突っ込んで……。
「まいさーーーん!!!」
絶望するように叫んだ。
「おれさまのびっぐまぐなむがあとかたもねえなんて…っ」
「そ、そうか」
がっでむ!と叫んで、オンオンと咽び泣く魔法少女。
ひら…
そんな彼女の上にヒラヒラと、けれどまるで意思があるように一片の紙が落ちてきた。
ベシッ!!
見た目は紙なのに、結構な音がして魔法少女にくっついた紙。
「いってーわっ!」
それをベリッと剥がし手に取った魔法少女は目を落とし、
「ざっけんな!!!」
紙を確認するなり地面に叩きつけた。
中々の情緒にシロウはちょっと声を掛けられなくなりながらも、原因を探る為にも叩き付けられた紙を拾う。
「見ても?」
「どうぞ!」
が、勝手には見ずに魔法少女へ確認をとった。
律儀なものだ。
「どれ…」
[ミスって落とした!
ついでに魔法少女の呪いまでついちゃった☆
めーんご!
そっちの運営には一応頼んでおいたから許してちょんまげ♡
�����運営]
「Oh……」
言葉がなかった。
しかも、この紙がまた運営の公式なのだ。
本能レベルで分かる特殊な紙で、人類にこの紙を複製することは不可能。
つまりこの転移者は……。
「うんえいのあほーーー!!」
運営側のミスで転移させられたらしい。
しかも呪い付きで。
「ま、まぁ、大概の転移者は運営のミスで界渡りするらしい、ぞ?」
「のろいつきで?」
「………さ、そろそろ落ち着いたならあちらと合流するか」
恨めしそうに見上げた魔法少女と目を合わせないシロウを誰も責められはしないだろう。
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