最終話 日向家の持ち物
検査に異常は無く予定通りに退院と相成った。
荷物らしい荷物は特別持っておらず病室をほぼ手ぶらで出ると階下へと降りていく。
病院の玄関口に設置されている自動会計の近くで両親と夏は僕を待っていた。
母親は僕の手からナースに手渡された請求書を手にすると自動会計機の中に入れた。
「おかえり。無事で本当に良かったよ」
夏は本気で心配していたようで安堵の表情がしっかりと見て取れる。
「心配掛けてごめんね…」
「大丈夫だよ。これから気を付けてくれれば」
「そうするよ…」
会話は特別なものでは無かったが僕らの絆が確かめられるようなものではあった。
二人して自然に微笑み合うと会計を済ませた両親が僕らのもとまで向かってくる。
「さぁ。帰りましょう。帰って美味しいものでも食べましょう」
母親の言葉に頷くと僕らは父親の運転する車に乗り込んで帰路に就くのであった。
帰宅すると母親は前日から準備していたのか、ちらし寿司を作り始めていた。
夏は母親の食事の支度を手伝う様にしてキッチンに立っていた。
二人は談笑しながら料理を進めていく。
僕は少しの気まずさを感じながらリビングのソファで父親とともにテレビを何となく眺めていた。
「光」
「なに?」
父親の短い言葉に気軽く返事をする。
「夏を大事にするんだぞ」
「わかったよ」
それだけの短い会話だったが父親の言いたいことを理解すると僕は今回の件を深く反省する。
しかしながら白井は何が目的だったのだろうか。
それは今の僕にもわからない。
きっとこれからも、いつまでもわからないことなのかもしれない…。
心中未遂に終わってしまった今回の件だが…。
私はさほど後悔していない。
好きな人と一緒に天国に行けたらどれだけ幸せだっただろう。
そんなことを思うが失敗しなたならば仕方がない。
次の機会は永遠に訪れないだろうが…。
好きな人はまた作ればいいだけの話だ。
これからの学生生活では藤田くんと関わることは出来ないだろう。
もしかしたら私は退学処分に追い込まれるかもしれない。
それでも良いのだ。
彼が意識を失っている間に好きなだけ堪能させてもらったから。
その思い出だけで私はこれからも生きていけるだろう。
そんなことを思いながら病室のベッドから這い出る。
支度を整えると退院と相成った。
ミカンとレモンはヒソヒソと声を殺して一緒の部屋で話をしている。
「お姉ちゃん。上手くやったみたいだね」
姉であるミカンから口を開くとレモンはウンウンと頷く。
「自分よりもヤバい地雷系が居てくれて助かったよね。その御蔭でお姉ちゃんの株は下がらないで上がりっぱなしだから」
レモンも軽く悪い顔をすると姉に対して失礼な言葉を口にしていた。
「まぁ。これで光はうちのものになるから。それでいいでしょ。これからは私達も参加できるかな?」
「お姉ちゃんが許してくれるかな?」
「そんなの関係ないでしょ」
「まぁ。そうだね」
そうして藤田光は日向家の持ち物になるのであった。
これから先も彼は彼女らには逆らえず言うことを聞くだけの人生を送る。
それでも彼はそれを幸せと感じるのであった。
完
地雷系女子ばかりの中では清楚系女子が輝いて見える話 ALC @AliceCarp
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