第11話 二重王女

 森の奥までやってきた二人を迎え入れたのは、巨大な鳥の籠に入れられた王子と白衣で黒い肌の長耳女だった。


『やはり来たゾ! 素晴らしい素材だと聞いているゾ!』

「素材ってなんです?」


 王女の質問に語尾を上げる独特のイントネーションで喋る黒い肌の長耳女、ダークエルフは両手を大げさに広げると語り続ける。


『研究材料に適した素晴らしい特殊な存在、と言う事だゾ! 私の研究する闘気学にとって!』

「闘気学ってなんです?」

「聞いた事ないなぁ……」


 ダークエルフの言葉に困惑した二人は相談するが、それに白衣のダークエルフが割り込む。


『闘気学は闘気の事について研究しているゾ! そしてこれが!』


 木の後ろから引っ張り出した、布のかかった大きな箱から、白衣のダークエルフが布を取っ払うと、そこに居たのは仮面をつけた銀髪のミリアだ!


「ぶっ飛ばすデス」

『これが君の髪と、王子の髪で培養した素材を対象に、王子の回復の闘気を当てて作り出した闘気学の結晶である量産型王女だゾ!』

「ミリア、ごめん」


 鳥籠の中に居る謝罪する王子を背にして、黒いドレスを揺らし、前に出てきた銀髪の量産型ミリアは、王女である金髪のミリアと相対して構える。


『量産型王女よ! 王女をぶっ飛ばすんだゾ!』

「旧型をぶっ飛ばすデス」

「私そっくりな奴です!」


 ダークエルフの言葉に、構えた二人の闘気が爆発する!


 お互いに振り上げた拳へ闘気を集中してぶつけ合う二人に、周囲の地面が捲りあがって、森の木々もぶっ飛ばされていく。


「そんな……! ミリアの一撃が相殺された!?」

『出力は同等だゾ! ぶっ飛ばすんだゾ!』


 驚く勇者へミリア達の衝突を挟んで、勝ち誇る白衣ダークエルフ。


 しかしその余裕の表情は、長くは続かなかった。


『そんな馬鹿な! 制御装置である嘆きの仮面が破損しているゾ!?』


 二人の衝突に、銀色のミリアが付けていた仮面にヒビが入っていくのだ!


 そのヒビは全体に広がっていき、ついには砕け散って隠されていた、銀色ミリアの碧眼が露わになると、本人は衝突から慌てて飛び退いて両手を上げた。


「降参するデス」

「負けを認めるんです?」

「戦う理由が、無いデス」

「じゃあ、私の勝ちです」


 しょんぼりと負けを認めた銀色ミリアに、胸を張ったミリアが勝利宣言する。


 しょんぼりと量産ミリアが、王女ミリアに降参してしまったので、それに慌てたのは白衣のダークエルフだ。


『もうちょっと頑張っても、良かったんじゃないかと思うゾ!』

「戦っても相打ちが精々だし、戦う義理も無いデス」


 敢闘精神を問題視する白衣と、そんな義理は無いと突っぱねる量産ミリアに、勇者アリアは溜息を吐いた。


「創造主に歯向かう被造物か、ミリア相手じゃ仕方ないね」


 白衣のすぐ近くに来ていた王女ミリアは、その肩に手を置いて話しかける。


「色々知っていそうだから、一緒に来てもらうです」

「抵抗は無意味デス」


 真似をして、もう片側の肩に手を置いた銀色ミリアは、負けたのでミリアの味方だ。


『暴力反対だゾ!』

「はいはい、大人しくしないと、ビリっとしちゃうよ?」


 なす術もなく捕まったダークエルフは、勇者の手により王子と居場所を交換することになって、鳥籠を運ぶ雑務は銀色ミリアに任された。


「勝者の権利です!」

「勝ったといっても横暴デス!」


 外に出れたのに元気がない王子へ、労役を銀色ミリアに押し付けた王女ミリアが話しかける。


「アルス王子、どうしたんです?」

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