その6 ムラオサさんとの出会い

 舞に薦められたファンタジーライトノベルを見てて、少し疑問に思っていた事がある。

 ファンタジーの魔法使いとは、ゴワゴワした布を纏い、つば広帽を被り、節くれだった木の杖を持つ細身の人物で、敵に向けて大きな炎を撃ち出し、氷の塊で押し潰し、風の刃により切り刻んでいるイメージだ。

 まぁ最近はほとんど水着の様な服を着ていたり、まるでボディビルダーのようなマッチョな魔法使いもいるようだけど。

 ……その繰り出す魔法は、どれも現実に存在していたら驚異なんてものじゃない。例えるのなら老人でも女子供でも全員が銃を、威力によるが戦車、ミサイルを常備しているようなものだ。

 勿論マジックポイント? という概念もあるみたいだし、長い呪文の詠唱によるスキもあるし(無詠唱と呼ばれる技術もあったが)、強大な力を持つ者は限られてるかもしれないけど、それでも冒険者と呼ばれる傭兵……いや何でも屋かな? の数人に一人はその様な能力を持つ「超人」だった。


 だが同時に、それほどの能力を持つものが闊歩している世界で、何故生活のLVが中世ヨーロッパクラスなのか? と思っていた。

 科学文明が発達した現在でも小規模な家庭菜園では鍬や鎌を使うし、お金のない人は重機を揃えれなく人力に頼る事はあるだろう。だがこの世界のような魔法のある世界でも、何故鍬や鎌を使った農業を行っていたのか?

 舞に意地悪に質問した事はあったが、「う~ん、そういうものなのですよぉ~」とはぐらかされた。

 勿論その様な中世ヨーロッパのような世界にこそ魔法使いが似合い、派手な魔法が似合うという娯楽活劇的都合があるのだろう。


 ……繰り返すが魔法使いは、例えるなら全員が銃であり戦車であり、何でも出来る機械でもあるのだ。

 この世界の農業を見て、私の疑問が少しスッキリした気がした。朝からネコちゃんに連れられてムラオサさまの屋敷に行くまでに農地を起こす作業を見学したが、

 ほんの数人の見た目か弱き女性達が、そこそこの広さの農地を土を掘り上げ起こし、風の力で種を蒔き、水を両手からまんべんなく撒いている。害虫や偶に森から来る鳥や動物も火魔法で追い払うらしい。

 基本といえる4大魔法だけでこれで、物を運搬する為の浮遊魔法、凶作の時の保存魔法等、私の世界のトラクターや田植え機を使った現代農業ですら時代遅れに思える。

 何せ充分な栄養をとって休養さえすれば、各人がガソリンいらずの万能農業機械なのだ。


 狩りに関しても同じ事が言えるだろう。火の魔法で怯えさせ氷や風の魔法で的確に止めを刺す。野生の獣は血を素早く抜いて冷却しないとすぐ臭くなるらしいが、近くに川がなくても水や氷魔法などで冷却も出来るだろう。この村は見た限り養豚養鶏が発展していたし、狩りに行く事もそうそうないと思うけど。


 後この村の家は簡易な作りだった。何故なのか? それもやはり魔法の発展によるものらしい。

 家というものはどうして存在するのか? 災害や外敵から身を守る為? 畑や仕事場に移動するのに便利だから?

 この村は温暖な気候で、近くに崖崩れの起きる山や氾濫するような大きな河川も存在しないらしい。

 台風等はどうにもならないらしいが、余りに被害が甚大なら災害が中々起こらない安全な土地に移動すればいいだけだ。どんな荒れ果てた土地でも農地に出来るので、要は人間と家畜さえ住みよければいい。

 外敵は魔法により追い払えるので、家を強固な作りにする必要が無い。定期的な移動の為にすぐ遺棄出来る作りになっているらしい。それどころかまるでファッションのように、不満がある度に家を改装しているのだとか。リフォーム業者泣かせね。


 魔法というものは、文化文明という物を根本から変える力があるものだと改めて確信する。


 ……色々考えているうちにムラオサさまの家についた。ネコちゃんにちょっと待っててください、といわれて待つ。

 ムラオサさまの家の作りは流石に立派な作りだったが、集会場も兼ねているというだけで構造自体はネコちゃんの家と大差がない。


 5分ほどでネコちゃんとともに昨日の番兵の女性、そして10歳ほどの少女が出てきた。

 少女はその年齢にしては長過ぎる、腰まである金髪の髪の毛を左右2箇所布で縛って纏めていた。ついんてーる、という髪型かな。

 服装はネコちゃんの服より更に複雑な文様が描かれた、彼女の手足を覆い隠すほど長い布を羽織っていた。布から出した右手には、大小様々な色の腕輪や指輪をはめていた。


「貴方が**を助けてくれた人か、感謝する」


 少女は甲斐甲斐しく頭を下げて礼を言い、


「私がこの集落の取りまとめ役をしている、//だ」


 といった……吃驚した。どう見てもネコちゃんより年下にしか見えない。私の見た目年齢とそう代わりがないように思える。とはいえ私がこうなのでまぁアリだな、と少し失礼な納得をしてしまった。

 男子のような口調と見た目がミスマッチだが、薙刀部の男勝りな先輩を思い出して少し恐縮する。

「昨日の件、**から軽く説明は聞いている、もう少し詳しい説明を聞きたいのだが……」

 私は快諾し、広間の様な所に案内される。大きなテーブルがあり椅子も用意されていた。村の決め事を決定する為に利用されてるのだろう。私とネコちゃんはムラオサさまと対面に座る。そして昨日の経緯をネコちゃんと共に説明した。


 ……


「目の光る、魔法の効かないオオカミか」

「はい、ネコちゃん(ムラオサ……さん、でいいか……には名前が聞こえない事は説明済)の魔法は全て効きませんでした」

「火が当たった木や草は焦げ、燃えていました。煙に少し怯む様子はありましたが、炎が効かないのを確認したようにワタシに襲いかかろうとしていました。そして……」


 ……


「オオカミを、素手で……手や武器の槍に魔力を込められていたのかな?」

「いえ、そもそも私は魔法を使えませんので……」

 ……おや? ムラオサさんは武器の存在を知ってる様だがとりあえず聞き流した。


「ふむ……」ムラオサさんは少し考える仕草をして、ゆっくり話しだした。


「藍さん、だったか。君は「異邦人エトランゼ」の可能性がある」

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