その4 あまいひととき…… ★

 - 少女視点 -


 オオカミから助けてくれた誰か……見た感じ、ワタシより幼い少女だ……は目の前で倒れてしまった。

「……ちょ、ちょっと! だ、大丈夫ですか?」

 ワタシはすぐに立ち上がり彼女を助け起こす。軽く揺すってみたが反応がない。だがすぐに小さな寝息を立て始めたのでホッとした。

「……とりあえず、この場から離れなきゃ……」

 ワタシは彼女を抱きかかえ、ほんの少し回復した魔力で運搬の魔法をかける。ただでさえ軽かった少女が1メートル程の高さに浮く。


 近くにある切り株で出来た休憩場所に彼女を運び、ワタシは上着を脱いで彼女の下に敷く。血まみれだが切り株に直接乗せるよりはいいだろう。

 彼女は樹の葉っぱを下着の様に纏っているが、ほとんど全裸な上、全身先程のオオカミの血と肉塗れで凄い事になっている(ワタシもだが)。

「とりあえず、顔だけでも……」

 手のひらにミズ魔法で円状の薄い水の膜を作り、冷たくて吃驚しないよう温度を調整し、ゆっくりと拭き始める。幸い起きる事はなかった。


 ……


「凄い……可愛い……」

 肩口ほどに切り揃えた黒い髪、整った眉毛、小さい口。

 血に塗れてはいるが同性のワタシが見ても美人で、まるで神話の世界から抜け出してきた漆黒の女神様のようだ。


「もっと……拭かなきゃ……」

 無論そのままにしておくとオオカミや別のケモノが匂いにつられてくるかもしれない。だがそれ以上に美しい彼女を血塗れのまま放置するのが忍びなかった。

 汚れが移らないようワタシも服を全部脱ぎ、全身にシャワ―の様にミズ魔法をかけ自らの汚れを洗い流す。

 次にほとんど外れかかっていた彼女の衣服代わりの樹の葉を外し、生まれたままの姿にして、そのまままた拭き始めた。


 ……同じ女の子の裸の筈だ。なのに見ていると、何故か心臓の鼓動が早くなった感じがした。


「……んっ……」


 ドキッとした。少し冷たかっただろうか? でも幸い起こす事なく彼女はまた寝息を立て始めた。またゆっくりと拭き始める。髪の毛、首、胸、手、背中……


 ……ドキドキが大きくなってきた。ハハサマやイモウトの身体を洗ってあげる時でもこうはならない……ワタシどうしちゃったのかしら……?


 ……


「……初めて会ったのに、随分と大胆ね」

 ビクゥゥゥッ! 舐める直前、口から心臓が凄い音をたてて飛び出すかと思った。無論声の主は、彼女だ。


「……ここここ、これは違くて!!」ワタシは即座に……ようとしていた何かを否定する。


「……そのまま……てくれても良かったのだけど……どちらかといえば私は、……る側なのよね……」

 混乱して内容はよく聞こえなかったが、その声は随分と余裕があるようだ。とても起きたてとは思えない。

 私より下の年齢とは思えない、落ち着いた優しい声色。


「それとも、それは、この世界の挨拶なのかしら?」

「ちちちち違います!! こ、これは……!!」

 下手したら先程オオカミに襲われた時よりパニックになってたかもしれない。本当にワタシは何をしていたのだろう?


「……大丈夫よ」

「……へっ?」

「ただ」

 彼女は立ち上がり、ワタシの首にゆっくり手をかける。そして、ゆっくり顔を近づけ……。

「……最初は……コじゃなく」


 ……ちゅっ。


 唇を合わせてきた。


「……っっっ!!」

 時が止まる。眼の前が真っ白になる。

 彼女はワタシの頭を軽く抑え、更に唇を密着させてくる。


「ん……ん……ぷはぁっ!」


 永遠とも取れる時間だったが……実際は10~20秒ほどだっただろうか。

「……最初は唇でキスしなきゃね」

 頭がぼーっとしている。その間息が出来なかったせいだろうか。


「……身体は、あなたが拭いてくれたの?」

「……は、はいっ!」

「そう、ありがとう」

 どう見てもワタシより二、三歳は若いのに、まるで年上のような落ち着きを感じる。

 その緑がかった大きな、ちょっと釣り気味の瞳に見つめられるだけで、動けなくなる。

 まるで淫魔(サキュバス)に魅了されたように、彼女に縛られていく。


「……もっと、キス、しましょうか……今度は……舌を絡めるように……唾液の交換も……」

「……はい……」


 ……


「……ふふっ、初めてなのにこんなに激しく、……ちゃうなんて……可愛いっ♪ もっと……もっとしたくなっちゃう……♪」

 はぁはぁと息をしつつ、初めての快楽の余韻に浸るワタシに、彼女はその魔性の瞳を向けて……。


 ……そのまま、二人は、まるで……のように、ただ、強く、激しく、お互いを求め合った。



 ※物足りない人は閑話集の4.5をどぞ^p^

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