第11話
「あばばばばばぁ・・・」
「どうどう。落ち着いてこはく」
こここ、これが落ち着いていられるか!
「だって!初配信!」
「何とかなるよ。自分を信じて」
そうは言っても、やっぱり緊張するのっ!
そりゃ俺だって、それなりに準備はしてきたつもりだけどさぁ!
でも、初配信だよ?めちゃくちゃ緊張するに決まってるじゃん!
「おぉぉふ・・・」
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「ヤバい・・・気持ち悪くなってきたぁ」
「えっ、念のために袋とか持ってきた方がいい?」
「うん・・・」
袋を片手に戻ってきた遥が俺の横に座り、心配そうに顔を覗き込んでくる。
緊張と気持ち悪さが頭の中をぐるぐると回り、次第に平衡感覚が乱れていく。
「うぅ・・・ちょっと寝るぅ」
吐き気に耐えかねて、ソファの上で体を横にする。。
横にするとは言っても、そこまで大きくないソファに遥も座っているので、体を丸めて縮こまらないとソファからはみ出てしまう。
「その恰好、辛くないの?」
「あんまりよくないけど、寝てる方がラクだから・・・」
「だったら、私の膝に頭乗せていいよ?」
いつもなら遥の膝枕なんて絶対にごめんだけど、今は非常事態。
流石の遥も、今は何もイタズラしてこないよね・・・
急に動いて胃を刺激しないように気を付けながら、そっと遥の膝の上に頭を添える。
体を伸ばして楽な姿勢にしたおかげで、少し吐き気が薄らいだように感じる。
ゆっくりと息を吐いて、吐き気が落ち着くのを待つ。
「・・・酔うから、あんまりモゾモゾしないで。マジで吐くから」
深呼吸を繰り返すたびに、遥の太ももがモゾモゾと揺れる。その度に胃の中が揺れるのがわかる。
「そのー、さっきちょっと汗かいたから、匂わないかなーって・・・」
「そんなの気にしないから・・・いいから止めて」
「・・・うん」
遥の匂いを気にする余裕はない。
そんなことよりも、喉の奥からこみ上げてくる物を押さえつけるのに必死なのだ。
「・・・」
しばらくじっとしていると、ようやく吐き気がなくなってきた。
「・・・・・・」
ある程度余裕ができたせいか、遥が纏う匂いがわかるようになる。
昔から隣にあった、馴染みのある匂い。
汗の匂いなど感じず、どこか甘いような安心する匂いが鼻に届くと、気分が落ち着いていく。
「・・・んー」
気分が落ち着くと、今度は瞼が重くなってくる。
鈍くなった頭で思い返してみれば、昨日の夜から緊張して眠りがよく眠れていなかったような気がする。
「・・・・・・すぅ」
頬から伝わってくる人肌の温もりと、安心させる匂いに包まれて、ついに意識を手放した・・・
――――――――――
「こはくー、そろそろ起きて」
「んにゃーー・・・」
誰かが、何か言っている。
「そろそろ起きた方がいいんじゃないのー?」
「あとぉ、5ふん・・・」
「もー、しょうがないなー」
突然、俺の口元が何かで覆われる。
覆い被さってきたソレは、口元だけではなく鼻の先も軽くつまむ。
次第に息が苦しくなってきて、酸素を求めて口を開ける。しかしそれでも酸素を吸えずに、命の危機を感じた脳は急速に活動を始める。
「ぶはぁ!?死ぬゥ!」
「おはよ、こはく」
『おはよ』じゃないが!?酸欠で永眠するかと思ったわ!
おかげで、化け猫系Vtuberになるところ・・・
んん?Vtuber・・・?
「それよりも!今何時!?」
「そんなに心配しなくても、1時間くらいしか寝てないよ」
となると・・・今から準備しないと、初配信に間に合わないじゃん!
「悪いけど、準備するから!あと、配信中は絶対に部屋来ないでよ!」
「わかってるよ。こはく、初配信頑張ってね」
「うん!」
デビューするまで、あと0日
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