第7話

「と言うことで、今日は私の家でお泊り会にしようね」


「いや、訳わかんないんだけど」


事態は数十分前に遡る。





――――――――――





数十分前の俺は、ゲームを一旦止めて風呂に入る所だった。


「ふんふーーん、ふふん」


これから何が待ち受けているかも知らず、上機嫌に鼻歌を歌いながら服を脱いで下着と共に洗濯機へと放り込む。


「風呂から出たら、アイス食べちゃおっかな?」


裸になって入った風呂場で、おやつの事を考えながらシャワーのハンドルを捻る。

お湯が出るように操作しても、最初に出てくるのは冷たい水。すぐに暖かい水になるはずだった。


「・・・・・・遅くない?」


いつまで待っても、シャワーヘッドから出てくるのは冷たい水だけ。一向にお湯が出てくる気配はない。


冷たい水のせいで、風呂場全体の温度が下がっていく。


「ふぇ・・・へぴしっ!」


やがて体も冷えてきて、くしゃみが飛び出る。寒さから逃れようと湯舟に足を入れた。


「うひゃぁ!?つめたぁっ!?」


足先に触れた冷気に飛び上がる。湯舟の中に溜まっていたのは、お湯ではなく冷えた水だった。


結局最後までお湯が出る事はなく、風呂場で体を無駄に冷やす結果に終わった。





――――――――――





それが数十分前に起こった事の結末だ。

で、そこからの出来事を三行に纏めるなら、


風呂壊れた。お湯出ない。

服を着直したところで遥が来た。

遥の家で風呂を借りるついでに泊まっていかない?←イマココ


「へっ・・・くち!」


「このままだと、本当にこはく風邪引いちゃうよ?」


「別に平気だし」


あの遥の家で一晩過ごしてみろ、絶対に確実に間違いなくイタズラされる。だったら風呂に入れなくても、俺の家で籠城した方がいい。


「そうは言っても、すぐにお風呂直らないと思うし、こはくはその間のお風呂どうするつもりなの?」


「ウチの親は銭湯行くだろうし、それに俺も着いて行けばよくない?」


「猫耳と尻尾はどうやって隠すの?」


「それは・・・」


うっ、猫耳と尻尾のことすっかり忘れてた。

風呂に入るわけだから、当然服は全部脱がないといけなくて・・・そうすると俺に生えてる猫耳と尻尾を隠す物がなくなる。


「こう・・・いい感じに髪に隠せばワンチャン?」


「ワンチャンないって。それにもう、こはくのお母さんから、こはくのお世話を頼まれてるんだよね」


「お世話ってなんだよ!」


人をペットみたいに言いやがって!遥に世話見てもらわなくても、自分の面倒くらい自分で見れるわ!


「それにしても、こはくとお泊りなんて久しぶりだね」


「まあ・・・うん」


子供の頃は、定期的にお互いの家に泊まりに行ったりしてたっけ。成長するにつれて、こういうお泊り会もしなくなったなぁ。最後にお泊り会したのも数年前だし。


「・・・たまには、前みたいに遥の家に泊まってもいいよ」


「なんで泊めてもらう立場のこはくが偉そうなのー?このこのー」


「あ、こら、つっつくな!遥がどーしても俺とお泊り会したいみたいだし?付き合ってあげるってだけだしぃ?」


「もー、素直じゃないんだから。・・・わかった。そういうことにしておいてあげる」





――――――――――





「ただいまー」


遥の後に続いて、かなり久しぶりに遥の家の敷居を跨ぐ。


「お、お邪魔しまーす」


「どうしてそんなに緊張してるの?私の家族と長い付き合いだよね?」


「だって、俺がこの姿になってから会ってないし・・・」


遥の親からしたら、黒寝こはくを自称する見知らぬ猫耳少女のわけだし。そもそも、俺が黒寝こはくだって信じてもらえるかどうか・・・


「心配しなくても大丈夫だよ。ウチの親も、こはくの事は全部知ってるから」


「なに勝手にバラしてんの!?」


「それに、お父さんもお母さんも今日は帰ってくるの遅いから、今家に居るのは私とこはくだけだよ」


「・・・そういうのは早く言ってよ。緊張してた俺がバカみたいじゃん」


「そうだねー」


はああ!?それ煽りだよね!?絶対に煽ってるよねぇ!?

別にいいもんね!遥がそんな態度取るなら、俺だって考えがある!


「それじゃあ私はお風呂沸かしてくるね」


「あ、うん。・・・じゃない!よくも俺をバカにしてくれたな!この際、どっちが上か、はっきりさせるから!」


「今日はそういう気分じゃないからパス。それよりも、観たかった映画あるんだけど、こはくも一緒にどう?」


「映画なんてどうでもいい!それよりも遥に立場ってものをわかせるの!」


今まで散々バカにされた恨み、ここで晴らさずにいられるか!

猫耳少女になってから、遥にナメられてるような気がするし、ここでしっかりと立場を理解らせる!


「はいはい。じゃあお風呂から上がったら、一緒に映画観ようね」


そう言い残して、遥は俺をリビングに放置して風呂場へと消える。

俺のことなど、相手にする気が全くない素振り。実に屈辱的だ。


「逃げるなァ!卑怯者ォーー!」





――――――――――





「ったく遥め・・・」


脱ぎ捨てた服を一塊にして、洗濯機に放り込む。


「あ゛ーーー・・・」


熱いシャワーを浴びて、つい気の抜けた声が漏れる。


結局あの後、遥は俺と勝負をすることはなく、晩御飯の用意を始めた。


流石に、何から何まで用意してもらう訳にはいかないと思い、手伝いを申し出たのだが、猫耳少女の身長ではキッチンの上に手が届かず、何も手伝えなかった。


その時に遥が『無理に手伝わなくていいよ、こはくちゃん』などと俺を子ども扱いしてきたのが癪に障る。


「・・・思い出したら腹が立ってきたな」


頭と体を手早く洗って、少し熱いくらいの湯が張った湯舟に体を沈める。


遥のやつめ、すぐ俺を猫か女の子扱いしてくる。完全にナメてるよなぁ?

やっぱり、一度ガツンとやり返してやらないと。


「こっはくー、湯加減はどう?」


「ほあああ!?は、遥ぁ!?」


突然風呂場の扉が開かれて、タオルを胸元に当てただけの、つまり肌の大部分を晒した遥が乱入してきた。


「ちょぉ!なに勝手に入ってきてるわけ!?」


「こはくの背中流してあげようかなーって思って」


「い、いいいらんわ!出てけ!」


「でも、こはく長い髪の洗い方とか、女の子のお風呂の入り方知らないよね?」


髪なんてリンスインシャンプーで、ガガっと洗えばいいし!髪の洗い方なんて男も女も同じだよ!


「それにこはく?今は女同士なんだから、一緒にお風呂に入っても何も問題ないんだよ?」


遥はわざとらしく腕で胸を強調する。少し動くだけで、たゆんたゆんと柔らかさを主張するように跳ねる。


「ねえ、こはく?一緒にお風呂入ってもいいよね?」


あっばばっばばば!?エッチなのはダメ!しk・・・いやでも、遥の言う通り俺も女だから別にいい、のか?

女同士なら一緒に風呂に入っても別におかしくないし、ちょっとくらい桃源郷を見てもセクハラにはならない・・・?


「・・・ごくり」


「ちょっとこはくー?鼻の下伸びてるよ」


「は、はぁ!?別に鼻の下伸ばしてないが!?遥の胸なんか、これっぽっちも興味ないが!?」


ナ、ナニを根拠にそんなデタラメを!別に?遥の胸なんて見てないし?脱いだら案外デカいな、とか思ってないし?

・・・それに対して、俺の胸ちょっと小さすぎない?


「ふぅーーん。私のおっぱいに興味ないんだ。へぇーー」


「・・・な、なんだよ」


「別に。なんでもないよ。・・・それよりも、髪の洗い方教えてあげるから、お風呂から上がってきて」


「風呂浸かる前に頭洗ったからいい」


「リンスインシャンプーで適当に洗ったんでしょ?それじゃダメなの」


なんでそのことを遥が知ってるんだ。

・・・まさか、風呂を覗いてたんじゃないだろうな。


「・・・覗きなんてシュミが悪いぞ」


「覗いてないってば。どうせこはくのことだから、そうだろうなーって思っただけ」


「うぐぐ・・・・」


「ほら、髪の洗い方教えるついでに、背中も流してあげるから」


「・・・あーもう、わかったよ。洗わせればいいんでしょ」


ここでゴネても遥が大人しく引き下がるわけないし、さっさと髪と背中洗わせて湯舟に戻ろう。


少し名残惜しさを感じつつも湯船から上がって、遥が待ち構えている風呂用の椅子に腰を下ろす。


「先に言っておくけど、猫耳の周りは優しく丁寧に!」


「はいはい。まずはシャンプーからやっていくね」


シャワーで軽く髪を解し、シャンプーを纏った遥の手が頭皮をマッサージするように洗い始める。


「ふ、みゃぁ・・・」


「こうやって指の腹で優しく・・・って、こはく聞いてる?」


「はふぅ・・・」


これ、きもちいいー。とろけそうー。


「気持ちよさそうだけど、あんまりやり過ぎても頭皮を痛めちゃうから、そろそろ流すよー」


「んん、はぁ・・・ぶぼべっ!?」


ぺっぺっ!急に頭流すなよ!口にシャンプーちょっと入っちゃったじゃん!


「流す時は先に言ってよ!」


「ちゃんと、流すよーって言ったよ?」


嘘だッ!何も聞いてない!


「そんなことよりも、ほら、次はリンスするよー」


「解せぬ・・・」


慣れた手つきで俺の髪にリンスを馴染ませていく。

遥にやってもらってるからいいけど、これを毎回自分でやるのは面倒くさいなぁ。


「こはくはいいよねー、雑なお手入れでも髪はツヤサラでお肌も綺麗で」


「そう?自分だとよくわかんないんだけど」


「これはもうチートだよ。あーあ羨ましい」


お?おお?もしかして、髪と肌でマウント取れるのでは?ついに俺の時代がきた?


「どーだ遥!さぞ羨ましかろう!分けてあげられるなら、分けてあげたいくらいだよ!」


「・・・・・・」


「わぷっ!?だから急にシャワーかけるな!」


「ごめん。ついイラっとしちゃって」


『ついイラっとしちゃって』じゃないが?今度は猫耳の中にリンスが入りそうになったんだが?


「まったくこれだから遥は・・・じゃ、さっさと背中流して。それで俺は湯舟に戻らせてもらうから」


抗議するだけ無駄だと思い、遥に背を向けて洗われるのを待つ。

背後から数回ポンプが押させれる音が聞こえて、背中にヌルヌルとした物が触れる。


・・・いや、なんかおかしい。動きが大雑把っていうか、感触が柔らかすぎるっていうか・・・


「どうこはく?これでも私のおっぱいに興味ないって言うの?」


「おぱっ!?な、ななな、なに言ってんの!?」


それじゃあ・・・この背中に当たってる感触はもしや、遥の胸のたわわなのかっ!?

タオル一枚隔てているとは言え、手のひらの感触じゃないような・・・!?


「あっばばば!?お、おお女が胸を男に、おおお押し付けるんじゃありません!?」


「えーー、何言ってるのかわからないし、こはくは女の子でしょ?」


「だっ、だから!胸を押し付けるなんてハレンチだって!」


「そんな風に言ってるけど、本当に私のおっぱいかな?もしかしたら違う物かも?」


な、なんだとぉ!おっぱ・・・胸じゃないのか!?でもこの感触は間違いなく女性の胸の感触・・・本物を触ったことないけど、そんな気がする!


「そんなだから、こはくは童貞なんだよ?」


「どどど童貞ちゃうわ!」


俺の背中に当たってる物が確定してないように、俺が童貞かどうかも確定していない!つまりシュレーディンガーのおっぱ・・・童貞なのだ!


「はーい、時間切れー」


「あうぁ・・・」


遥の声が遠ざかり、背中に当たる柔らかい感触が消える。


「って、わわ!こはく、鼻!」


「鼻なんかどうでも・・・うわっ!?」


他の事で頭がいっぱいで気づかなかったが、鼻から垂れた赤い血が顔を伝って、太ももに血溜まりを作っていた。


「おわぁ!?鼻血出てる!?」


「ベタな反応だね」


「うるさいっ!」


その後も中々鼻血は止まらず、もう一度湯舟に浸かることは叶わなかった。





――――――――――





あーー、クショがよぉ・・・風呂でも遥の思い通りに遊ばれた気がするし、鼻にティッシュ詰めてるせいで息しづらいし・・・


「お風呂気持ちよかったね、こはく?」


「うっさい。それより映画観るんでしょ。飲み物とかはないわけ?」


「晩御飯前だからお菓子はないけど、ジュースくらいはあるよ」


冷蔵庫を閉めた遥の手には、オレンジジュースとサイダーが一本づつあった。


「はい、こはくはサイダーでいいよね」


「ありがと。・・・なんで俺がサイダーの飲みたい気分だってわかったの?」


「え、だって猫は柑橘系の匂い苦手って聞いたことあったから」


「だから猫じゃない!」


俺が飲みたい物を当てたんじゃなくて、猫扱いしただけかよ!

って言うか、猫耳生えたからって猫になったわけじゃないし!カンキツケ?だろうがチョコだろうが普通に食べてるし!


「そんなに怒らないでよ。ほら、よしよーし」


「はにゅ・・・って、だから猫扱いするな!」


「十分猫っぽいけどなー」


全然猫っぽくない!どっちかって言うと、こう、内なる男的にオオカミだし。俺だって獰猛な獣だから!


「喋るのもいいけど、そろそろ映画観ようよ、こはく」


「言っとくけど!俺は猫じゃないから!」


「はいはい。わかったから、映画観る時は静かにねー」


本当にわかってる?テキトー言ってたりしないよなぁ?

ま、いいか。理論的に説明しても、どうせ遥は聞きやしないだろうし。そんな遥なんか無視して、映画に集中しよっと。


「・・・」


制作会社のロゴから始まり、主人公と思わしき女性が映し出される。


『ここに彼が・・・』


どうやら彼女は、失踪した恋人を追って森の奥地にある古びた屋敷までやってきたらしい。


苔むして今にも崩れそうな扉から中に入り、懐から取り出した懐中電灯を点ける。

外形からは想像出来ないくらいに、屋敷の内部は綺麗に掃除されていて、主人公を歓迎するように独りでに照明が点灯する。


『なんだか寒いわ・・・』


よく手入れされた屋敷を見渡す主人公の背後で、玄関の扉が一人でに動き始める。


『ギギィ・・・バタン!』


「ぴゃ!?」


いっ、いきなりおっきい音出すなよ!び、びっくりしたじゃん!


「なにー?もしかして、こはく怖いの?」


「はぁ!?そんなわけないが!?全然ヨユーなんだが!?」


「じゃあ静かにして、続き観ようね」


テレビ画面に視線を戻すと、主人子が書斎に入ったところだった。

書斎の中はかなり広く背の高い本棚がいくつも並んでいる。


時たまギシリと床が鳴る書斎を進み、中でも一際大きい本棚の前で足を止める。重厚な作りの本棚はしっかりと整頓されているが、一カ所だけ背表紙の色が違った。


『・・・不自然ね』


吸い寄せられるように手を添えた、丁度その時。

カチリ、と音が鳴って本棚が動き始める。


『すごい・・・こんな仕掛けがあったなんて』


『キ、イィィ・・・』


今開いた隠し扉とは真逆の方向、書斎の出入口の扉が、軋みながらゆっくりと開く音。


『そこに誰か・・・いるの?』


何かが部屋に入ってきた。

何かが近づいてきている。

人の気配のようだがどこか異質で、勝手に毛が逆立つ。


『・・・ごくり』


何かの気配が近づくにつれて、書斎の電球が点滅を繰り返す。


ついに灯りは消えて、視界を黒く塗りつぶす。

主人公が懐中電灯を点けると、そこには・・・


『オオオォォォ!』


『きゃあああ!』


「びゃやああ゛あ゛あ゛!」


「こはく、静かに」





――――――――――





「すぅ・・・すぅ・・・」


頭まですっぽりと被った布団の中で、遥の呑気な寝息を聞いている。


なんとか映画を全て視聴し、遥の用意した晩御飯を食べて、歯を磨いて、布団に入った。

そこまではよかった。問題なのは、中々寝付けないという事。


「うぅ・・・」


まあ?はっきり言って、映画の内容はいきなり大きな音でびっくりさせるだけのド三流安物ホラー映画だったけど?遥は面白かったって言ってだけど?


こう、なんか部屋の隅の方から視線を感じるっていうか?別に気のせいだってわかってるし。別にビビってないし。


「・・・・・・」


そーーっと部屋の隅を見てもやっぱり何もない。それにしても、この部屋ちょっと冷房効きすぎじゃない?

・・・映画に出てきた屋敷も、ちょっと肌寒いかったんだっけ。


い、いやいやいや。あんな僻地にある曰くつきの屋敷が、ガンガン冷房効かせてるとか意味わかんないし。それに映画は映画。あくまでフィクションだから。そういう演出ってだけ。


「う、ううぅ・・・」


くそぅ、今になってトイレ行きたくなってきた・・・

ああああヤバい意識したらもっとトイレ行きたくなってきたぁ!

でも安全な布団から、真っ暗な廊下には行きたくないし・・・


「ぐっ、んん・・・あ、くっう」


まずいまずいまずい、このままだと本当に決壊して布団に日本地図がぁぁぁ・・・

落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。こういう時は落ち着いて素数を数えるんだっ!


「フーーッ、フーーッ」


あれ?1って素数だっけ?(1は素数ではない)

あああ思い出せない絶対昔に習ったけど1って素数なんだっけそんなことよりもトイレがヤバくて素数が1でトイレが素数で素敵!


「があぁぁ・・・もうムリぃ!限界!」





―――しばらくお待ちください―――





ふっ・・・危ないところだったぜ。あと一秒でも判断が遅かったら、全てが手遅れになるところだった。

いや、間に合ったからね?ほんのちょっとだけ湿ってたけど、ちゃんと間に合ったから!


『ぶるぶるっ!』


トイレ行ったら体冷えちゃったな・・・それにまた視線を感じるような・・・


「すぅ・・・うぅーーん」


な、なーんか遥、寝苦しそうだなぁ。やっぱこの部屋冷房効きすぎなんだよ。

・・・このままだと遥が体を冷やして風邪引いちゃうから、温めてあげた方がいいよね。


「・・・温めるだけだから」


俺のために敷かれた布団を跨いで、遥が眠るベッドの端に潜り込む。


これは遥の体を温めてるだけだし。決して、俺が怖がってるとかじゃない。それに今の俺は猫耳少女で、遥と一緒のベッドに入っても、同性だから全く問題ない・・・はず。遥に気づかれる前にベッドから出れば証拠も残らない。

よし、完璧だな!


「ん、んんーーー・・・すぅ・・・」


起き・・・てないね。遥のベッドに忍び込んだ事がバレたら、しばらくからかわれるだろうし。

いい感じに温まったら、俺の布団に戻ればいい。そう、ちょっとだけ・・・


「すぅ・・・すぅ・・・」


「ふ、わーーぁ・・・」


ちょっと狭いけど、その分温かくて、思ってたよりも、いいかも・・・





――――――――――





『チュン、チュンチュン・・・』


「こはくー、朝だよー起きて」


「うぅん・・・あと五分」


布団ふかふか温かい・・・ここに住むぅ・・・


「そんなに私のベッドが気に入ったなら、これから毎日一緒に寝てあげようか」


「ベッド・・・?遥の?」


そういえばいつもと寝心地が違うような・・・それに遥のベッドって?


「・・・ああああーーー!」


ぬうぅわあああああ!やってしまった!ちょっと遥のベッドに入るつもりが、そのまま寝落ちした!しかもベッドに忍び込んだ事が遥にバレたぁ!


「いやっこれは!そのー・・・そう!夜トイレ行って、間違って遥のベッドに入っちゃったみたいだなー!あははは!」


「ふぅーーーん?」


「べっ別に!?エッチな事なんて何もしてない!ちょーーっと寝ただけだし!」


「へぇーーー・・・つまりこういう事?昨日観た映画が怖くて一人で寝れないこはくちゃんは、勝手に私のベッドに入って寝たって事?」


「バッ!ちが、そ、そうじゃないって!」


なな何を根拠にそんなことを!そもそも、俺は男だぞ?そんな子供みたいな事するわけないし!


「それにしては随分と気持ちよさそーに寝てたけどなー?」


「だからそれは・・・違うもん・・・」


誰だって苦手な物の一つくらいあるじゃん・・・そんなに言わなくたっていいじゃん・・・


「わぁっ!?ご、ごめんこはく。ちょっとからかいすぎたね」


「ぐすっ・・・別にもういいもん。もう遥なんて知らない・・・」


もう遥のこと嫌い。口も利いてやんない。


「あーー、だからごめんってば。ねぇ、どうしたら機嫌直してくれる?」


「・・・ふん」




 デビューするまで、あと11日



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