第3話

遥と買い物に行かされて、その時起こった、とある事件から復讐を誓って数日が経った。

そして今日!あの悪魔遥に仕返しをしてやるのだ!


あんなに俺に恥をかかせたんだ、それ相応の報いは受けてもらうッ!


遥を呼び出してから数十分。そろそろ部屋に来るはず。その時が遥の命日だ!


「こはくー?大事な用って何?」


「来たな遥!ここで会ったが数日ぶり!覚悟ー!」


「わっ!?・・・もー、びっくりさせないでよ」


ふっ、出だしは好調!

面白かったよ、遥の驚いた顔!


「遥!俺と勝負だっ!」


「・・・え、まさかとは思うんだけど、それがこはくの大事な用なの?」


「なんだよ!その言い方!この前世話になった礼をするの!」


「こはくの下着買うの手伝ってあげたこと?いいよそんなお礼なんて」


すっとぼけやがって!この悪魔め!


「その時に俺のことイジめたじゃん!忘れたとは言わせんぞ!」


「・・・そんなこともあったねー」


数年前の思い出を懐かしむ雰囲気出してるけど、数日前の出来事だからね?その時、試着室で俺の腰が抜けるくらいトントンしたの、忘れてないからね?


「その時の雪辱を晴らすために、俺と決闘しろ!」


「勝負なのか決闘なのかはっきりしてよ。・・・それで、具体的に何するの?」


「それももちろん考えてある!ブラカーで勝負だっ!」


遥との勝負するのに選んだゲームは、ブラザーカート!

一言で言うならレースゲームなんだけど、ただ走るだけじゃなくてレースを展開を大きく左右するアイテムが醍醐味のレースゲームだ。


「まあ、いいけど・・・なんでブラカーなの?」


「えーっと・・・ブラカーの気分だったから?」


「ふぅーん」


そりゃあ、合法的に遥をボコして悦に浸りたいからに決まってる。

今の俺は、体格や筋力すらも遥に負けている。だったら純粋な技術だけで戦う、俺の得意なゲームで遥をギャフンと言わせてやるのだ!


「せっかくだし、負けた方は罰ゲームしようよ!」


「こはくの方が私よりもゲーム上手いから、不公平じゃない?」


ふっ、想定通りの反応。だが、残念だったなぁ!ちゃんと対抗策を用意してある!

一流の狩人は獲物を追い回すんじゃなくて、頭を使って罠にかけるのだ!


「ぐすん、あの日の試着室で、俺とっても傷ついちゃったんだけどなぁーー?」


どう?可愛い猫耳幼女の涙(嘘泣き)だよ?良心が痛むでしょ?


「うっ・・・わかったってば。私もちゃんと反省したから、そんなにネチネチ言わないでよ」


「よしっ、決まり!四レースやって点数が多い方が勝ち!負けた方は罰ゲームだからね!」





――――――――――





あっという間にレースは進み、四レースめの最終ラップに突入した。

俺が先頭を走っており、次に遥のカート、その後ろにNPCのカートがぞろぞろと並んでいる。遥も善戦しているものの、この時点で俺と持ち点の差がある。


遥が俺の点数を超えるには、このレースで遥は一位でゴールするのは当然として、なおかつ俺の順位が五位以下じゃないといけない。


大事故でも起きない限り、俺が勝つ。


『ピロン!』


突然アラーム音が鳴り響く。俺のカートが敵のアイテムに捕捉されていることを知らせる音だ。

一位のキャラを狙い撃つ妨害アイテム、ブルーコウラ。それが俺を狙っていることがわかっているのだが、俺は防御系のアイテムを持ち合わせていない。成す術もなく俺のカートにブルーコウラが命中し、スリップして大幅なロスを生む。


「隙ありっ!」


体勢を立て直している間に遥のカートに距離を詰められて、俺のカートの真横に並んだ。


「せめて最後くらい、こはくに勝ちたい!」


「させるかぁ!」


ゴールは目前。アクセルのボタンをより一層強く押し込んで、ゴール目掛けて一直線に走る。

遥がアイテムを持っていないのは確認済み。このまま一気に・・・


『ピロンピロン!』


「ふぁ!?」


再び鳴るアラーム音。その意味を理解する頃には、俺のカートが先ほどと同じようにスリップした。

俺の横を颯爽と走り抜ける一台のカート。NPCのカートだった。


「おまぁぁ!?空気読め!」


もうゴールは目前。なんとか先頭に返り咲こうと、祈りながら最後のアイテムを拾う。

そして、一番最初にゴールに辿り着いたのは・・・


「いぇーーい!俺の勝ち!」


「もうちょっとだったんだけどなー・・・」


フハハハハ!いくらアイテムで一発逆転を狙えるとは言え、今日のためにコソ練したきた俺に勝てるわけがない!

結局最後のレースは、遥とNPCに抜かれて三位だったけど。でも総合得点で勝ってるもん!


「それじゃ、お待ちかねの罰ゲーム!どんなのがいいかなぁ?今日一日、語尾に『にゃん』でもつけてもらおうかなぁ?」


「流石にそれは・・・」


ほらほらぁ、どうしたの?罰ゲームやらなきゃダメだよ?(^ω^≡^ω^)


「三回勝負・・・ってことにならない?」


「えーー?どうしよっかなぁ」


まあ?あと何回やっても俺が負けるわけないし?言い訳が出来ないくらいにボッコボコにされたいって言うなら、付き合ってあげてもいいけど?


「じゃあ・・・後でアイス奢ってくれるなら、三回勝負ってことにしてあげてもいかなァ?」


「アイスね。了解」


「交渉成立ってことで。もう一回ボコボコにしてやるぜぇ!がはは!」


「・・・こはく、その喋り方可愛くないよ」


可愛くないとか知らないもーん!勝てばよかろうなのだ!


「ふんふーん、次はどのカートにしよっかなー」


「・・・よいしょ」


次のレースで乗るカートを吟味していると、突然体が宙に浮いた。慌てて体を確認すると、遥が脇の下に手を差し込んで持ち上げていた。

軽々と持ち上げられた俺の体は、横に移動させられて遥の太ももの間に降ろさせる。


「急になにするの!?」


「だって、これくらいのハンデがないと勝負にならないから」


遥の腕が、俺のお腹の前に回し込まれる。ちょうど後ろから抱きしめられているような格好。


「ほらほら、こはくも早くカートを選んで、次のレースにいこ」


「お、おう・・・」


これのどこがハンデなんだろ?それに若干子ども扱いされてる気がする。

まあ、遥のことなんか、座り心地のいい座椅子だと思えばいいっか。


遥の奇行を気にしないことにしてカートを選び、次のレースに集中する。

程なくして次のコースが決まり、スタートのカウントが始まる。


「・・・ここっ!」


レース開始と同時に、スタートダッシュで先頭に踊り出る。この時点で遥よりも少し前に出た。


「お、おお!?」


最初のカーブに入った時に気づいてしまった。遥はレースゲームをすると、曲がる時に体が傾いてしまうタイプだと。そして遥の体が揺れる度、俺の後頭部に柔らかい二つの塊が押し付けられる。


「あ、ちょ!遥!?」


「・・・・・・」


あばばばば!?たわわが!遥のたわわが俺の後頭部にソフトタッチ!?それなのに遥はレースに熱中して全然気づいてない!?


「は、遥?その、なんというか・・・」


・・・いや、言わない方がいいのか?もしかして役得?





――――――――――






「なん・・・だと」


四レースを走り終わり、総合順位が表示される。そこには俺の名前の上に、遥の名前があった。


「やーっと勝てたー!」


くっ、色仕掛けとは卑怯な・・・遥が揺れると毎回たわわがたわたわするから全然集中出来なかったじゃん・・・


「これで一勝一敗だね」


「さ、さっきは遥の運が良かっただけで、俺が本気出せば負けないし!」


ブラカーなんて所詮アイテム運ゲー。さっきのは運が上振れしただけで、そう何度も起きないはずだし?


「次こはくが負けたら、罰ゲームするんだよね?」


「ぐうっ・・・いいよ!万が一俺が負けたら、語尾に『にゃん』でも何でも付けてやらぁ!」


「言質は取ったからね」


「その代わり、遥が負けたら絶対に!語尾に『にゃん』を付けてもらうから!」


まあ、俺が遥に負けるなんて、万が一にも・・・いや、絶対ありえない!

結局のところ、俺が勝てば何も問題なかろうなのだ!


「けどその前に、膝から下ろして」


「いいから、いいから」


「いや、よくないが?」


こうなったら自力で脱出してやる。

ぐぎぎぎ・・・全然振りほどけない。このゴリラ女め。


やべっ、こんなことしてる間に次のレースが始まる!?このままやるしかないじゃん!

例えハンデがあったとしても、俺は絶対に負けない!





――――――――――





この世界に絶対はない。

今まで鼻で笑ってきた言葉だ。


「ウゾダドンドコドーン!」


「あーーあ、負けちゃったねー、こはく」


有り得ないッ!こんなことあるはずがない!決して許されない!

なぜ遥の持ち点が、俺よりも高いのだ!なぜコソ練してきた俺が負けるのだァァァ!


「こはくが負けたんだから、約束通り罰ゲームだね」


「うぐ、うぐぐ・・・」


「可愛く『にゃん』って語尾に付けて喋ってね?」


くそぅ、こんな罰ゲームにするんじゃなかった。

そもそもあんな卑怯な手を使ってきた遥が悪くない?胸を押し付けてくるし、なんかちょっといい匂いしたし。あれじゃ集中出来ないに決まってる。


「ほーら早く。こはくが罰ゲームやるって言い出したんだよ?」


「ぐぎぎぎぎ・・・男に二言はない!・・・・・・にゃん」


「ええーー、そんな取って付けたようなのじゃなくて、もっと可愛くやってよ」


・・・ちゃんと『にゃん』を付けてるんだから文句言わないでほしい。


「じゃあ『こはくが悪かったにゃん。もう許してほしいにゃん』って可愛く言えば終わりにしてあげるから、それだけ言ってみて?」


「ぐッ・・・こ、こはくがッ・・・悪かった、にゃん」


「もっと可愛くー」


ちょっとブラカーで勝ったからって、調子に乗りやがってぇ!ええぃ!こうなったらもうヤケだ!


「こはくが悪かったに゛ゃん!もう許してほしいに゛ゃ゛ーん゛!」


「うーーん、あんまり可愛くなかったけど・・・あんまりイジメても可哀そうだから、これくらいで許してあげるね」


上から目線なのが気になるけど、なんとか窮地を脱した。これ以上やったら羞恥心でどうにかなる所だった。


「もう少しメンタルを強くしないと、配信なんて出来ないよ?」


「ん?ハイシン?何の話?」


「だって、Vtuberデビューするからモデル作ったんでしょ?」


「いや、ノリと勢いで作って・・・配信するとか全然考えてなかったんだけど」


「そうだったの?私はてっきり、こはくがVtuber活動したくてモデルを作ったんだと思ってた」


確かにVtuberは好きだけど・・・でも、好きだからって俺がVtuberになるのはまた別の話で・・・


「Vtuberなんて俺にはムリだって」


「そうかな?やってみたら案外楽しいかもよ?」


「や、でもなぁー・・・」


「とりあえずやってみたら?どうせニートのこはくは、時間持て余してるんだからさ」


別に時間を持て余してるわけじゃないが。

でも何か新しい事をやってみたいって思ってたけど・・・


「やるのはこはくだから、無理強いはしないよ。でもただ時間を浪費するんじゃなくて、色々やってみたらいいんじゃない?」


「ううーーん・・・すぐには決められない。ちょっと考えさせて」


「それもそっか。今すぐ決める必要はないから、しっかり考えてみて」


Vtuberかぁ・・・興味がないわけじゃないけど、俺の姿が変わったりしてバタバタしてるし、どうしよう?




 デビューするまで、あと24日



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