第33話「やる時は徹底的に」

「僕をどうするつもりだ……!?」


 血が流れる足を手で押さえながら、五十嵐は俺を睨んでくる。


「どうするもこうするも、捕まえるに決まってるだろ?」

「いいのか……!? 僕を捕まえたら、後悔することになるぞ……!?」

「おいおい、冗談だろ? どっちみちここで逃がしたところで、お前は報復に来るだろ? わかりきったことで時間を稼ごうとしても無駄だぞ?」


 こいつが今したいのは、時間を稼ぐことだ。

 そうしていれば、お仲間が助けに来てくれる――五十嵐は、そう考えている。


「どういうことだよ……?」

「お前に何かあった時、仲間に連絡が行くようになってるんだろ? だけど、来たところで袋の鼠だって話さ」

「――っ!?」


 五十嵐は、わかりやすく動揺を顔に表す。

 思惑が見抜かれていたのが意外なのだろう。


 まぁ五十嵐は怪しい動きをしていないので、本来であれば俺は気付かなかったかもしれない。


 だけど、既にそういう仕組みになっていることは、知識として得ていた。

 だから、当然手は打っている。


「そもそもおかしいと思わなかったのか? いくら近道を通ったとはいえ、お前が来るまでにここにいた子を安全に逃がせるほど、俺に時間はなかった」

「桂君と逃げてるんじゃないのか……?」


「戦闘になるかもしれない場に、戦闘向きじゃない人間をこさせられるわけないだろ? あの子を逃がしたのは、会長と安西だよ」


 もちろん、二人だけではなく、念のため桜木さんと進藤さんもついてくれているが。


「まじかよ……君、僕を捕らえるために、一般人まで巻き込んだのか……?」


 さすがにそこまでするとは思っていなかったようで、五十嵐は苦笑いを浮かべる。

 両足からは凄い痛みがきてるだろうに、激痛に耐えているところはさすがだな。


「確実に、お前らに勝つためにな」


 俺がしたことは、決して褒められたことではない。

 むしろ、最初はあの父さんにさえキレられた。

 それでも俺は、桂を助けるために手段を選ばなかったのだ。


 そのため、会長と雛菊にも協力を要請した。

 確実に成功させるには、彼女たちの力が必要だったからだ。


「なるほど……君が余裕なのは、生徒会長がいるからか……。山に入ってからいたあの猫たちは、僕の動きを監視するために、安西君が呼んだんだね?」

「会長は最強クラスの《ギフト》持ちだから、お前以外何人かかろうと敵じゃないからな。猫たちに関しては、お前に限らず安全な道を探るためのものだよ」


 会長の《ギフト》は言霊ことだまだ。

 彼女が言葉にしたものは現象になり、自然や人を自在に操ることさえできる。

 自在にとはいっても、人の場合体を支配できるだけで、心は支配できないらしいが。


 声が届かない遠距離から狙撃しない限り、彼女を止めることはできないが――彼女は言霊で防御壁のようなものを作れるため、正直狙撃も効かない。

 だから彼女にはボディガードの役目をしてもらい、桂の妹と雛菊を安全なところに連れて行ってもらった後は、《神々の使徒》を迎え撃つメンバーに入ってもらっている。


 雛菊に関しては、彼女の《ギフト》が猫モデルの獣人型なので、人間サイズの猫になれるし、猫と言葉を交わすことも可能だ。

 それによって、敵と鉢合わせしない道を猫に案内してもらうようにしたのだ。


 会長を封じれるのは空気を操れる五十嵐しかいないため、こいつが俺のほうに来ていた時点で俺たちの勝ちだった。


「このまま時間が経てば、お前の仲間は俺の仲間と会長によって捕まるだろうな」


 近くにいる奴らじゃないとこないだろうし、こいつ自身連絡がいくようにしているメンバーは絞っているだろうから、全員を捕まえられるわけじゃない。


 多くて五人ほどで、組織の大きさから考えると大した人数ではないだろう。

 だけど連絡が行く奴らは、こいつが特に信用を置く人間たち――幹部になるため、そいつらを捕まえられるのは、こちらにとって大きな収穫だ。


 会長がいる限り、あちらは安心して任せられるし。


「ふ、ふふふ……!」


 俺の言葉を聞いた五十嵐は、急に笑い声をあげ始めた。

 頭がおかしくなった――というわけでもないだろう。


「残念ながら、僕は君に捕まってあげないよ」


 俺が話している間、五十嵐が床を這いつくばってジリジリと離れていると思ったが、壁に辿り着くと何やら勝ち誇った笑みを浮かべた。


 そして――壁に隠してあった、ボタンを押す。


「今回は僕の負けだが、次はこうはいかないからね」


「――いや、次なんてあるわけがないだろ?」


 俺は床に這いつくばったままの五十嵐を、呆れながら見下ろす。

 そんな五十嵐はというと――。


「な、なんで、何も起きないんだよ……!? 壊れているのか……!?」


 ボタンを押しても何も起きないことで、焦りながらボタンを連打し始めた。


 何も起きるわけがない。

 なんせ――。


「会長が回線を切ってるから、脱出用の装置は動かないぞ?」


 ここで追い詰めたら、五十嵐が脱出用に用意していた装置で逃げると知っていたので、会長に話して既に対応をしてもらっているのだから。


「くそがぁあああああ!」

「やる時は徹底的にっての、大切だよな」


 俺はそう笑顔で言いながら、思いっきり五十嵐の腹をぶん殴るのだった。





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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(#^^#)


おそらく明日、

もしかしたら明後日になるかもしれませんが、

もうすぐ完結になります。


最後までお付き合い頂けますと幸いです!


また、明日(もしくは明後日)に、

新作ラブコメを開始しますので、

そちらも是非是非よろしくお願いします!!


最後まで、楽しんで頂けますと幸いです♪

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