第31話「使命」

「――やれやれ、とんだ失態だね」


 僕は金で雇った役立たずを始末すると、遊園地を後にした。

 まさか、自分の《ギフト》を披露せず、妹を利用して防いでくるなんて。


 あれは、こっちがどう殺しにかかるかわかっている対応のされ方だ。

 そもそも、《ギフト》を無効化するなんていう反則的な《ギフト》を持っているのだし、まともにやりあうのはまずい。


《ギフト》以外での戦いの訓練は、死ぬほど積んでいることだろう。

 相手の土俵で戦うほどまぬけなことはない。


「といっても、もう一人の役立たずも始末しておきたかったな~」


 桃花君だけならまだしも、多忙なはずの美麗君まで呼んでいたのは計算外だった。

 あの子の《ギフト》なら、使い方次第で僕が近付くことも察することができるだろう。


 遊園地に入ってから常に一定のそよ風があったからおかしいと思っていたけど、もっと警戒しておけばよかった。


 まぁ僕が彼女を見つけられなかったということは、変装だけでなく、姿を隠していたんだろうけど。


 神崎君だけでなく、美麗君まで政府の犬なのか?


 ――いや、ありえない。

 彼女は取り込むために徹底的に調べあげている。


 嘘くさい過去しか出てこなかった神崎君や桃花君とは違い、美麗君の過去は偽りようのないものだった。

 となれば、学校に入ってから神崎君と親しくなったとみるべきか。


 ……とりあえず、国民的アイドルがわざわざ一学生に力を貸したことで、神崎君は完全に黒だ。


「めんどくさい子に、目を付けられちゃったなぁ」


 学生が政府の犬になっているなんて、普通はありえない。

 最近まで僕相手に尻尾を出さなかったし、よほど優秀な人間なのだろう。


 あぁいう、学生のうちから変にヒーロー気取りなことをしてる人間だと、無駄な正義感で話を聞かないだろうし、取り込むことも不可能。

 というか、神から頂いた《ギフト》を否定するような《ギフト》を持つ奴など、仲間にしたくない。

 いずれ彼は、排除しなければいけない。


《ギフト》を禁止した馬鹿も、《ギフト》を恐れて否定する愚民どもも、《ギフト》自体をなかったことにしようとする愚か者も、全て排除する。

 それが、神に選ばれし存在である、僕ら《神々の使徒》の使命だ。


「そのためにも、さっさと痕跡を消して身を隠さないとね」


 顔や名前を知られていようと、容姿も戸籍も作り上げた偽物。

 新しい容姿と戸籍を用意すれば済む話だ。

 既に仲間たちにも連絡済みだし、後はあの役立たずの妹を殺して終わりだ。


 あの役立たずの《ギフト》は、国の在り方を変えることもできた能力だけど、催眠は希少というほどでもない。

 数は少ないが、いずれまた見つかるだろう。


「ふふ、あの子の家に妹の死体を送り届けたら、いったいどんな顔をするかな?」


 少なくとも神崎君は、僕に激怒するだろうな。

 桂君のことはなぜか気に入っているみたいだからね。

 

 怒りに支配されてくれれば、相手するのも楽なんだけどな。


 さすがにそこまで都合よくはいかないか。

 でも、怒りを覚えている相手が見つからなければ、その怒りは膨れ上がり続ける。

 彼が膨れ上がる怒りに耐えられなくなり、怒りに任せて行動した時が、仕留めるチャンスだ。


「それまではおとなしく待っておくよ。意外と僕は辛抱強いんだ」


 僕はこれからの楽しみに思考を巡らせながら、目的地を目指した。


「――にゃ~」

「猫……?」


 遊園地を後にして、二時間ほどが経った頃。

 僕はとある山に入ったのだが、見かけぬ猫が僕を見ていた。


 ……野良猫くらい珍しくないか。


 そう思って進むも――。


「にゃにゃにゃ!」

「にゃっ!」

「ふにゃ~」


 なぜか、野良猫たちが沢山いて、僕を見ていた。

 いつの間にか野良猫が住み着いていたのか?

 僕を見ているのは、縄張りに入ってきた人間を警戒しているだけ?


 気持ちが悪い。

 いっそ空気を奪って殺してしまおうかと思うが、複数箇所から空気を奪うことは不可能。

 まるで僕の能力を知っているかのように、均等に猫たちは距離を取っている。


 一匹一匹殺すのはめんどくさいし、あの数が襲い掛かってきても面倒だ。


 もうこの山とは今日でおさらばするのだし、放っておけばいいか。


 僕はそのまま猫に監視されるように見つめられながら、山を登って行った。

 そして小屋に辿り着き、パスワードを三重にかけていたロックを外す。


「やぁ、有栖ちゃん。今日で君とは――はっ……?」

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