第28話「宙へ」

「そんなに怖いなら、やめていいんだぞ?」


 明らかにガチガチになっている桂に対し、俺は笑顔を向ける。


「なに、僕がビビっているとでも言うの?」


 しかし、桂はそれが気に入らなかったようで、ジト目を向けてきた。


 ビビっているだろ。

 ジェットコースターに――じゃないけど。


「遊びなんだし、無理しなくていいことだぞ?」

「大丈夫だよ。うん……大丈夫」


 それはいったい、何に対しての大丈夫なのだろうか?

 とはいえ、いちいち突くのも野暮かもしれない。


覚悟が・・・決まったら・・・・・、並ぶといい」

「――っ」


 笑顔を作りながら言うと、桂の瞳が大きく揺れた。

 わかりやすいほどの動揺だ。


 だけど――。


「そんなの、とっくにできてるよ……!」


 桂はプイッと顔を背け、ジェットコースターの列へと歩き始めた。


 もう後戻りはできない。

 俺もとっくに覚悟は決めているので、桂の後を追うようについていった。


 そして、順番が迫ってくると――。


「…………」


 桂の顔色は、明らかに青ざめていた。

 無意識なのだろう。

 左胸部分の服を右手でギュッと握り、顔には大粒の汗が浮かんでいる。


 全然覚悟が決まっていないじゃないか。


「安心しろよ、ジェットコースターは怖いかもしれないけど、死にはしないから」


 そう言って、ソッと桂の頭を撫でる。

 だけど、桂は身を固くしてしまったので、逆効果だったかもしれない。


「だから、怖くないってば……」

「そうか。まぁ絶対死にはしないから、安心しろよ」


 そう、死なない。


 だってこれは、ただのアトラクションなのだ。

 普通に考えて、死なないだろう。


「ほら、順番だ。行こう」

「うん……」


 顔色の悪い桂を連れ、俺はジェットコースターに乗る。

 そして、動き出すと――。


「嘘だろ!?」


 先頭に座っていた乗客が、大きな声を出した。

 それもそのはずだ。

 なんせ――急降下を始めてすぐにジェットコースターが脱輪し、ビークルごと全員ちゅうに放り出されたのだから。


「話が違う……!」


 俺の隣では、血相を変えた桂がそう叫んでいたのだけど――このアトラクションが指定された時点で、想定できただろ……と思った。

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