第27話「決意に隠された迷いの瞳」

 そのままコーヒーカップを回していると――。


「…………」


 桂は完全に黙り切っていた。

 まるで借りてきた猫のようにおとなしい。


「楽しんでるのか?」


 さすがに黙られてると気まずいので、声をかけてみる。


「楽しんでるよ、うん……」


 本当に楽しんでいるのだろうか?

 なんか、緊張していてガチガチになっている気がする。

 絶対、くっついているのが原因だろう。


「もう離れたらどうだ?」

「ふっ、僕にくっつかられて、耐えられなくなったかな?」


 なぜドヤる。

 限界が来てるのは、どう見ても桂のほうじゃないか?


「俺は大丈夫だよ」

「強がらないでくれる?」

「強がってるのは桂じゃないか?」


 顔を赤くして、汗までかいているのだ。

 俺はそんなことになっていない。


「僕に強がる理由がない」


 強情な奴だ。


 結局――桂が顔を赤くしたまま離れなかったことで、俺たちはくっついたままコーヒーカップを終えた。


 その後はというと、ムキになった桂がどうにか俺を照れさせようと躍起になっていた。

 何かプライドがあるのかもしれない。


 だけど、桂がムキになればなるほど、俺としては余裕が生まれるわけで――結果、桂一人が疲れきることになった。


「――大丈夫か?」


 二人分のドリンクを買い、ベンチで休んでいた桂のもとに戻ると、ぐったりとした桂が視線を向けてきた。


「なんで、君はそんな元気なのさ……?」

「桂が変なテンションではしゃぎすぎて、疲れているだけだろ?」


 俺を照れさせようとしていたせいで、無駄な体力を使いまくっていたのだ。

 そりゃあ疲れもする。


「誰もはしゃいでないんですけど?」


 どうやら俺の発言が気に入らなかったらしく、桂がジト目を向けてきた。

 機嫌が悪い。

 よほど根に持っているな。


「まぁ、これでも飲んでゆっくりしろよ」

「ありがとう……」


 俺は飲み物を飲ませることで、間接的に桂を黙らせる。

 ふぅ、静かになった。


 そのまま二人でドリンクを飲んでいき、ゆっくりと流れる時間を感じる。

 慌ただしい日々を過ごしているからか、こういう時間も悪くなかった。


「――よし、行こっか」


 ドリンクを飲み終えると、桂は元気よく立ち上がった。

 休んで回復したらしい。


 一つ気になるのは、何かしら決意を固めたような表情をしていることだ。


「次はどれを乗るんだ?」

「ジェットコースター、乗ろうよ」


 そう言ってきた桂の瞳には、今までにない強い意志が込められていた。


 しかし、不思議にもそれは、何かしらの迷いを無理矢理押さえつけているように感じる。


 ……なるほど、ここ・・か。

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