第24話「デートの予定」

「――もしもし?」


 ベッドに転がってのんびりしていると、急に桂から電話があった。

 あまりいい予感はしない。


『あっ、まだ起きてた?』


 電話越しから聞こえてくるのは、普段通りの明るい声。

 しかし、薄っすらと波のような音が、電話越しに聞こえてくる。


 まだ外にいるのか……?


「起きてたよ。どうかしたのか?」

『まぁ、うん。今日楽しかったなぁって思って』


 それだけで電話をしてきたりなどしないだろう。

 感想だけなら、学校で言ってくればいいのだし。


「俺も楽しかったよ。もう家に帰ったのか?」

『うぅん、外。ちょっと風に当たりたくてね』


 ここで『家』と言うなら、嘘を吐いたことになり、嘘を吐かないといけない状況だといるのがわかる。

 しかし、桂は素直に外にいることを打ち明けてきた。


 じゃあ、どうして外で電話をしているのか、という話だ。

 風に当たりたいというのが、本当の理由だとは思わない。


 なんせ、俺たちがいた場所や、桂の住んでいる場所から海までの距離は、かなりあるのだから。


「そっか、夜は物騒だし、早く家に帰れよ?」

『……心配してくれるんだ?』

「当たり前だろ、大切な友達なんだから」

『――っ』


 俺の言葉を聞いた桂は、おそらく息を呑んだ。

 それは、照れている反応ではない。

 何か、胸につっかえるものがあったんだと思う。


 ……とはいえ、桂は元々俺たちに嘘を吐いているようなものだから、それが引っかかっているという可能性がある。

 これだけじゃ、決定打にはならない。


「電話したのはそれだけか?」

『あっ……うぅん。実は……』


 いったい何があるんだろう?

 そう思って待つが、桂は続きを言わなかった。


「どうした?」

『…………』


 電話越しだけど、何か迷いのようなものを感じる。

 もう少し探りを入れたほうがいいだろうか?


「言いづらいことなのか?」

『えっと……今度の日曜日、さ……。よかったら……デート、しない……?』

「――っ!? デート!?」


 予想外のことだったので、思わず大声を出してしまった。


『驚きすぎだよ……』

「そりゃあ、驚くだろ……! 自分がなんて言ったかわかってるのか……!?」

『デート、でしょ……。自分だって言ったくせに……』


 電話越しからわかるくらい、桂は恥じらっている。

 普段の桂なら、まずこんなこと言わないだろう。

 ラーメン屋に行った時凄く機嫌が良くなっていたし、本当に今日のことは楽しんでくれていたのかもしれない。


 ――だけど、気になる。


 それを差し引いたところで、桂がわざわざ『デート』と言うだろうか?


「まぁ、それもそうだな。日曜日でいいんだよな?」

『うん……』

「行きたいところはあるのか?」

『遊園地でどうかな……?』


 遊園地、か……。

 デートとしては定番だけど……。


「わかった、楽しみにしているよ。用件はそれで終わりか?」

『ん、終わり……』

「じゃあ、気を付けて帰れよ。おやすみ」


 俺はそう言って電話を切ると――


「桃花、俺今度の日曜日、遊園地でデートしてくるわ」

「えぇえええええ!?」


 ――桃花に、ちゃんと伝えておくのだった。

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