第21話「駆け引き」

 どうして――そう思わずにはいられない。


 俺たちに声をかけてきた男は、人懐っこい笑みを浮かべる青年。

 嫌な雰囲気はなく、むしろ親しみやすさがあるだろう。

 実際、俺たちの学校では男女問わず人気のある先生だ。


 しかも、イケメンである。


 名前は五十嵐いがらし才人さいとといい、1年B組――桃花のクラスの担任だ。


「よく学校で一緒にいるのは見かけていたけど、やっぱり付き合ってたんだね?」


 五十嵐は、ニコニコの笑顔で俺たちに近付いてくる。


 俺は、少し答えに迷った。


 偶然ここに立ち寄った――というわけじゃないだろう。

 狙いが桂――であれば、こんなところにわざわざ来る必要はない。

 こいつなら、いつでも桂を呼び出せるはずだ。


 となれば、やっぱり俺に目を付けている感じか。


「妹がいつもお世話になっています。まさか、先生に見つかってしまうとは……」


 俺は困ったように笑いながら、肯定も否定もせず、肯定寄りの返しをした。

 桂は俯いてしまい、声を発しようとはしない。


「あはは、ここって穴場だから、知り合いと会うなんて思わないよね。まぁ、付き合っていることは、神崎さんには内緒にしておいてあげるよ」


 俺の返しを肯定だと捉えた五十嵐は、笑顔で俺の肩をポンポンッと叩いてきた。

 フレンドリーな先生だ。


「いえ、付き合ってはいませんよ? ただ、デートみたいなものではありましたが」


 俺はあえて、今度は明確に『付き合っていない』と否定した。


 桂が誰かと付き合うことはない。


 五十嵐はそう思っているはずだ。

 それなのに、俺が桂と付き合っていると言えば、五十嵐は俺のことを怪しむだろう。


 どうして、嘘を吐く必要があるのか、というふうに。


「なるほどね~。ということは、僕はお邪魔かな? もう暗いし、車で送ってあげようかと思ったんだけど?」

「――っ」


 五十嵐の言葉を聞き、桂が息を呑んで身構えたのが隣にいて伝わってくる。

 大方、こういう話になるのではないかと思った。

 だから俺は、デートしているという嘘を先に吐いたのだ。


「そうですね……お言葉に甘えたいところではあるんですが、彼女と二人きりでまだ行きたいところがあるので」


 俺は何も気づいていないという態度を装いながら、好意的に五十嵐へと接する。


 主人公は、桃花経由で五十嵐と序盤から面識があり、彼の性格の良さによって好意的に接していた。

 既にそういう関係が出来上がっている以上、下手に崩すわけにはいかない。


「それは残念だなぁ。まぁ僕も、せっかく来たんだから夜景を眺めていきたいし、邪魔しないでおくよ」


 俺が警戒していることに気付いているのかどうかわからないが、五十嵐はあっさりと手を引いた。

 それにより、俯いている桂の表情が若干緩む。


「ありがとうございます。それじゃあ、俺たちはもう行きますね」


 俺は桂の手を取り、五十嵐に頭を下げる。

 一瞬桂は身構えて俺の顔を見て来たけど、俺は桂に笑顔を返した。

 それによってどう思ったのかはわからないが、桂はすぐ顔を逸らしてしまい、五十嵐に会釈えしゃくをして俺の隣を歩き始める。


 すると――。


「――ねぇねぇ、神崎君」


 五十嵐が、背後から再び声をかけてきた。


「はい?」


 俺は振り返り、夜景をバックにした五十嵐に対して首を傾げる。


「僕、女の子とまともにデートをしたことがないんだよね。どうやったらそんなふうにデートができるんだい? どっちから誘ったの?」


 いったいその質問になんの意味があるのか――。

 桂のことをよく知らなければ、与太話よたばなし程度に捉えただろう。

 だけど、俺は引っかかったりしない。


「さっきも言いましたけど、俺たちのもデートみたいなものというだけであって、デートとは言い切れませんね。半ば強引に遊びに誘ったところがありますし」


 普段の学校の彼女からは想像できないが、素の桂が自分からデートに誘うことはまずない。

 そして、誘われたとしても、本当のデートなら彼女はこないだろう。

 なんせ、万が一恋人を作ることになった場合、相手を自分の問題に巻き込んでしまうのだから。


 そんなこと、優しい桂にはできない。


 だけど、仲良くしている監視対象に、半ば強引に誘われたのであれば――関係維持のために、彼女は付いて行く。

 そう五十嵐は判断するはずだ。


「なるほどね。神崎君ってそういうのあまり興味なさそうだったから、どうやってデートすることになったのか、気になったんだよ」

「まぁ、彼女いたことなんてないんで、そこは否定できませんけどね。先生こそ、本当にないんですか? 学校の女子からだって、モテてるでしょ?」

「残念ながらないんだよね、昔から忙しくて」


 忙しい――確かに、そうだろうな。

 教員として忙しいわけではないだろうが。


「それじゃあ、行きますね」

「あぁ、気を付けて帰るんだよ? 特に、夜道は危険だからね」

「えぇ、気をつけますよ」


 特に、背後にはね。


 俺は最後の言葉は飲みこみ、五十嵐に再度頭を下げて、後にした。


 たくっ……油断も隙もあったもんじゃない。


 まさか――いきなりラスボスが登場するのは、ゲームとしてありえないだろ……。


 ゲームのシナリオにもなかった展開であんなふうに探りを入れてくるなんて、いったいどうなってるんだ……?

 とりあえず、これからはもっと気をつけないとな……。


 五十嵐がどういうつもりで、俺を連れて行こうとしたのかはわからない。

 本当なら、敵対組織のボスと桂の妹の居場所、そしてアジトがわかっている以上、今すぐにでもどうにかしてやりたいが――全員を一網打尽にするいい案がなかった。

 

 何より、五十嵐がボスだと決めつけられる証拠がない。

 桂の妹の命を五十嵐自身が握っている以上、組織だけを潰したって駄目なのだ。


 五十嵐と組織、両方を一緒に潰さなければ、桂と桂の妹は助けられない。


 本当に、厄介なものだよな。




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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)


話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

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これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪



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