第20話「赤から青へ」

 日が沈み始め、夕日によって町や海が照らされる中、俺たちは丘の頂上へと辿り着く。

 風に髪をなびかれる桂は、気持ちよさそうに目を細めながら、景色を眺めていた。

 俺はといえば――景色ではなく、桂に目を奪われている。


 風景に溶け込むように、夕日に照らされる彼女はとても絵になっていた。


「……何?」


 当然、いつまでもジッと見つめていれば、桂に気付かれてしまう。

 顔がほんのりと赤くなっているのは、夕日なのか、それとも別の意味があるのか。

 ひとつわかるのは、桂は照れくさそうに俺を睨んでいる。


「いや、絵になるなって」

「――っ! き、君という奴は……! まだ言うか……!」


 正直に思っていることを伝えると、桂の顔が真っ赤に染まった。

 これはさすがに夕日のせいではないようだ。


 そして、とても怒っているように見える。


「そんなキザな台詞が許されるのなんて、漫画やアニメの世界だけなんだからね……! 鼻につくって、嫌われるんだから……!」


 まぁ確かにそうだろう。

 少なくとも、前世ではこんなこと言えなかった。

 桂が相手というのと、ゲームキャラに転生しているから言えるところがある。


「正直な感想だろ?」

「だからって、普通は本人に言わないものなの……!」


 普段桂はからかってくる側の人間なので、こうやって弄られた際の反応はあまり見ることがない。

 こういう一面が見られて、エロゲーの主人公に転生できてよかったと思う。


「まぁいいじゃないか。ここには、俺と桂しかいないんだし」

「本人に言ってくるなって言ってるんでしょ……!」


 笑いながら返すと、桂はムキになったように詰め寄ってきた。

 自分からは付き合っているふりをするくせに、やられるのは弱いのがまたかわいい。


 ……いや、まんざらでもなさそうだからか?


「あはは、悪い悪い」

「これ以上からかってくるなら、僕は帰るからね……!」


 どうやら、桂はからかいだと捉えているようだ。

 俺としては、思っていることを言っただけなのだが、これ以上言うと本当に帰りかねない。


「もう言わないよ」

「ふんっ、今度仕返ししてやるから……!」


 桂はそう言うと、赤くした顔のまま景色に視線を戻した。

 とりあえず、怒りが収まるのを待とう。


 そうして、景色を眺める桂をこっそり横目で見て、俺は時間が過ぎるのを待った。


「――うん、そろそろ行こっか」


 やがて、空が黒く染まり始めると、桂は俺のほうを見てきた。

 もう満足したのだろう。

 町が光によって彩られる夜景も綺麗だとは思うが、桂はそれを見るつもりはないらしい。


「じゃあ、ご飯を食べに――」

「――あっれ~? 二人とも、デートかな~?」


「「――っ!?」」


 踵を返そうとした時だった。

 聞き慣れた男の声が、背後から聞こえてきたのは。


 誰の声か認識するなり、俺たちは思わず身構えてしまう。

 いや、桂はもっと酷く、顔色が青ざめたものになっていた。


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