第18話「やらしいな」
「あ~あ、影之君が変なこと言うから、恥ずかしい思いをしたじゃないか」
ゲームセンターを逃げるように出た後、桂は不機嫌そうに唇を尖らせていた。
俺が原因なのは間違いないので、返す言葉もない。
「悪かったって」
「絶対悪いと思ってないでしょ?」
桂はジィーッと不服そうに見つめてくるが、俺はちゃんと反省している。
あんな口の滑らせ方をするなんて、ほんと気を抜きすぎだ。
ゲームの中とはいえ、間違えてもやり直しがきかないのは、現実と同じ。
「てか、さっき僕のこと『桂』って呼んだでしょ? もしかして、心の中ではずっと桂呼びしてるの?」
「えっ、月樹って呼んだだろ?」
「うぅん、桂だったよ。気付いてなかったんだ?」
いつ俺は桂と呼んだのだろう?
もともとやっていたゲームだから、心の中ではヒロインたちのことを下の名前で呼んでいるけど、口にする時は主人公を装って苗字呼びするように気を付けていたはずだ。
「悪い、気を悪くしたか?」
「うぅん、気にしてない。僕が下の名前で呼んでるのに、影之君が僕のことを下の名前で呼んだら駄目って、それは変でしょ?」
確かに桂の言う通りだろう。
とはいえ、コミュ力に
「いい機会だし、これからは僕のこと、桂って呼んだらいいじゃん」
「それは……」
この場合、どうするのが正解なのだろう?
シナリオでは、最後まで苗字呼びだった。
だけど、桂との距離を詰めるなら、下呼びにしたほうがいいと思う。
名前の呼び方を変えたからといって、さすがに大筋には影響しない、よな……?
「わかった、じゃあ桂って呼ぶよ」
俺がそう答えると、桂はニヤッと笑みを浮かべた。
「つまり、心の中では桂呼びしてたってことだね?」
「は?」
「いや~、影之君は女の子を、心の中では下の名前で呼ぶタイプか~。やらしいな~」
「いやいや、なんでそうなるんだよ?」
ニマニマとしながら俺をからかってくる桂に対し、俺は怪訝な表情を向ける。
「だってそうでしょ? 否定はしなかったし、僕が変えたらいいって言ったら、すんなり変えたんだから」
「……やっぱり、月樹呼びにしとく」
楽しそうな桂には悪いが、こんなことで変な噂を立てられたらかなわない。
女子たちから変な目で見られそうだ。
「わわ、ごめんごめん! 拗ねないでよ……!」
だけど、意外にも桂は慌て始めた。
別に慌てるほどではないと思うが……。
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