第16話「ハーレムでも作る気?」

「影之君ってさ、ハーレムでも作る気?」


 雛菊と別れた後、ゲーセン内を見て回っていると、突然そんな質問を桂がしてきた。


「急にどうした?」

「いや、なんか美麗ちゃんともいい感じなのに、僕とこうして二人きりで遊んだり、さっきの後輩の子にプレゼントしたりしてるから。聞く話によると、生徒会長ともいい雰囲気らしいじゃないか」


 生徒会長とは、最後のメインヒロインの優しい先輩だ。


 こうして言葉にされると、俺ってちょっとやばい奴?

 一応、シナリオになるべく沿って動いているだけだが……。


 桃花のことを桂が出さなかったのは、血が繋がっていないことを知らないからだろう。


「俺がハーレムなんか作れると思うか?」

「少なくとも、三人といい雰囲気になるくらいには、ハーレム主人公ムーブをしてるよね?」


 三人ということは、自分のことはカウントから外したのか。


「桂がそういう目で見てるだけで、全然いい雰囲気になんてなってないからな?」


 まだ個別ルートには入ってないのだから、メインヒロインたちといい雰囲気になるはずがない。

 さすがに、桂を救おうとして動いた結果、ハーレムルートに突入しました――なんてことはないだろう。


 そこまで俺は器量が良くない。

 なんせ、前世では年齢イコール恋人いない歴の男だったのだから。


「将来、女の子に刺されないようにしなよ?」

「現実でそんなことをする子はいないだろ?」

「わっかんないよ~? 物騒な世の中だからね」


 サブヒロインを救うどころか、自分がメインヒロインに刺されて死ぬなど、笑えもしない。

 さすがにそういう系のゲームではなかったから、刺されることはないと思うが。


 もしありえるとしたら、伏兵の桂くらいだろう。

 この子だけ、恋愛関係になった時の動きを知らないのだから。


 ――あっ、いや、生徒会長も怪しいな……。

 清楚可憐で優しい先輩なのに、ヤンデレ属性だったはずだ。

 個別ルートでは、そのヤンデレ具合を十二分に発揮していたことを、今思い出した。


 とはいえ、さすがに刺したりはしないと思うが……。


「とりあえず、俺はハーレムなんて作ろうと思ってないから、大丈夫だろ」

「……これが、彼の最後の言葉だった」

「おい、勝手に殺すな……!」


 縁起でもないことを言う桂に対し、俺はポンッと軽めに頭を叩いた。


「女の子に恨まれないよう、影之君と距離取っておこうかな……」

「大丈夫だから、変な気を回すな」


 桂の顔がニヤついているので冗談だとわかるが、彼女に避けられるようになったら本末転倒だ。

 ゲームの世界に入っている以上、『最初から始める』などできないだろうし。


「実際のところ、本命って誰なの?」


 わざわざこんなことを聞いてくるのは、学校で注目される女子たちといい雰囲気になっていると、勘違いされているからだろう。

 こういう話が好きなのは、やっぱり女の子だ。


「別に好きな人なんていないぞ?」


 本当は、本命は桂なのだけど、そんなの本人に言ったところで気持ち悪がられるだけだ。

 キザなイケメンでなければ、口が裂けてもそんなことは言えない。


「別に影之君の勝手だから、いいんだけど……将来修羅場になっても知らないよ?」

「ならないだろ……」


 なんだろう、なんか桂の機嫌悪い気がするな?

 怒らせるようなことは言ってないと思うが……。


「――あっ、僕あれやったことないんだよね。してみない?」


 不機嫌に思えた桂は、ゲーセン内を回っている最中に、大きめのボックスが複数置いてあるところを指さした。

 前世にもあった、加工ありの写真を撮ってくれる機械だ。

 特に女子やカップルがよく使っていたもので、縁がない俺は使ったことがなかった。


「意外だな、桂は女子とかと撮ったりしてそうなのに」

「僕、言うほど交友関係広くないよ? だから影之君と一緒にいるわけだし」


 本当にそうだろうか?

 雛菊が言ったように、桂の距離の詰め方は完全に陽キャだ。

 相手がよほどの引っ込み思案でない限り、彼女は誰とでも仲良くできるほどのコミュ力を持っている。


 それなのに交友関係が広くないと言うのは、転校初日から俺と一緒によくいることに対しての理由付けだろう。

 本当は、俺を監視しているだけなのだが。

 

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