第14話「懐疑的な眼差し」
「――それにしても、変な感じだね。こうして二人で遊びに行くなんて」
放課後、二人で街中を歩いていると、隣を歩く桂が俺の顔を見上げてきた。
「つい先日も、一緒に丘に行ったじゃないか」
「あれは遊びに行ったわけじゃないし。まぁあれも、デートと言えばデートなんだろうけど」
風景を見に行くのも、男女二人きりだとデートに見る人間は多いだろう。
桂は特にそう思っていないようだが。
あくまで他人事のように聞こえるし。
「デートデートってよく言ってるけど、デートに憧れてるのか?」
「そりゃあ、こう見えても女の子ですから? 白馬の王子様とのデートは夢見ますけど?」
俺の質問をからかいだと捉えたのか、桂はニヤッと笑みを浮かべて返してきた。
「悪かったな、白馬の王子様じゃなくて」
ゲームの主人公に転生したとはいえ、生憎イケメンではない。
しかもどちらかといえば、不愛想で人相が悪いキャラだろう。
少なくとも、白馬の王子様という柄ではない。
「……ねぇ、影之君。つかぬことを聞くんだけど、君昨晩何してた?」
不意にされた質問。
まさかこんな質問をされるなど思っていなかった俺は、反射的に桂を見てしまう。
そして桂は、試すような目で俺を見つめてきていた。
「普通に家でゲームしてたぞ? 桃花に聞いてみるといい」
「へぇ……」
俺の答えがまずかったのか、桂は目を細めた。
まるで、疑いが強まったとでも言わんばかりに。
「なんだよ?」
「いや、ね。今の質問に対して、前者の答えはよくあることだと思うんだけど――その後なんで、桃花ちゃんに聞いてみるといいなんて言ったの?」
どうやら、その部分が桂にとって引っかかたようだ。
「何かおかしいか?」
「おかしいでしょ。友人同士がするなんでもない日常会話で、なんでアリバイがあるってことをアピールする必要があるの?」
なるほど、俺は確かにアリバイがあるという意味で、桃花に聞いてみろと言った。
しかし、桂の質問は俺に何をしていたか聞いていただけで、別に疑っているような言葉ではなかったのだ。
俺が疑われている自覚があるから、アリバイのことまで持ち出したんだろ、と桂は言いたいらしい。
「いや、なんか知らないけど、桂が疑うような目を向けてきたからだろ?」
「僕は単に、何をしていたのか知りたかっただけだけど?」
明らかにこちらを試すような目をしていたわけだが、本人は認めるつもりはないようだ。
もしかしたらあの目も、誘いだったのかもしれない。
「目がそうは言ってなかったぞ?」
桂が疑ってくるのは仕方がない。
だけど桂自身、俺を疑っているからそういう目で見てしまっている、という自覚はあるだろう。
それならば、誤魔化すことは難しくない。
先程の俺の返答だって、必ずしもしないものではないのだから。
「ふ~ん……まぁいっか」
どうやら桂は、これ以上追及をするつもりはないらしい。
手を引いてくれてよかった……が、正直焦った。
こんな会話、ゲームにはなかったはずだ。
「急にどうしたんだよ?」
「いや、なんでもないよ。ただ、昨日影之君に似た人を見かけたんだ」
「似たって……顔がか?」
「うぅん、骨格だね。顔は仮面で隠してたし、声は君よりも低かったけど――まぁ、声なんて意識して変えられるからね。でも、骨格はそう簡単に変えられない」
昨日、俺に気付いている様子はなかった。
おそらく、帰って冷静になってから、俺だったのかもしれないと思ったのだろう。
見逃したのも、友人だから見逃した――と、考えているのかもしれない。
「おいおい、仮面って……そいつ、変質者だったんじゃないだろうな? 大丈夫だったのか?」
「あはは、大丈夫だよ。少なくとも、真逆じゃないかな? 紳士な人だったと思うよ」
「紳士……? 夜に仮面をつけてるような奴が、か……?」
「まぁ身バレしたくない理由があったんだろうね」
そう言いながらも桂は、俺の表情や態度を観察しているようだった。
……厄介なものだ。
俺は現在、《ギフト》を切っている。
なぜなら、《ギフト》を使ってしまっていると、近くで緊急時に《ギフト》を使おうとした人の力を、封じてしまうことになるからだ。
確率が低いとはいえ、ゼロではない。
だから俺は、任務の時以外発動させない。
しかし、何が厄介かと言えば――桂の《ギフト》が、任意の相手を操れるという催眠能力ということだ。
もちろん、発動中に操れるのは一人だけだし、目を合わせている時にしかかけられない、という発動条件もある。
だけど操られた相手はその間記憶がないので、とても厄介な能力なのだ。
その能力に《神々の使徒》は目を付け、桂を無理矢理仲間にしている。
「あまり夜は出歩かないほうがいいんじゃないか?」
桂の力を警戒して《ギフト》を使ってしまうと、それはもう正体をばらすようなものなので、俺は桂の目を見ないようにしながら会話を続ける。
当然めざとい桂がそれに気付かないはずがないのだが、今日一日くらいは誤魔化せるだろう。
桂の催眠は、ガラスなどを通して目を見た相手にはかからないため、明日からは視力が落ちたということで、伊達眼鏡をしておけばいい。
「ふふ、まぁ、そうだね。僕ってかわいいから、気を付けないと」
「あぁ、そうだな」
「……いや、なんで普通に肯定するのさ」
俺の反応が予想外だったのか、桂が顔を赤くしながら物言いたげな目を向けてきた――気がする。
くっ、絶対かわいい表情してるだろうに、目を見ないようにしないといけないから、見れないじゃないか……!
めんどくさい《ギフト》を持ってる設定にするなよ、スタッフ……!
俺は内心そんな文句を開発者に言いながら、口を開く。
「性格はともかく、顔はかわいいと思ってる」
「――っ!? ふ、ふん、お世辞なんて言われたって、嬉しくないから……! てか、性格はともかくとか、余計だし……!」
桂は恥ずかしかったのだろう。
プイッとそっぽを向いて、ブツブツと文句を返してきた。
だけど、耳は真っ赤に染まっている。
こういうところもかわいいんだよな。
普段、さっぱりした性格をしているようだから勘違いされやすいが、あれは演技であって、素の桂は結構ツンデレなのだ。
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